3章7話「ダンジョンの異常、再び」
──明らかな異常がダンジョンに発生している。
魔物の群れの先頭には、ウルフの大群。
その後方にはゴブリンの大群が続き、明確な殺意をもって迫ってくる。
通常、Eランクダンジョンの魔物であれば、単体なら生徒でも対処可能だ。
しかし群れで襲いかかるのであれば、Dランク相当にもなりうる。
ただし、それも群れの魔物が三~五体程度の場合であればだ。
今回の群れは、まさに桁違いだった。
見える範囲にいる魔物だけでも数十体。
群れ全体の数は、最終的に数百体に及ぶと考えるべきだ。
恐るべき数の魔物の襲来に、生徒達は足をすくませ、武器を持つ手が震えていた。
しかし、その沈黙を破るように、黒鋼先生の声が響く。
「全員、まずは集まれ!
ばらけていると魔物の波に飲まれるぞ!」
いつもと変わらぬ毅然とした言葉に、生徒達は徐々に気持ちを立て直し始める。
「いいか、ここにいるのは俺たちだけじゃない!
氷室先生と天城先生もいる!
まずは合流を目指す!
各パーティーのリーダーは、パーティーメンバーが全員いるか確認しろ!」
黒鋼先生の言葉に、リーダー達は慌ててメンバーを確認する。
そして、全員が揃っていることを確認すると安堵の息を吐いた。
「よし、全員いるな!
ここは草むらで視界が悪い、こんな場所で迎え撃つのは自殺行為だ!
他の先生方も、ゲート近くの高台に向かっているはずだ!
そこまで移動して迎え撃つ!」
この草むらの高さでは、ゴブリンやウルフの姿は隠れてしまう。
襲いかかってきたのが一匹なら何とかなるだろう。
しかし、複数の魔物が同時に襲いかかってくる状況が続いたら、対処できなくなるはずだ。
背後の魔物の気配に恐怖を感じないわけではない。
気が狂いそうになって、逃げ出したくなる気持ちを必死に落ち着かながら。
俺たちは、黒鋼先生の背中を追い、草むらや丘を抜けて高台を目指した。
一つ目の丘を越えた時、歩いてきた方向とは別の草むらからガサッと音がした。
そこに視線を向けると、複数の影が見える。
俺たちの間に緊張が走る。
咄嗟に武器を構え直していると、黒鋼先生が大きく声を張り上げた。
「こちら二組、黒鋼が率いるメンバーだ! そちらは誰だ!」
その声で、俺たちは他の先生と合流するために移動していたことを思い出す。
「黒鋼先生ですか!?
こちら天城です、生徒は全員無事です!」
その声と共に、草むらをかき分けて現れたのは、三組の天城先生たちだった。
生徒たちも汚れてはいるが大きな怪我はないようだ。
思いがけなかった合流により、俺達の表情は一気に明るくなる。
──しかし安心する暇はなかった。
草原の奥から地響きのような振動が伝わってくる。
風に揺れる草むらの向こうで、黒い影が波のようにうねっている。
魔物の群れが、すぐそこまで迫っていた。
「天城先生。
ここで襲われるわけにはいかない、次の丘で陣形を作りましょう!
俺が殿を務めるので、後方で支援と治療を頼みます!
魔物と交戦しながら、みんなで高台まで後退していきます!」
黒鋼先生の迅速な判断と主導のもと、俺たちは複数のグループに分かれて次の丘を目指した。
近くまで迫る魔物の群れとの闘いで、少しでも有利を取って戦えるように。
焦る気持ちを抑え、俺たちは丘へと駆け出した。
◆
あれから、黒鋼先生と前衛で余力があるメンバーは後方で殿を務めてくれた。
天城先生と残ったメンバーは、二手に分かれた。
一つが、急いで丘を越えて陣地を作成する組。
一つが、怪我で急ぐことができないメンバーを護衛しながら丘へ向かう組だ。
俺たちは後者で、怪我人を護衛しながら丘へ向かっている。
遠くに見える丘の上では、陣地が敷かれて、迎撃準備を整え始めているのが見えた。
「丘まであと少しだ!
天城先生が迎撃と治療の準備してくれている!
あと少しだけ頑張ろう!」
俺はパーティーを安心させるために声をかける。
「晴斗、藤宮君! 後方はどうだ!」
「魔物とは、まだ距離がある!
俺たちが踏みしめた草で接近はされやすいが、その分やつらとの距離が掴める!」
「魔物の姿はまだ見えない、大丈夫だよ!」
焦る心を抑え、仲間に指示を出す。
「魔物が来た時の動き、確認するぞ!
しずくは俺と一緒に晴斗と藤宮君のもとへ!
雨宮さんは後方で援護射撃、敵の動きを止めて!
白石さんは撤退の補助を!」
「わかった、倫太郎!」
「後ろは任せてね! 倫太郎くん、しずくちゃん!」
「まかせて! 無事に送り届けて見せるよ!」
このまま何事もなく、たどり着くことができれば……
──しかし、その願いは叶わなかった。
視界の端に魔物の影が迫る。
「倫太郎、来たぞ! 後ろは任せる!
いくぞ、湊!」
「うん!」
晴斗が盾を、藤宮君が短槍を構える。
ここまで魔物が迫ったということは、黒鋼先生の方ではすでに戦闘が始まっているはずだ。
──丘まであと少し。
負傷者を守りながら進む俺たちに、魔物の群れがついに牙を剥いた。




