3章4話「特別訓練開始と、それぞれの課題」
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午後の授業は、特別訓練演習。
学校所有のEランクダンジョンに到着すると、すでに黒鋼先生ほか一学年の先生たちが待っていた。
「よし。みんな揃ったな。
午後はEランクダンジョンで特別訓練をする。
まずは全員でダンジョンに入り、個々の動きを確認するぞ。
各自、希望する先生と一緒に移動を開始しろ。
ダンジョン内では自由に魔物と戦っていい。
教師陣が順番に見て回るから、普段どおりに動け。」
一年一組~三組は、それぞれの成長や適正に合わせた教師が担当している。
一組担任、氷室玲先生。
一組には優秀な生徒やスキル保有者が多いため、スキル運用・戦術理解に優れた氷室先生が担当している。
黒鋼先生よりやや背は低いが長身で、細身に鍛えられた体躯。
青みがかった銀髪ロングを黒のヘアタイで縛って流し、白衣風の戦闘服を着こなしている。
端正な顔立ちと鋭い瞳から冷たい印象を受けるが、実際は言葉に棘はなく面倒見のよい先生だ。
二組担任、我らが黒鋼剛志先生。
二組には平均的な成績の生徒が多く、地力の向上で成績が伸びる者が多いため、基礎・実戦指導に優れた黒鋼先生が担当している。
三組担任、天城みのり先生。
三組には成績は低いが “ 潜在能力あり ” と判断された生徒たちが多いため、ダンジョン知識・生存技術に優れた天城先生が担当している。
生徒と間違われるほどの身長だが、スタイルの良さと包容力のある雰囲気は別格だ。
柔らかな茶髪ロングをバレッタで留めたハーフアップにしており、淡いクリーム色の七分袖ブラウス風の戦闘服を着こなしている。
生徒からは「みのりちゃん先生」と呼ばれるくらい、とても親しまれている先生だ。
俺たち六人は基礎・実戦の課題が多いと自覚しているため、特別訓練では黒鋼先生に見てもらうつもりだ。
希望制とはいえ、実際は成長や適正に合わせたクラス分けがされているため、担任以外を選ぶパーティーはほとんどいなかった。
藤宮君と白石さんは普段は二人でパーティーを組んでいる。
藤宮君は短槍とガントレットを器用に使い、白石さんは短剣・携帯型飛び道具・補助用魔道具を扱って戦うらしい。
戦闘ではお互いが前衛・中衛を兼任していて、藤宮君がやや前衛より、白石さんがやや後衛よりでお互いをフォローしているようだ。
それに対して俺たち四人は
・前衛:陽斗
・中衛:俺としずく
・後衛:雨宮さん
という役割分担で戦っている。
ここに二人が加わるわけだが、連携の練習をせずに息を合わせるのは難しい。
だから今回は、藤宮君には前衛の補助をしてもらい、白石さんには後衛や戦闘補助を行ってもらうことにした。
ダンジョンのゲートをくぐると、視界が一気に開けた。
遠くを覗くと広大な草原が広がっており、風に揺れる緑の向こうには小さな丘が点在している。
草むらの辺りをもっと目を凝らして見てみれば、そこかしこで魔物の影がゆらめいていた。
このダンジョンの中では、主にウルフとゴブリンが出現する。
先生から聞いてはいたが、すでにヤツらは俺たちを待ち受けているようだ。
ウルフは灰色の毛並みと黄色い目を持つ、中型犬ほどの大きさの魔物だ。
攻撃するときは、鋭い牙と爪を武器に飛びかかってくる。
群れで行動することが多く、単体ではDランクだが、群れでの強さはCランクに匹敵する。
群れでは一番強い個体がリーダーとして君臨するため、そいつが倒されれば統率が崩れる傾向がある。
だが、この草原のように見通しが悪い場所では、リーダーを見分けて群れを瓦解させるのはほぼ不可能と言っていい。
二組のパーティーたちは、丘を越えて草原まで辿り着き、魔物と戦い始める。
俺たちも魔物と戦い始めると、そのすぐ後に黒鋼先生から鋭い声が飛んできた。
「倫太郎!
