「異次元の速度」
力を解放したレックスを前にアーケオは剣を構えた。隣ではマシュロも黄金のナイフを取り出して、臨戦態勢に入っていた。
レックスが踏み出した瞬間、彼の姿が消えた。
「えっ?」
アーケオは思わず、気の抜けた声を出した瞬間、風が首元を撫でるのを感じたと同時に人の気配を感じた。
とっさに剣を構えた瞬間、凄まじい重量が剣にのしかかってきた。
「ほう。まさかこの一撃を感じ取るとはな」
「こんなところで倒れるわけにはいかないんで」
アーケオはそう言ったが、内心かなり焦っていた。冷静になろうとしているが目の前で起こる事態があまりにも現実とかけ離れていたからだ。剣を振り下ろす際に生じた風以外でレックスを感じ取ることが出来なかった。
レックスの背後で影を纏ったマシュロが彼に斬りかかろうとしていた。しかし、レックスが気づいて、それらの攻撃を全て受け止めていた。
「ナイフ術は中々のものだが足りんな」
レックスの回し蹴りがマシュロの肋部分に食い込んだ。彼女はそのまま、壁際まで吹き飛んだ。
「マシュロさん!」
「よそ見している場合か!」
アーケオはマシュロの本に駆け寄ろうとした時、レックスが彼に大剣を振り下ろしてきた。突然、横から誰かに体を引っ張られた。ブレドだった。
「兄さん!」
「体勢を立て直すぞ。とりあえず、あいつが技か魔法か、仕掛けてくる前に始末するぞ!」
「はい!」
「しぶといやつだな」
レックスが風を切るような速度で距離を詰めてきた。
「右から来るぞ!」
ブレドの助言に従って、右からの攻撃を躱した。勢い余って態勢を崩したレックスをアーケオとブレドは何度も、斬りつけた。それでも体内から出て来る黒い触手が瞬く間に傷は塞いだ。
「くそ!」
「やっぱり未来が分かってもこれじゃあキリがない」
アーケオとブレドはすぐさま、レックスから距離をあけた。
「慟哭の鉤爪」
レックスの剣から放たれた赤黒い三つの斬撃がアーケオとブレドの元に迫ってきた。
アーケオとブレドは斬撃を躱したあと、剣にマナを注いだ。
「勇者の斬撃!」
「勇者の斬撃!」
兄弟二人の斬撃。二つの斬撃が重なって、巨大な一撃になった。
「ぐっ! これはなかなかだな!」
レックスが剣で受け止めながら、歯を食いしばっている。さっきより力が増しているせいか、耐久力も上がっている。
「もっとマナを込めるぞ!」
「はい!」
ブレドとともに斬撃にマナを注いでいく。同時にレックスが後ろに下がり始めた。
「いけええ!」
アーケオは叫びとともにマナを込めた瞬間、レックスが壁まで押し切られた。
そして、壁を突き破った。その襲撃で砂煙が舞った。
砂煙が薄れて、壁が壊れて火の手により茜色に染まった夜空が目に映った。急いで壁まで駆け寄り、下に目を向けるとレックスが倒れていた。
アーケオはブレドとともに下に飛び降りた。浮遊感に一抹の恐怖を覚えたが、受け身をとって、無事着地した。
レックスの体は切断されていた。左肩から右の骨盤部分にかけて、斜めにきれていたのだ。普通の人間なら即死だ。しかし、相手は魔王。突然、レックスの上半身と下半身から黒い触手が出てきて、離れた体が繋がり始めたのだ。
「そんなバカな!」
「こんなことって」
人知を超越した蘇生能力にアーケオは開いた口が塞がらなかった。
「今のは効いたぞ」
レックスの額から一筋の汗を流していた。アーケオはこれから訪れるであろう死闘に備えた。




