2章3話「浮足立つ生徒たち。そしてそれを眺める俺。」
◆
大規模ダンジョン演習の準備も進み、それに合わせた訓練も積んできた。
クラス全体の空気は、不安や緊張ではなく、
“ ついに本番だ ” という前向きな雰囲気に変わりつつあった。
(……いいね、この空気。)
大規模ダンジョン演習を前に、浮足立つクラスメイトたち。
そして、それを眺める俺。
え? 前世の経験から、慌てふためくみんなを見て愉悦に浸ってるって?
そんなことはないさ。
思い出してみてくれ。
学期末の大規模ダンジョン演習を目前に、不安と期待で胸をふくらませるクラスメイト。
そして、ラブコメ大好きな俺。
そう、俺が眺めるものなんて、一つしかない。
それは――
「あの! 私と夜の見張り、一緒に組みませんか!」
「実は君のことが気になってたんだ! 俺とパーティーを組んでほしい!」
「今日の放課後、予定ある? あのさ、演習の買い物につきあってくれない?」
教室のそこかしこで行われる、甘い青春の1ページ!!!
(……いいぞぉ! もっとやれ!!)
考えてみてほしい。
大規模ダンジョン演習は学期末に行われる。
つまり、これが終われば長期休暇だ。
長期休暇の楽しいイベントを、気になっている異性と一緒に過ごしたい。
急接近して、あわよくばお付き合いしたい。
よしんば付き合えなくても、この機会に仲を深めておきたい。
などなど。
そう思うのは、普通のことではないだろうか?
あ、俺のことは気にせず続けてくれ。
ただ、そばで眺めさせてほしい。
ぷるぷる。いじめないで、ボクわるいニンゲンさんじゃないよ。
「……倫太郎、楽しそうだね」
しずくが、呆れたような視線を向けてきた。
俺が変なことをやらかさないか、心配でついてきているのだろう。
だが、安心してくれ!
俺は、さすらいのラブコメハンター。
ラブコメを求めて旅に出ているが――
その実態は、ただの “ 無害な一般人 ” である。
(……まあ、しずくには言わないけど)
待っているだけでは、俺のもとにラブコメはやってこない。
最上級のラブコメを引き寄せるためには、
自ら行動を起こして、出会いの確率を高めることが重要だ。
教室内の空気は、まるで春先の風みたいに軽く、どこか甘い。
誰もが浮かれていて「この瞬間を楽しみたい」という気持ちがにじみ出ている。
日ごろの訓練の疲れなんてどこへやら。
みんな、まるで “ 冒険者学校の青春 ” を全力で満喫しているようだった。
(……こういう学園生活、悪くないな。)
俺が心の中で納得していると、
しずくが先ほどより少し真剣な目で俺を見上げた。
「倫太郎は……誰と見張りするの?」
「え? 普通に陽斗だろ。」
「……そっか。」
しずくの声が、ほんの少しだけ沈んだ気がした。
(……なんで落ち込むんだ?)
しずくは小さく息を吐き、俺の袖をきゅっと引っ張った。
「……ほら。もういいでしょ? いくよ、倫太郎。」
その声音はいつもより少しだけ強く、有無を言わせぬ迫力があった。
まるで「これ以上ここにいたら、またへんなのが寄ってくる」と言いたげだった。
(そんな、後生な!
この先には、俺との出会いを待つ “ ラブコメ ” が、まだまだあるはずなんだ!
どうして? どうして、そんなひどいことするのおおおおおぉぉぉ!!)
そんな心の叫びがしずくに届くはずもなく。
俺はむなしく引きずられながら、その場を去るのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「おもしろかった!」
「続きが気になる!」
と思ってくれた方は、ぜひ高評価(★満点)とブックマーク等をお願いします。
それでは、引き続き、本作をお楽しみください。
X(旧Twitter):@yomu_kobo




