1章3話「冒険者学校高等部へようこそ」
2026/8/7更新:後書きを追加。
後半は “ ダンジョン基礎講義 ” で少し長めです。
読めば世界観をより楽しめるかと思いますが、読まなくても本編の理解に支障はありません。
ラブコメだけを追いたい方は、軽く流し読みでも大丈夫です。
(後半にあるラブコメ要素は、本当に少しだけです)
◆
バスを降りて、校舎へと向かう坂道を上りきると、
“ これから冒険者になるための日々が始まるんだ ” という実感が、じわりと胸の奥に広がった。
ワクワクが抑えきれず、鼓動とともに、俺の歩く速度も自然と速くなってしまう。
「……そんなに急がなくても、授業は逃げないよ。」
「いや、だってさ! ついに “ 冒険者学校の授業 ” だぞ!?
テンション上がるだろ!」
「……ふぅん。」
興味なさそうに返すくせに、歩幅はちゃんと合わせてくれる。
そういうところは、昔から変わらない。
一年二組の教室に着き、扉を開けると、
すでに何人か生徒が登校してきていた。
机を寄せて話しているグループ。
黙々と教科書を読んでいる生徒。
ざわついた空気が、いかにも “ 新学期 ” って感じだ。
そんな中、ひときわ明るい声が飛んできた。
「おっす倫太郎! 今日から本格的に授業だな!」
彼の名前は佐伯陽斗。
茶髪でツーブロックのショートヘアに、快活な笑顔。
背がとても高く、肩幅も広いが、筋肉がないというわけではない。
陽キャな外見の通り、趣味もアウトドアスポーツ全般だ。
学生服は俺と同じ組み合わせだが、
トレランシューズは黒色をベースに、細い青ラインが入っている。
明るく社交的で、誰とでもすぐ仲良くなれる、気のいい奴だ。
実際、俺も入学式のあとで少し話しただけなのに、一瞬で友達になれた。
「おはよう、陽斗。 テンション高いな!」
「当たり前だろ! 冒険者学校だぞ!? 燃えるに決まってんだろ!」
そこへ、彼と同じ中学校出身の女の子。
雨宮夕雨がしずくの方へ歩いてくる。
「しずくちゃん、おはよう。昨日はちゃんと休めた?」
「おはよう、夕雨。……うん。ありがとう。」
彼女は、ショートヘアのしずくとは対称的に、
長い黒髪を肩の辺りで赤いシュシュで束ねて右肩前に垂らして、
ルーズサイドテールにしている。
彼女の学生服も、しずくと同じ組み合わせだが、
スカートと白いトレランシューズには、細い赤のラインが入っている。
スカートの丈は、ふくらはぎの辺りまで伸びており、上品さを感じさせる。
そして、落ち着いた雰囲気からこぼれる柔かな笑顔は、どことなく母性を感じさせる。
もちろん胸も大きく、男子生徒からの注目は非常に高い。
俺達は、それぞれ同じ中学から進学している。
しかし、中学から冒険者学校に進学する生徒は、決して多くない。
それは冒険者が、危険と隣り合わせの職業だからだ。
実際、俺の友達はみんな別の学校に行ってしまい、正直ちょっと心細かった。
そんな中で知り合ったのが、陽斗と雨宮さんだ。
2人がいてくれるだけで、なんか安心する。
しずくも雨宮さんとは気が合うのか、ぎこちなくも優しい笑顔を返している。
そんなしずくの姿をじっと見つめていると、
しずくが一瞬だけ俺を見たが、すぐに視線をそらしてしまった。
雨宮さんはその様子に気づいて、くすっと小さく笑う。
……ほんと、なんで俺だけ、こんなに塩対応なんすかね?
