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「追放王子の冒険譚」  作者: 蛙鮫


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「レックス・フリューゲル」

暖かな空気が漂う部屋の中、マシュロは目に映る光景を愛おしく見ていた。目の前には自身が仕える主人、ウィンディーが我が子を抱いて、ベッドに腰掛けていた。

「お名前は?」


「アーケオよ」

 仕えている女性に抱かれている赤ん坊。とても愛らしい顔で寝息を立てていた。


「私で良いのですか? こんな私で。ウィンディー様はご存知のはずです。私がどういう人間なのか。何をして来たのか」

 過去の行いを後悔した事はない。それが彼女の生きる意味だった。


 目の前にいるのは触れたら壊れてしまいそうなほど小さな命。こんなか弱く愛おしい存在に触れて良いのだろうか。この血まみれの手で。


「うん。知っているよ。でもマシュロは手先も器用だし、なんでもできるじゃない? これまではあなたの力を正しい方に使ってあげる人がいなかったのよ」

 マシュロは理解した。ウェンディーはチャンスを与えてくれたのだ。


 再び、新たな自分になる機会をくれたのだ。ならば誠心誠意応えよう。この子を慈しみ愛情を注ごう。


「かしこまりました。このマシュロ・トーン。アーケオ様を立派に育て上げて見せます」

 マシュロは生まれて間もない小さな主君に忠誠を誓った。


「うっ!」

 ブルードが放った鉛玉がマシュロの左肩を貫いた。痛みのあまり、歯を食いしばった。


「シャドー・ステップ!」

 痛みを堪えて、黒い影を纏って、死神のようにブルートに迫った。反応が遅れたブルートの左胸にナイフを突き刺した。


「これで終わりです!」

 勢いよくブルートの胸を斜めに裂いた。


「ぐっ!」

 血が吹き出て、顔が歪むブルート。その瞬間、動きが遅くなった隙にいくつものナイフで斬り刻んだ。


「がはっ!」

 次々とブルートの全身から血が吹き出た。彼はそのまま、その場で膝をついた。


「待っていてください。アーケオ様!」

 彼女は燃え盛る城の方角に向かった。



 アーケオは城の中を進んでいた。あちらこちらが崩壊して、多くの兵士や従者達が血まみれで倒れている。


 悲惨な状態が目に入り続けながらも、辺りを見渡していく。奥の方から悲鳴が聞こえた。


 駆けつけると地下に続く扉の前で兵士が血を流して、倒れていた。


 ここはルーベルトや兄ブレドのみが立ち入りが許された場所だった。


 地下への扉は開けられていて、誰かが侵入したように見えた。


 先は暗くなっていて、石造りの階段が続いていた。おそらく侵入者には自分がここにいることは気づかれている。しかし、足を止めるわけにはいかない。


 長い階段を降りた後は石造りの廊下が続いていた。剣を構えて、心臓の音が聞こえるほど、緊張しながら進んでいく。


 しばらくすると青白い光が廊下を薄く照らし始めた。近づくごとに光は強くなり、やがて大広間にたどり着いた。


 そこには光の元である巨大な青い結晶があった。結晶の中に何かが閉じ込められていた。


 それは真っ黒なミミズのような姿で体には黄色い紋章のようなものが刻まれていた。


 しかし、それ以上に目を引いたのは結晶のそばにいた男の姿だ。知っているのだ。


 理解していたが、感情が強烈に拒んだ。彼がこの騒動を引き起こしている人物だと思いたくなかったのだ。


「ディーノさん?」


「アーケオ」

 そこには彼が敬愛する一人の男がいたのだ。


「ディーノさん。なんでここにいるんですか?」

 震えた声を出した後、生唾を呑んだ。


「悪いな。アーケオ。ディーノは偽名だ。俺の本名はレックス・フリューゲル。夜明けの翼の首領だ」


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