「レックスの胸中」
壮絶な激闘が繰り広げる戦場の中、アーケオはレックスと火花を散らしていた。
アーケオの背後ではマシュロ、ブレド、ルーベルト、鋭心、クリス、リーシアが必死でユーカリオタを止めている。
彼らのためにもここで勝たなければいけないのだ。
「負けない! もうこれ以上戦わないために!」
「なら俺の首を取ってみろ!」
アーケオは互いに意思とともに剣をぶつけ合っていく。魔王と離れて、おそらく内臓も損傷しているがそれでもレックスの強さは健在だった。
「どうして世界滅亡なんて考えているんですか。 ローゼンもそうです。恨みはなかったはずではないんですか!」
「ローゼンに関しては俺の部下達の為だ。世界滅亡の答えはお前の手元にある本が答えだ。アーケオ。お前は聞いて来たな。本の感想を。俺は心底、失望した」
「失望?」
「この世界の現実は本の世界と全然違っていたからだ。戦争。侵略。虐殺。隷属。綺麗な夢を剥ぎ取られて世界は醜い姿を見せた。だからこの世界にある負の側面を纏めて、全て消し去ってやる。それが俺の目的だ!」
レックスの重い言葉と一撃でアーケオは後ずさった。彼の気持ちは分かる。アーケオ自身、何度も辛い現実に直面してきたからだ。
「分かりますよ。現実は本と違っていた。辛いこともあったし、苦しいこともあった。でも貴方が見て来たものって本当にそれだけなんですか? 本当にそんな悲しいものだけでしたか? 僕はこの世界を愛したいです。母さんが残してくれたこの本が書かれたのだって、嘘だけじゃない! だって僕は仲間に出会えた! 大事な人たちに出会えた!」
アーケオは声を震わせて、自分の心を吐き出した。レックスも自分と同じく本に魅了された人間の一人なのだ。
それでも違ったのは世界に絶望して、滅ぼすのか。信じて愛し続けたのかだ。きっとアーケオも少し違えばレックスと同じになっていた。
それでも人と繋がってきた絆が世界を愛するという思考に導いたのだ。
「だからそんな人達がいる世界を終わらせたくないんだ!」
アーケオは声を上げて、走った。レックスは今、内臓を大きく負傷している。
長期戦に持ち込めば勝機はあるが後ろでユーカリオタを相手取っている仲間達のことを考えれば得策ではない。
「遅いぞ! ユーカリオタを剥がして終いか!?」
「いいえ!」
声を張り上げて、剣をぶつけていく。レックスの剣術の精度は相変わらず高いが、出血のせいか動きが鈍くなっていた。
「勇者の斬撃!」
アーケオは剣にマナを込めて、黄金の斬撃を打った。レックスが剣を構えて、斬撃を受け止めた。斬撃の威力で徐々にレックスが後方へ下がっていく。
アーケオ自身もかなり限界だった。度重なる死闘と打ち出した斬撃の数でかなり体力は削られていた。レックスが凄まじい叫びを上げて、足元に斬撃を流した。
衝撃で砂煙が舞って、周りが見えなくなった。アーケオは戦闘で高鳴る心を鎮めて、目を閉じる。
周囲の人間と魔物の叫び。爆発音。それらを排して、レックスに意識を向ける。意識を研ぎ澄ませる中、点と点が重なった気がした。
「一閃!」
アーケオは踏み出した。砂煙で何も見えない中、剣を振るったのだ。
踏み出した方向の砂煙の一部が人影の形で濃くなっていた。
剣を振った瞬間、人影もアーケオに気づいたのか、剣を振り下ろしてきた。
アーケオはそれよりも先に人影の胴体に剣を入れた。
砂煙が薄れていく。アーケオの剣はレックスの胴体を捉えていた。同時にレックスの剣の刃が音を立てて、割れた。
飛び散る赤い血と割れた剣から出た鉄屑がレックスの命が尽きていくのを表しているように見えた。
満身創痍のアーケオの前でレックスが膝をついた。
「剣を折りました。それに内臓の負傷。もう戦えませんよ」
「いや、戦いは終わっていない!」
レックスが半端に残った刃でこちらに迫ってきた。
「そうですか!」
刃を叩きつけて、襲撃を抑えた。何度も剣先を削りあっていく。火花が散り、互いの魂も音を立てている。
剣が欠けようとも彼の腕が衰えるわけではない。しかし、間合いではアーケオが有利だ。そして、アーケオの剣がレックスの右腕を斬りつけた。
「ぐっ!」
レックスが歯ぎしりをしながら、血が流れる右腕を睨みつける。すると持ち手を変えて、再び襲いかかってきた。危機に追い込まれても挑み続ける姿はまさに修羅。
半壊した剣から伝わる目的への強い執念。アーケオは恐怖すら覚えていたが、同時にこれがレックスの力の源なのだと理解した。
しかし、どれだけ精神が強くても、体にも限界がある。その証拠にレックスの動きは先ほどよりも緩慢になっていた。レックスがアーケオの左肩めがけて剣先を突き出したが、彼はひらりと交わした。
「これで終わりです」
アーケオはレックスの剣を持った左手を斬りつけた。右手以上に深く斬ったせいか、出血が多くなっている。剣を持っている左手も痙攣している。
「もうやめましょう。レックスさん。僕の勝ちです。これ以上の戦いに意味はない」
勝利は確信していた。慢心だと理解している。ただそれでもこれ以上、戦いたくないのだ。
「俺の負けか」
「ええ。もう終わりです」
「わかった」
レックスがため息をついた後、安堵したような顔を浮かべた。次の瞬間、残った剣の刃を首に突き刺した。




