九話 美味しそうに食べる
シロはブラウンベアーと命の駆け引きをしたため今日の鍛錬は免除し、アイクだけ運動着に着替え、訓練場で木剣を振るう。筋肉に疲労が溜まり、震えてきたら鍛錬を終え、部屋に戻る。
薄暗い部屋の中、ベッドの上でアイクの外套に包まる純白のシロの姿があった。
シロは目を大きく開け、体を折り曲げ自分を小さくする。頬が紅潮し「いや、いや、いや……」と呟く。そのままアイクの外套に隠れてしまった。
何が嫌なのかアイクはわからないが、何事もなく部屋に入る。汗でぐっしょりと濡れている運動着を脱ぎ、軽く洗って部屋に干した。
その間、シロは何事もなかったように外套を壁際に掛け、アイクの背中を塗れた布で拭く。
体が綺麗になったアイクがベッドの上に寝転がると、シロは息を飲み、彼の下着に手を伸ばす。
そのままズリ下ろすと、全身が筋肉の固まりのような男なのに、ひたすら柔らかい部分が現れる。
濡れた布で拭いた程度では拭えない雄のにおいが漂っていた。
「俺が脱ぐ必要あるのか?」
「む、村の女たちが、女が男の性器を食べると男は喜ぶって言っていた……」
シロの琥珀色の瞳は涙で潤い、尻尾がうねる。腰は何かが纏わりついているのが気持ち悪いといわんばかりにくねり、手も少し震えている。呼吸が荒くなっており、息苦しそうだ。
「嫌だと思うなら、村の女たちの真似する必要はないんだぞ」
「でも、わたしは男を喜ばせる知識をもっていないから、他の者から聞いたことを試すしかない」
シロは男が放尿するときに使う柔らかい性器を細い指でそっと掴む。長く太い蛇を持っているようだった。
棒状の性器以外に袋のような部位がある。ここが男の最大の弱点だと何となく知っていた。手の平に乗せると、水が入っているようにずっしりと重く柔らかい。力を入れて触ってはならないと察する。
当たり前のように男の性器に触れるのは初めてだった。だが、水浴びしている父やその他の男達の性器より大きく逞しい。
赤子をあやすように優しく触っているうちに、顔が少しずつ近づく。
鼻呼吸すると、強烈な酒のにおいを嗅いでいるような顔になり、荒々しい口呼吸になる。唾液が口の中に溜まるのか、何度も飲み込んでいた。
舌先を棒状の性器にそっと当て、産まれたばかりの赤子を舐めて綺麗にする母牛のように舌を動かす。
尻が高く上がり、左右にゆっくりと揺れる。
アイクは自分の急所をシロに舐められても、無表情だった。曲がりなりにも一生懸命に努力している彼女を見続ける。
上半身を起こし、今にも泣きだしそうな顔になっているシロの頭に手を置いて撫でた。泣きそうな女を慰める方法はこれしか知らない。
頭を撫でられているシロはぼーっとしており、ひたすら舌を動かしていた。水面から顔を出した時のように息を吸うと、唾液塗れになった性器の先っぽを口に咥える。大きすぎて口の中に全て入らないができるだけ突っ込んだ。
流れの悪い排水のような音が部屋の中に響く。
「ろ、ろう、きもちいぃ?」
シロの呂律の回っていない言葉はアイクに通じず、彼はただ彼女の頭を撫でるのみ。
村の女が言うには性器を咥えこんでしゃぶれば性器が硬くなるはずだった。
だが、いくらやってもアイクの性器は柔らかいまま。
一時間以上しゃぶり続けたが、舌を動かしたり口を開けっぱなしにしたりと口周りの疲労が溜まり、これ以上やっても変わらないと察して断念。
「はぁ、はぁ、はぁ……、だ、駄目か」
シロはアイクに与えてもらってばかりで、何も返せていなかった。アイクに全てを捧げるといっておきながら、彼の何の役にもたっていない。
胸を庇うように肩を丸め、白い前髪が半開きの目を覆い隠す。
手の平をぎゅっと握りしめ、疲労した顎が震えた。村に闇ギルドの者が現れ、何も出来ぬまま全てを失った時のような雰囲気を纏い、座り込んでいる。
そんな、シロの頭にアイクは手を置く。へたり込んでいた耳ごと大きく撫でた。
