「終幕」
戦場の中、アーケオは涙を流していた。目の前で実の伯父と分かった人物が亡くなったからだ。
身内を失った喪失感と気づけなかった後悔が入り混じり、心に負荷を受けた。
しかし、悲しみにくれる彼を放っておいてくれる程、現実は優しくない。
「キュオオオオオオオオオ!」
魔王ユーカリオタが仲間達を振り切って、叫び声を上げながら、アーケオに接近してきたのだ。
「アーケオ! レックス・フリューゲルを守ってくれ! 奴が寄生すれば、屍人として利用される!」
地面に倒れたルーベルトの忠告とともにアーケオは迫り来るユーカリオタに殺意を向けた。
「ユーカリオタアアアアアア!」
アーケオは激昂しながら勇者の剣を生み出して、ユーカリオタを突き刺した。
しかし、相手は魔王ユーカリオタ。あまりにも強烈な突進だったため、後方に押し下げられた。
『ギュオオオオオ!』
魔王が聞いたこともない奇声を発した。遠くの方でどこか騒がしくなってきた。ふと視線を向けた時、彼は戦慄した。
「オオオオオオ!」
地平線の向こうから夥しい魔物の群れが、押し寄せてきた。おそらく魔王を助けに来たのだ。
「通さない!」
「終わりにするんだ!」
他の兵士達が魔物達を相手取った。魔物達の相手を他の兵士達に任せて、アーケオは目の前に集中した。
『キュオオオオオオオオ!』
言語を介さない魔族の長が凄まじい勢いで触手を振り回してくる。触手の先端をよく見ると、鋭利な突起がいくつも羅列していた。
魔王の目的はおそらく生存。強大な力を持っているが、中身はただの生命体。増えて、生きる。奴の頭にあるのはこのシンプルな思考のみだ。
「勇者の斬撃!」
アーケオは歯を食いしばって、ユーカリオタに斬撃を打ち込んだ。
『キュオオオオオオオオ!』
ユーカリオタが奇声を上げながら、後方に下がった。
「勇者の斬撃!」
続けて、斬撃を放った。再び後ろに下がった。体も限界で体内のマナもギリギリだ。それでもアーケオは歯を食いしばった。自分が愛する世界を守る。その想いが彼を突き動かしていたのだ。
二度の斬撃を受けたせいか、ユーカリオタの勢いが弱まっているのを感じた。
「勇者の斬撃!」
アーケオは喉から血を吐く勢いで叫んだ。三度目の斬撃。ユーカリオタの勢いは老人のように鈍くなっていた。同時にアーケオの視界も狭くなり始めた。度重なる戦闘の疲労により意識が薄れ始めているのだ。
その瞬間、ユーカリオタの周りから刺すような音が聞こえた。マシュロ達が武器を突き刺していたのだ。
「これで終わりです。魔王!」
「今度こそ終わりだ!」
『キュオオオオオオ!』
「貫け!」
アーケオの叫びとともに仲間達がトドメと言わんばかりに武器を奥まで突き刺した。ユーカリオタが絶叫した。
『アアアアアアアアアアアアアアアアア!』
ユーカリオタが耳障りな奇声を発して数秒後、灰のようになって消えた。
「終わった」
魔王の最期を見送った後、アーケオの視界が暗くなった。
暗闇の中から誰かの声がする。
「アーケオ様!」
聞き覚えのある声だ。時間が経つたびに声が大きくなっていく。そして、視界が光に包まれ始めた。目を開けるとそこには見覚えのある顔があった。
「アーケオ様!」
涙目のマシュロが強く僕を抱きしめた。彼女の体は震えていた。
「ごめん。心配かけて。ここは?」
「ここはローゼン王国の医務室です。とても体が冷えていて、意識が戻らないのではないかと心配で」
マシュロが目元を赤く腫らしながら、鼻水をすすった。そして、時間が経つにつれて思考が働き始めた。
「魔物は! 地面にたくさんいたよね」
「消滅しました」
「消滅?」
「魔王が消滅したことでその分身である魔物達が根絶しました。アーケオ様のおかげです」
この世界から魔物が消滅した。その言葉を聞いて、アーケオは安堵感でため息をついた。
「疲れたー」
激闘を終えたアーケオは布団の上で背伸びをした。




