「夢に囚われて」
アーケオは一瞬、目の前の光景が理解できなかった。しかし、倒れて行くレックスを見て、走り出した。
「レックスさん!」
地面に倒れたレックスにすぐさま、駆け寄った。
「歳はとりたくないもんだな」
「ふざけないでください! どうして! 何をやっているんですか!」
「内臓を大きく負傷したんだ。どのみち長くはなかったさ」
レックスが鼻で笑いながら、口から血が流れた。
「最後に念のため、お前に聞きたかった。お前の母親の名前はウィンディーか?」
「うん。なんで母さんのことを知っているの?」
アーケオは突然の言葉に目を見開いた。何故、突然自身の母の名前が出てきたのか分からなかったからだ。
「そりゃ、兄貴だからな」
耳を疑った。同時にアーケオは心臓を揺さぶられたように動揺していた。
「その本を見たとき、ある程度確信した。最初は他人の空似程度だと思っていた。だけどお前が持っていた本と王族の血筋を調べて、そこで理解した」
レックスが息を吐きながら、間を空けて語った。
「この本ですか?」
アーケオは懐から本を取り出した。
「この本は俺が子供の頃、お袋に買ってもらった本だ」
「そうだったんですか」
かなり古いものだと思っていたがレックスや自身の母が子供の頃から読んでいたなら、納得がいく。
「妹を、お前の母さんを救えなかった。だからせめてお前だけでも」
レックスが閉じそうな瞼で息を切らしながら、アーケオを見る。今にして思えば戦いの所々でおかしな点があった。
ブレドやマシュロには致命傷を負わせていたが、アーケオに関して攻撃したものの、命を失うほどの状況に追い込まれる事はなかったし、何より魔王復活の時、魔物だらけの城で気絶していたにも関わらず。一切襲われる事もなかった。
アーケオを支え、助言し、指南を施してくれた。
それは善意だけでなく、甥という立場だったからだ。妹の遺児であるアーケオを気にかけていた。
「傷ついて欲しくなかった。平和な世界で幸せに生きて欲しかった」
口から勢いよく血が吹き出た。
「もう喋ったらだめです! 傷が開けます!」
「俺は、何も出来なかった。妹も救えなくて、敵の殲滅も完遂できず、夢も叶わなかった。何一つ得られなかった」
「レックスさん」
「でも、お前は違う。たくさんの人間と関わって、そして与えて来た。より大きな未来に目を向けている。お前ならきっと世界を大きく変えられる」
レックスが再び、血を吐いた。そして、目の光も薄くなっている。
「そんな! しっかりして! レックスさん! レックスさん! 伯父さん!」
涙を流しながら、レックスに声をかける。すると彼がゆっくりとアーケオの頰に手を添えた。
「ははは。ウィンディーにそっくりだ」
レックスが血で濡れた口元で優しく微笑んだ。その言葉を最後にレックスの手がアーケオの頰を離れた。




