3章2話「補習の中でみた、俺のオアシス」
◆
補習初日。
大教室に入り空いている席に座ると、チャイムが鳴って黒鋼先生が入ってきた。
教室を見渡すと、俺たち以外にも多くの生徒がいた。
ざっと一学年の四割ほど。
通常教室では入りきらないため、今日は研修棟の大教室が使われている。
補習といっても内容は “ 基礎の叩き直し ” 。
希望者は自由に受講できる。
この学校では二年の終わりまでに、Dランクダンジョンを安定攻略できなければ、冒険者一本で食べていくのは難しい。
Eランクまでの魔石は大量供給されており、国が冒険者支援のために利益度外視で買い取りしている。
それでも収入は雀の涙ほどで、まともな収入が得られるのはDランク以上の魔石からだ。
そして、Dランク以上の魔物は連携が取れていないと事故が起きやすい。
冒険者は一度生きて帰れればいいわけじゃない。
何度潜っても、生きて戻れる力が必要だ。
Dランクを安定攻略できないということは、「生きて帰るための最低ライン」に届いていないということでもある。
だから補習を受ける生徒は意外と多い。
みんな、自分の将来がかかった貴重な二年間だと理解しているのだ。
適性のない人には、学校で一般就職の斡旋もしているが、国としてもそこは問題視していない。
冒険者学校入学の条件として、学力・戦闘能力・特技の試験を突破している。
鍛えれば最低でも " Eランクにはなれる " と判断された者たちだ。
さらに国は、副業としての冒険者活動を認めている。
専業でなくとも平日の仕事帰りや休日に無理なくEランクへ潜る人が増えれば、国は安定したダンジョン素材の供給を見込めるし、冒険者側も副収入として十分な報酬が得られる。
黒鋼先生の言葉を思い出す。
「基礎は命を守る最後の砦だ」
この時期の基礎は本当に大切なのだ。
1コマ目の講義が終わり、俺は大きく伸びをした。
教室には、包帯を巻いた生徒、魔力枯渇でぐったりしている生徒、真剣にノートを取る生徒など、冒険者学校の補習ならではの光景が広がっていた。
じつは、この補習には陽斗と雨宮さんも参加している。
「俺、防御が弱いから基礎からやり直すわ」
「射線管理が甘いって言われちゃって……」
と二人は言っていたが、それが本音じゃないのはわかっている。
俺としずくを危険な目に合わせた責任を感じているのだろう。
そんなことを考えていたとき、教室の隅に “ 見覚えのある二人 ” を見つけた。
他の一年生がぐったりしている中、彼らはすでにノートを取り終えており、楽しそうに談笑している。
一人は茶髪で柔らかい雰囲気のメガネ男子。
そしてもう一人は控えめギャル系の金髪ポニテ女子。
彼女は彼の席の前に立ち、やや近い距離で、彼に身を傾けて話している。
触れてもいないのに、雰囲気だけ妙に甘い。
付き合いは長そうで、お互いの距離感も近いのに、ぎこちなさがある。
しかしその “ ズレてる感じ ” すら、もう青春の味になっている。
──そう、あの二人だ。
(最初のダンジョン演習の休憩所で見た二人組じゃないか!
ていうか、よくみたら入学式翌日のバスでも見かけとるやんけ!!)
“ 最高のラブコメ ” を俺に見せてくれた二人組。
その事実を思い出した瞬間、テンションがあがるのを自覚した。
テンションがあがりすぎて、エセ方言すら出ている。
「補習なのに癒しがある……!」
にやける俺を見て、しずくがため息まじりに言う。
「倫太郎は相変わらずだね……」
俺はしずくに呆れられながらも、補習のなかにある癒しを楽しんだ。
そして休憩後も講義は続き、午前中の終わりが近づいたころ、黒鋼先生が前に出て教室を見渡した。
「午後からはダンジョンで特別訓練を行うが、先日の演習のような事態になる可能性もある。
最近、低層でも魔物が活性化して強くなっているとも聞いている。
決して気を抜くな」
ゆるんでいた空気が、一瞬で引き締まった。




