3章8話「襲い来る脅威」
迫りくるウルフの突撃を、晴斗と藤宮君が正面で受け止めた。
七体のうち五体は押し返されたが、二体が左右へ迂回してくる。
「しずく!」
「わかってる!」
右は俺、左はしずくが迎え撃つ。
牙を立てて飛びかかるウルフの顎を、俺は下から小盾で突き返す。
カウンター気味のシールドバッシュがうまく入り、ひるんだ相手の頭を片手剣で叩き潰した。
しずくの方に視線を向けると、ウルフが低空から爪の連撃を仕掛けていた。
しかし、しずくは冷静に短剣二刀を操り、連撃を受け流す。
そのたびに敵は傷つき、動きが鈍った瞬間、短剣が相手の喉元を正確に切り裂いた。
晴斗と藤宮君のところにウルフが五体残っている。
二人が心配になり目を向けると、雨宮さんが遠距離からウルフをけん制して、うまく足止めしてくれていた。
「晴斗、藤宮君! 援護に入る!」
俺達は、敵の増援がないことを確認して、二人のもとへ駆けだした。
晴斗が敵の突進を盾で受け止め、藤宮君が敵の側面に滑り込み、短槍の柄を当てて押し返しながら距離を取る。
そこへ相手を挟み撃ちにするように俺としずくが追撃を重ねると、敵は倒れ地面に崩れ落ちた。
「よし!
敵がいない今のうちに、丘まで急ごう!!」
怪我人の撤退補助をしていた白石さんと合流して、俺たちは丘に到達する。
しかし、魔物の襲撃は止まらない。
負傷したパーティーが次々と集まってくるが、黒鋼先生の姿はまだ見えない。
殿として魔物と戦い続けているのだろう。
そして──
草むらの奥から、異形の姿が三体現れた。
通常のゴブリンよりも二回り大きい体躯。
異様に膨れ上がった筋肉。
赤く光る目。
黒ずんだ皮膚に浮かぶ、呪いのような紋様。
イレギュラーボスだ。
頭では理解していた。
ダンジョン異常が起きているなら、イレギュラーボスが出てもおかしくない。
だが、出てほしくないという願望が、その可能性を無意識に遠ざけていた。
黒鋼先生が、黙ってコイツらを通すはずがない。
きっと、向こうでも複数体を相手取っているのだろう。
「来るぞ……!」
イレギュラーボスの一体が突進してくる。
俺達六人は即座に陣形を組んだ。
陽斗が盾で受け止めるが、衝撃で足が滑る。
「くっ……重い!」
そこに藤宮君がフォローに入り、二人がかりで抑える。
だが、押し返すには力が足りない。
しずくが、敵の横にまわりこみ、短剣で斬り込む。
しかし、相手は異常な速度で反応し、刃を軽々と受け止めた。
イレギュラーボスの横から、通常のゴブリンが藤宮君に襲い掛かる。
敵の攻撃が直撃する瞬間、雨宮さんが援護射撃で相手の胴体を貫き、藤宮君の危機を救った。
「助かったよ、雨宮さん!」
一瞬の隙を逃さず、白石さんが煙玉をイレギュラーボスの頭部に投げる。
「みんな、今だよ!」
白煙が広がり、イレギュラーボスの視界が奪われる。
その隙をついて、俺としずくが動いた。
白煙に包まれていない、イレギュラーボスの足に斬撃を繰り出す。
相手も反撃しようとするが、既にその場所から俺達は離脱している。
「グォオオオオオ!!」
咆哮とともに、陽斗と藤宮君が弾き飛ばされる。
そして煙が晴れると、イレギュラーボスが残り二体とともにこちらへ歩き出した。
俺は、とっさに戦況を観察する。
(周りの皆は……? やられていない。
イレギュラーボスも増えていない。 集まっただけだ。
周囲には、二組の仲間たちが集まってきて、様子をみている。
どう手出しすればいいか、わからないって感じだな。)
「タンク役は、半分前へ出てきてくれ!
各自の判断でいい、相手の攻撃を抑えてほしい!
陽斗、彼らの指揮は任せた!
後方援護は、雨宮さんのところへ!
雨宮さん、ごめんだけど、何隊かに分けて指揮をお願い!
白井さん、全体補助と治療班との連携を頼んだ!」
俺は、現状でできる限りの判断を下す。
そして、しずくとともに、敵への攻撃に集中した。
幾重にも続く剣戟のなか、次第に自分の意識が " 周囲より加速していく " のを感じる。
反応が鋭くなり、視界の隅で、赤い粒子が浮かぶのが視える。
(……今なら、できるかもしれない)
それが何かはわからない。
胸の奥で燃えるように、その熱が全身に広がっていくようにイメージする。
身体が軽くなる。
頭が冴える。
相手の動きが “ 視える ” ようになる。
敵に攻撃する。
一撃、二撃……掴めてきた。
しずくに " 先行する " と合図を送り、敵に向かって駆け出す。
イレギュラーボスの横から、背後から。
時には二体以上を相手取りながら、斬撃を重ねていく。
相手の攻撃を紙一重で避け、剣を叩き込む。
互角に戦えている。
──だけど、押し切るにはまだ足りない。
「くそっ……まだ倒れないのか!」
イレギュラーボスが咆哮し、再び突進してくる。
その瞬間──
「そこまでだ!」
冷気が草原を走り、空気が一瞬で凍りつく。
氷の刃がイレギュラーボスの足を貫き、動きを奪った。
──水・氷系統の最上位事象系スキル
(このスキルを扱えるのは……)
草むらの向こうから、白い息を吐きながら現れたのは、一組の氷室先生だった。
「遅れてすまない。ここから先は私が引き受ける。」
俺達のピンチに、頼もしすぎる助っ人が現れた。