俺は自分の席に荷物を置くと、クラス全体を見渡してみた。
こそこそと女子の話をしている男子。
友達と話しながら、ちらちらと男子をのぞき見する女子。
すでに距離が近い男女もいる。
カースト上位っぽい男女の集団や、気の合う仲間で固まっている小規模グループ。
そして、ひときわ目立つ金髪ギャルの女子――
校則が緩い冒険者学校ならではの、自由な雰囲気をまとっている。
気だるげに机に突っ伏しているが、存在感は抜群だ。
(……いいねぇ。青春って感じだ。)
ここからどんなラブコメが生まれるのか。
俺は期待に胸がふくらむのを感じた。
四人でしばらく話していると、授業開始のチャイムが鳴った。
すると、騒がしかった教室の空気を断ち切るように、
ドアが勢いよく開き、長身の男がずかずかと教室に入ってきた。
「席につけ、お前ら。」
茶髪でサイドと後ろを短く刈り上げた、スポーツ刈りの頭。
灰色のカーゴパンツに、ダークグレーのコンプレッションインナーと黒い革ジャン風の戦闘服を着ている。
クラスの誰よりも背が高く、筋肉質で、
サングラスをかけたら米国軍人に間違えられそうな顔の、熱血気味の先生。
我らが一年二組の担任――黒鋼先生だ。
「今日からお前らは “ 冒険者の卵 ” だ。
命を張る覚悟を持て。
だが、死ぬ気でやれとは言わん。
俺が死なせねぇように鍛えてやる。」
教室の空気が一気に引き締まる。
「まずは自己紹介だ。前から順にいけ。」
俺たちは、自分の順番が回ってくると、席を立ち自己紹介をしていった。
「岡田倫太郎です。えっと……まだ何もできませんが、
ここで強くなりたいと思ってます。よろしくお願いします」
自分でも “ 普通だな ” と思うくらい無難な挨拶だ。
でも、黒鋼先生はしっかりうなずいてくれた。
「水無月しずくです。……よろしくお願いします。」
しずくは相変わらず淡々としている。
けれど、その小さな声に、女子から「かわいい」と小さなざわめきが起き、
男子の何人かは、思わず姿勢を正して、しずくを見ていた。
……ただし、しずく本人は、そんな視線にまったく気づいていないわけだが。
「雨宮夕雨です。えっと、まだ分からないことばかりですが、
みなさんと仲良くできたら嬉しいです。よろしくお願いします。」
雨宮さんのやわらかい声に、男子がざわつく。
何人か頬を赤らめ、ぼーっとした表情で眺めていた。
「俺は佐伯陽斗! 前衛やる予定だ! みんな、よろしくな!」
陽斗は明るく元気に締めて、クラスの空気が一気に明るくなる。
そして、クラス全員の自己紹介が終わると、黒鋼先生は黒板に大きく文字を書きだした。
「よし、自己紹介が終わったな。
今日の一限目は “ ダンジョン基礎講義 ” だ。
冒険者を目指すなら、まずは知識から叩き込む。」
冒険者学校では、一般教養のほかにダンジョンの知識や訓練が組み込まれている。
そのため、各授業の密度は濃く、一般教養は出される宿題も多い。
授業が始まった瞬間、クラスメイト達の表情は真剣なものとなった。
「ダンジョンは “ 階層型 ” が基本だ。
ダンジョンの上層は弱い魔物が多いが、下層に行くほど危険度が跳ね上がる。
そして最深部には “ 核 ” が存在し、
これを破壊するとダンジョンは消滅することが分かっている。」
(……核って本当にあるんだな。)
「魔物は大きく三種に分かれる。
“ 獣型 ” 、
“ 人型 ” 、
“ 霊体型 ” 。
特に霊体型は冒険者が最も苦戦する魔物だ。」
(……確かに、霊体型は前世で俺も苦手だった。)
「ダンジョンも魔物も、難易度の低い方からF~A, Sランクとなっている。
そのあたりのランク付けは、冒険者等級と一緒だな。」
「魔物を倒す方法だが、奴らがダンジョン内にいるうちは、
ダンジョンの外にある武器がほとんど効かん。
ダンジョン素材で作った武器か、素手で攻撃しろ。」
教室がざわつく。
(……このあたりは前世と違う。なにか理由があるのかな?)