すぐに動ける姿勢を意識しろ!」
「足運びが硬い!
もっと滑らかに踏み込め!」
「視野が狭いぞ。
前だけ見るな、横と後ろにも気を配れ!」
「陽斗、前に出すぎだ! 一歩下がれ!
戦場全体を意識して自分の位置を決めろ!」
「水無月!
肩に力が入りすぎだ!
攻撃の瞬間以外は無駄な力は抜け!」
「雨宮、射線が味方に被ってる!
メンバーの動きを見て、早めに位置取りを変えろ!」
「湊と白石、もっと声を出せ!
黙っていては連携は生まれん!」
黒鋼先生のアドバイスはどれも端的だが的確だ。
言われるがままに動きを改善していくと、魔物との戦闘が確実にスムーズになっていくのを感じる。
そして、しばらく戦闘を続けた後、黒鋼先生が声を張り上げて休憩を告げた。
「よし。
俺と一緒にダンジョンに入ったパーティーは集まれ。
一旦休憩とする。
その間、各自に今後の課題を伝えるから、参考にしてくれ。」
黒鋼先生は周りにいる二組のパーティーたちに、パーティーでの各自の動きの指摘をしていく。
「身体の使い方と武器の選択が合っていないから、肉厚で重い剣を使ってみろ」
「踏み込みが浅いから、恐怖心に打ち勝って思い切りいけ」
など、どれも言われてみれば納得のものばかりだった。
そして、俺達のパーティーの順番がやってきた。
「倫太郎。
おまえの動きは確かに良くなっている。
だが、それは “ 基礎が身についてきた ” というだけだ。
姿勢、足運び、視野――
この三つが無意識にできて、ようやくスタートラインだ。
基礎が固まれば、そこから先の “ もう一手 ” に手が届く。
焦らず積み上げろ。」
「水無月。
武器を変えてから、動きがだいぶ良くなったな。
身体の使い方と武器の特性が、少しずつ噛み合ってきている。
慣れるまでは力みも出るだろうが、それは自然なことだ。
あとでフォームを見てやる。
正しい動き方を覚えれば、もっと伸びる。」
「陽斗。
おまえは防御の要だ。
どれだけ練習しても足りることはない。
後悔のないように、一回一回の戦闘を振り返り、考えて動け。」
「雨宮。
パーティーメンバーがどう動くか、どう動きたいかを考えて行動しろ。
集団戦闘での射線管理とはそういうものだ。
大丈夫だ、少しずつ良くなっている。おまえならできる。」
「最後に、湊と白石。
おまえらの課題は、連携の強化だな。
互いに信頼はある。
しかし、遠慮が邪魔をしている。
戦闘では命がかかっているんだ。
遠慮して相手を怪我させる――そんなことは絶対にするな。」
俺たちは、それぞれが黒鋼先生からもらった課題を胸に刻んだ。
俺たちはEランクダンジョンを何度かクリアしているが、一つ一つの動きを意識してみるとまだまだ課題は出てくる。
今回の特別訓練を受けて、それがよく分かった。
俺自身も、確かに “ 悪くない動き ” はできている。
以前よりスムーズに動けるようになった。
だが――
(……あの時、イレギュラーボス戦で出した力は何だったんだ?)
胸の奥に、拭えない疑問が残る。
その様子を見ていた黒鋼先生が、ふと眉をひそめた。
(……本人は気づいていないようだが、倫太郎は大規模演習以降、戦闘時の反応が明らかに鋭くなっている。
この変化は、過去に確認された “ マナ覚醒者 ” の兆候とよく似ている。
やはり倫太郎のあの力は “ マナ覚醒者 ” 特有のスキルだったのか?)
それは、外側ではなく “ 内側に潜む何か ” を確かめるような、静かな眼差しだった。




