5-遅れて来たクラスメート
スマホの通知欄に、二十分前の表示が残っていた。
22:12 スピーキン アオ☆配信を始めました。
リスナー:126 風船:50
『あ、いらっしゃい。……ん。人増えてきたね。じゃあちょっとだけ説明するね。今日はゲームしてて、ゆっくり11時までゲームを実況したいと思ってます。基本ゲーム画面見てるからコメント追い切れないです。ごめんね。作業BGMにどうぞ。今は2つ目の村を目指して進めていきます。途中に洞窟を見つけたので入っていきますね。…………。あぁ、セーブしないとね。じゃあ、こっから洞窟に入っていくよ。このゲームは、化け物に襲われるのを避けたり戦いながら進む感じだね。今は序盤だからあんまり強い敵はいないかな。』
[まる:回復アイテム持ってないんだから気抜くなよ。]
[ななか:アオくんこんばんは。今日は歌枠じゃないの?歌聞きたかったのに。羽衣聴いたよ!いい歌だった!調べても出てこないけど、誰の歌なの?]
[まい:アオくん歌って〜!毎日の楽しみなの〜出来れば、羽衣の生歌がいいな]
アオは歌についてのコメントには触れずに話し続け、コメントは流れていった。
ヘッドホンから流れるアオくんの声。
カチカチとコントローラーを操作する音がする。
ゲームのキャラクターボイスが流れ、それに答えるようにアオくんが話す。補足説明も入るから、どんな様子でゲームを進めているのかがわかる。
歌枠と違いゲームの日はリスナーが少し減る。
ゲームとかよく分からないけど、それでもアオくんを感じられるなら、それでいいと思ってしまう。
『わあ!!びっくりした。ゾンビのモンスターが急に画面にバン!って入ってくるから。ホラーゲームかと思った。あ、ごめん突然大きい声出して、みんながびっくりしたよね。』
時折あげるアオくんの驚きの声にクスクス笑う。
[まる:アオ、音割れたヽ(`Д´)ノ]
[ミチル:作業用BGMとは]
[さき:アオくん。イケメンな気がする。]
『あ、作業して人ごめん。気をつけるから。』
どんな表情でゲームしてるんだろうと目をつぶると相澤くんが頭に浮かんで首を振る。
「アオくんはアオくんだもん。」
図書室で借りた本の表紙を指でなぞった。
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(あるSNSにて)
"アオ今日はゲームだって。歌枠が良かった"
"最近歌枠ばっかりだったのに、残念。コメント拾って貰えない……"
"スパチャしたら歌ってくれるかな?"
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『洞窟の奥にあったのは宝箱ですね。宝箱も何かギミックがあったりするかな。一応、セーブしておいた方がいいか。』
[はると:ま、宝箱が化け物っていうのもあるからな。]
『……あ、ただの剣でした。Eランクの片手剣だって。ゴブリンの棍棒と同じくらいかな。』
[まる:は?クソゲーやん。]
[いのうえ:今の武器が錆びた剣だからいくらかマシか]
[まい:ねぇ!歌ってよ♡]
『あ、クソゲー言うなし。あとは来た道を戻ればいいですね。素材を売ってその後は、武器屋に行って装備整えたいな。』
[まる:回復の薬も揃えた方がいいぞ]
[はると:そこまで行けたらいいけど。薬草とかないの?]
[もも:アオくんってなんかいいな。どこ住?]
[いのうえ:ゲームみろって、ゲーム]
『薬草ね。合成ができないからひとつの薬草で5しか回復できないんだよね。あ、今のHPは60ね。……素材がどのくらいになるかな。あ、1200ギルだって。1200円って感覚でいいのかな?。このゲーム宿に泊まるのに500ギルかかるんですよ。泊まれば全回復するからいいんだけどね。あ、ここからだとはじめ村に行けば教会でギル使わないで回復できるよ。』
[まる:しょっぱいな。]
[はると:どんどん進めていくのが正解かもな。]
『んー。旨みないよね。まぁ、初めはこんなもんじゃない?』
ゲームの事がよく分からないからコメントはできない。でも、アオくん楽しそうで嬉しい。
アオくんの声を聴きながら布団に入って目を閉じた。
美依は目をつぶったまま、静かに規則的な呼吸をした。
意識が沈んでいく。
言葉は途切れて、声だけがぼんやりと残った。
『よしよし、次は薬草の本を購入すれば取れる薬草増えるね。あー。やっぱり、地道にお金貯めて行くしかないね。さっきの武器屋の8000ギルの両手剣欲しいなぁ。』
[はると:次は森に入るしかないね。]
[ 〔700円〕 まい:アオ!歌って!できれば羽衣!]
その文字を、ぼんやりと目で追った気がした。
コメントの流れが止まった。
リスナー達は画面の向こうで、何かを待つみたいに手を止めた。
コントローラーの音が止み、ゲームの明るい音楽だけが流れる。
アオの息を吐く音が響いた。
『……ごめんね。スパチャしてくれるの嬉しいんだけど、歌配信は別日にするつもりなんだ。……羽衣は特別な思いがあるから。あんまり軽々しく歌いたくないかな。』
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あるメッセージアプリにて
まる:お疲れ〜。今日の出来事を振り返り、考察したい。
かなえ:おつかれ。………はい。
ハルオ:2日間配信なかったけど、今日は配信してるね!