黒鋼先生はチョークを置き、こちらを見渡した。
「それと、ダンジョンの入口、
“ ゲート ” についても覚えておけ。」
「ゲートは、地面や壁に穴が開いてるわけじゃねぇ。
見た目は鏡みたいに揺らめいていて、
触れた先が “ 別の場所 ” につながっている。」
「ゲートの向こうは、地球とは別の空間だ。
だが、なぜか “ ゲート周辺の環境に似た場所 ” につながっていることが多い。
森の中にゲートがあれば、向こう側も森。
山なら山、海なら海……そんな具合だ。」
「理由はまだ分かっていない。
だが一つだけ確かなのは、
――ゲートの向こうは、地球の常識が通じねぇ場所だということだ。」
生徒たちが息をのむ。
(……ゲート、か。
前世でもあったけど不思議だよな。誰が作ったんだろう。)
黒鋼先生は続ける。
「ダンジョンが50年前に出現して以来、
何度も “ 異常発生 ” を起こしてきた」
「異常発生とは、
魔物が強化されたり、階層構造が乱れたり、
イレギュラーボスが出現する現象のことだ。」
「だが、安心しろ。
国はすべての異常発生を記録し、対策を講じてきた。
学校の授業で扱うF~Dランクダンジョンでは、異常発生は確認されていない。」
黒鋼先生は、チョークを置きながら言った。
「この50年間、多くのことがわかってきたが、いまだに未知は多い。
だからこそ、冒険者は冷静でなければならん。
異常発生は珍しいが “ 知っているかどうか ” で生存率は大きく変わる。」
「冒険者ランクが低いうちは、入れるダンジョンも限られる。
お前らは全員 “ Fランク候補 ” だ。
明日からの実技訓練に合格すれば、正式にFランクとして認められる。」
「最後に、厳しいことを言うが
Fランク冒険者の一年間の死亡率は3%だ。
そして、FからEに上がれるのは毎年半分だけだ。
ここから先は “ 生き残るだけじゃ足りねぇ ” 。
実力を示せなきゃ、冒険者として食っていけねぇぞ。」
クラスがざわつく。
死亡率が高く、冒険者専業で十分な収入が得られるのはCランクから。
……このクラスの中で、何人が生きてそこまで辿り着けるんだろう。
「雨宮、大丈夫か?」
「う、うん……ありがとう、陽斗くん。」
顔色を悪くした雨宮さんに、陽斗が優しく話しかける。
……この2人、雰囲気がまるで熟年夫婦なんだよな。
本当に、付き合ってないのが不思議なくらいだ。
ただし、こういうのは、外野が茶化すと関係がこじれることが多い。
だから俺は静かに見守る派だ。(キリッ)
「しずかにしろ。」
黒鋼先生の声で、教室が一瞬で静まり返った。
「厳しい現実を突きつけたが、ダンジョンを甘く見た連中の末路だ。
正しい知識と訓練は裏切らん。
だからこそ、俺の授業は絶対にサボるな。基礎は命を守る最後の砦だ。」
この世界には、ゲームみたいな “ パーティ補正 ” も “ 魔法 ” もない。
怪我をしたら痛いし、死んだら終わりだ。
だからこそ、 “ 知識と準備 ” が命を守る。
俺は、絶対に死にたくない。
でも――
前世で中途半端なまま終わってしまった自分を、ずっと後悔している。
他の職業でも生きていける。安全に。普通に。
だけど……それじゃあ、また同じ後悔を繰り返す気がした。
冒険者になりたいという気持ちは、もう止められなかった。
その後もダンジョンに関する講義が続き、
気がつくと授業終了のチャイムが鳴り響いていた。
「明日から実技訓練に入る。
武器の扱い、基礎体力、連携……全部やるぞ。」
黒鋼先生の言葉に、教室がざわつく。
明日から、ついに “ 冒険者としての訓練 ” が始まる。
俺は、自分の胸が高鳴るのを抑えられなかった。
TIPS:冒険者
・冒険者は資格制となっており、認定ランクは高い方からS, A~Fランク。
・Cランク以上で十分な収入が得られる。
Eランク以下の収入では冒険者一本で生活するのは厳しい。
TIPS:ダンジョン(情報更新)
・ダンジョンにはゲートという入口があり、ゲートの先は別の空間につながっている。
・ゲートの先は、ゲート周辺の環境に、ある程度酷似していることが知られている。
TIPS:ゲートの先の空間
・ゲートの先は “ 地球とは別の法則が働く空間 ” 。
・明確に解明されておらず、現在の有力説としては以下の通り。
▶地球側の環境情報を参照して、ゲート先の空間として自動生成される
▶どこか異世界に接続している
▶未知の存在が “ ダンジョンとして創った ” という説もある
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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