「美味しそうに食っているところが見れて悪くなかった」
一言伝えた後、上半身をベッドに倒し、眠りにつこうとする。
シロがアイクの性器を咥えていた時の顔が料理を食べている時の彼女の顔と似ていた。その顔が嫌いじゃなかったため性欲らしい感覚は得られなかったものの、虚無ではなかった。無表情なのは変わらないが、目は柔らかい。
「お、美味しそうに食べてた?」
シロはアイクの言葉を聞き、耳を疑った。
しょっぱく、ぶよぶよとした温かい棒を咥えているだけだったのに、美味しそうな顔になるわけがない。
自分の顔は自分で見えないため、さっきまでの顔がわからなかった。かぶりを振り、言われた言葉をかき消そうとする。
アイクの隣に四つん這いで移動する。その時、股の部分が妙に湿っている。見つめると、白い下着の一部が鼠色に濡れている。
「わ、わけわからん……」
漏らしたのかと疑い、辺りを調べるが濡れているのはシロの股部分だけ。
アイクを気持ちよくさせるために性器を舐めていたのに、なぜ自分の方によくわからない変化が起きたのか謎だった。
「あ、汗を沢山掻いてしまったんだ」
無理やり納得し、アイクの腕に抱きついて眠る。
次の朝、アイクが目を覚ますと股間に頭を埋めているシロの姿があった。
ふにゃふにゃの性器に小さな舌を這わせている。朝っぱらからシロが何かしてくるのは初めてだった。
「どうした?」
「朝にやってあげても男は喜ぶって、聞いたから……」
シロは性器から舌を離れさせ、何の変化もない棒状の物を見下ろす。
アイクの体の一部とは思えない弱々しい姿。最強に近い彼の弱い部分というだけで、それに目が離せなかった。
アイクが起きてしまったため、ベッドの上でペタンコ座り。息を深く吸い、長く吐く。彼の目をしっかりと見る。
「わたし、これ、嫌いじゃないかも」
アイクは上半身を起こした。
「それなら何よりだ」
寝起きにシロの頭を軽く撫でる。朝から誰かの頭を撫でるのは新鮮だった。相手が生きているというのを簡単に確認できる。
「こ、これも……嫌いじゃない」
シロは頬をほのかに赤らめると視線を反らし、アイクのゴツゴツしい手に触れ頬にひったりと着けさせる。このまま叩かれたり握りつぶされたら、死んでしまうほど力が出る手なのに、頭を撫でてくるときの手はあまりに優しい。
「なんだ、今日はやけに積極的だな」
「べ、別に、そんなんじゃない。それに、撫でられるのが嫌いな獣族は多分いない」
「ほう、それはいいことを聞いた」
アイクはシロの白い髪がボサボサになるまで撫で続け、限度を考えろと怒られる。
服を着替え、訓練場に移動し、近接格闘をこなす。
シロが攻め込み、アイクが全て受け流しす。隙あらばアイクが手を出し、シロの体に触れた。首や頭、心臓、腹、など急所ばかりに触れる時もあれば、尻や胸、脚など急所以外も手を当てた。
「やはり、シロは女なんだな。触る部位がどこも柔らかい」
「あ、当たり前だアホっ!」
奴隷が主人に暴言を吐くのはほとんどあり得ないが、アイクとシロは本当の主人と奴隷ではなく見せかけでしかないため、彼女の口からよく怒号が放たれる。
すぐに、口が悪かったのを反省するように尻尾や耳がしゅんと下がってしまう姿も見慣れたものだ。
攻めと守りを交代し、アイクがシロに攻撃する。
シロは手加減されてもアイクの攻撃を全て防ぎきれなかった。
防御力が物凄く高いわけではないため、攻撃に当たらないように戦う必要がある。昨日のブラウンベアーとの戦いが理想だ。あの感覚を失わないうちに、ひたすらシロに粘り強さを付けさせる。
アイクは右腕を使わず、左腕だけで攻撃した。それでも、シロは攻撃を防ぎきれない。レベルの差があるにしろ獣族の感覚は人間よりはるかに敏感で、回避能力に関しては人間の比ではない。まだ、戦いに完全に慣れているわけではないようだ。
シロの体力が尽き、立っていられなくなったころ訓練を終えた。




