「忠義と大義」
戦場と化したローゼン王国の中でマシュロはナイフを投げつけていた。相手はブルート。『夜明けの翼』の隊員だ。
「危ない。危ない」
ブルートが苦笑いを浮かべながら、躱している。分かっていたが相手は中々の手練れだ。
鉛玉をいくつも撃ってきた。風を切るような速度で飛んでくる。マシュロは躱しつつ、いくつかの弾を切り落とした。
「なぜ、こんな事を?」
ナイフを数本投げつけながら、問いかけた。
「復讐さ。ローゼンへの」
答える最中も引き金に指をかける。
「俺の妻と娘はローゼンの軍に殺された。そして奴らはその死体に火をつけやがった。最後は原型すらなかった」
ブルートが冷たい目で告げる。ローゼンへの憎悪。それこそが彼の生きる指針なのだ。
「お前こそ何故、俺達を止めようとする? 知っているぞ。お前が仕えている小僧。ローゼンから追放された王子だろ? 恨みはないのか?」
「確かに貴方の言う通り。私個人の意見はこの国がどうなろうと知った事ではありません。アーケオ様の城内での扱いも良いものではありませんでしたからね」
「だったら」
「でもあの方はローゼンを救うとおっしゃいました。決して良い記憶などないはずなのに、助けるとおっしゃったのです。そんな心優しき御方の支えになりたいだけです」
マシュロはナイフを再び、取り出して、走り出した。屋根を蹴って、塀を飛び越えて、ブルートと距離を詰めていく。刃と弾丸。それらが互いの命を奪おうと交差する。
「お前。なんで、笑っているんだ?」
ブルートに指摘されて彼女は気がついた。笑っていたのだ。
「申し訳ありません。アーケオ様」
彼女は気付いた。戦いが楽しくて仕方がないのだ。従者としてあるまじき行為。
「ああ、はしたない。なんてはしたない。こんな顔。アーケオ様には見せられません」
修羅場で過ごしたかつての記憶と感覚が蘇る。『影姫』と言われ、自身が所属していたヴァートレ王国の記憶が浮かんで来たのだ。
「楽しいのか?」
「ええ。楽しくて仕方ありません! 戦いが!」
ナイフを快楽のままに振っていく。血と骨が戦いに歓喜して、震えている。むき出しの本能が全身に火をつけるように駆け巡っているのだ。
「化け物が」
ブルートが銃口を向けた。私の額を弾丸が掠めた。
「あなたも大概ですよ」
私は額から血を流しながら、頰を上げた。
「ですが私はアーケオ様に仕える身。あの方のお側にいるため、私は勝たなければなりません」
「そうかい。でも俺も負けるわけにはいかないんでね」
ブルートが額から血を流しながら、マシュロを睨んで来た。
「私もです。主君の期待。裏切るわけにはいかない!」
マシュロは懐から勇者の武器と化したナイフを取り出した。