ミチル:配信っていうか、ゲームしてるだけ。
はると:あー、今日はあれだな。
かなえ:羽衣ってやっぱり……。
いのうえ:触れない日か。
まる:てか、今日コメント荒れ気味じゃね?
はると:あー、あれないからな
かなえ:……うん
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翌朝。
朝のホームルーム。
先生とうちの学校の制服を来た女の子が入ってきた。
教室がザワつく。
「みんな静かに。今日は阿部 陽葵さんが怪我で来れなかったけど、やっと登校できました。」
「阿部 陽葵です!少し出遅れてしまいましたが、皆と仲良くできると嬉しいです!よろしくお願いします!」
明るい子。なぜか、胸の奥がソワソワして落ち着かない。
みんながパチパチと拍手を送るのに少し遅れて拍手をした。
「阿部さんは1番前になるから、よろしくね」
阿部さんは女子では出席番号一番。教卓の前の席に座った。
午前の授業が終わり、お昼休憩だ。
ざわざわとした教室。
昨日と同じように亜美ちゃんと机をくっつけて、中島さんと高橋さんが私たちの机にお弁当を置いた。
中島さんと高橋さんはトイレに行き亜美ちゃんと2人。
スマホを取り出し、待ち受け画面が表示される。
不意に机に影が落ちた。
「ねえ」
顔を上げると、朝紹介されたばかりの阿部さんが立っていた。
「和田さん、だよね?」
恐る恐るといった様子の声色。
首を傾げてこちらをじっと見つめている。
他のクラスメートの視線も感じる。
少し居心地の悪さを感じながら頷いた。
「……うん」
「やっぱり!」
明るい声色。阿部さんはにこっと笑った。
「久しぶり」
右手を上げてハイタッチのような姿勢。
——え?
「みーたんでしょ!?」
心臓が、嫌な音を立てた。
「……え?」
「えって、覚えてない?」
近くで、明るい声が続く。
「名簿見て、もしかしてって思ってたんだけどさ。やっぱりそうだよね」
教室が、ざわりと揺れる。
「え、何?何があったの?」
「何かトラブル?」
「みーたんって言ってたよ?」
小さな声が、あちこちから漏れる。
思わず隣を見る。
亜美ちゃんと目が合った。
少しだけ、驚いた顔。
——やめて。
「ひまのこと、忘れちゃった?」
逃げ場がない。
「オッハー!だよ?」
——っ。阿部さんの声が静かな教室に響いた。
「みーたん、毎朝やってたじゃん」
頭の奥で、声が重なる。
『オッハー!みーたん!イエーイ!』
口元を引き上げる。
笑わなきゃ。
「え、あ……うん」
視線が泳ぐ。
「……してた、かも」
ちゃんと笑えてるはずなのに、
頬だけが、変に固まっていた。
「ね!みーたん!」
視界が揺れる。
泣きそう。
「ひま、ずっと会いたかったんだよ!」
——無理。
呼吸が、浅くなる。
「あ、あり、がとう……」
「ご飯一緒に食べてもいい?」
明るい声に隣を見ると、間を開けてから少し困った顔で頷いた。
「うん。いいよ」
思ったより小さい、弱弱しい声が出た。
「やったあ!ありがとう!」
阿部さんは嬉しそうに笑った。
無意識に何故か視線は相澤くんの方へ向けるが、相澤達はいなかった。
中島さんと高橋さんが戻ってきて少し驚いた様子だったけれど、5人で机を囲む。
阿部さんは場を回すのが上手くて、中島さんと高橋さん、亜美ちゃんとすぐに打ち解けた。
相澤くんは、こちらを気にする様子もなく友達とご飯を食べている。
……って何気にしてるんだろう。
「ねえ!みんなのこと、下の名前で呼んでいい?」
「別にいいよ。」
中島さんはあんまり気にしていない様子で答える。
初対面で誰とも仲良くなれるの、強いな。
陽葵の視線は美依に向けられた。
「みーたん!小5ぶりだね!ひまが転校して寂しかった?」
やっぱり……。ノイズがクリアになった。
頭に、幼くした阿部陽葵いや、吉田陽葵が浮かんだ。
「あ……、久しぶり……。寂しかったよ」
「そうだよね!良かった!忘れるわけないよね!みーたんとひまは最強コンビだったもんね!」
「あ、うん……」
「昔さ、やってたの覚えてる?ひまみいコント!あとアイドルひまりとみい!一輪車兄弟ひまみい!」
周りの視線が痛くて顔を挙げられない。
「やってた……かも」
「えー、みーたん覚えてないの?ショートコント縄跳びって!えー、お楽しみ会でやったアイドルひまワンとみいニャンは?」
「あはは……」
「なんか、変わったね……。でも、今のみーたん可愛いかも。守ってあげたい女の子って感じ。」
「昔は給食おかわりして、デザートのじゃんけんしてたのに少食になったね。」
「昔、クラスで一番だったよね。ほら、胸。」
陽葵が鎖骨の下からお腹の上にかけて大きく丸を描く。
瞬間、空気が止まった。
それから、コソコソ、と小さな声が広がった。




