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勇者の末裔から学ぶ、正義の貫き方  作者: コヨコヨ


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8/10

八話 成長

「シロ、無理はしなくていい。もとから直るとは思っていないからな。もう、無理だと思えばその都度やめてもいい。ただ、毎日続けてもらえると助かる」


 アイクは上半身を擡げ、股間の上でペタンコ座りしているシロの頭を撫でた。もともと精神が不安定の状態のため、これ以上無理はさせられないと判断した。


「毎日続ければ何か変わるかもしれない」

「うぅ……」


 シロは午前中から夜にかけての訓練と仕事、鍛錬によってヘロヘロの体力に加え、夜中に精神的に追い詰められた結果、まともに動けなくなった。アイクの胸に頬を押し付け、体から力が抜ける。

 すぐにベッドに寝かせ、シーツを肩まで掛けた。


 ☆☆☆☆


 シロを拾ってから七日程経つと、加護の影響か朝で披露が顔に出ていたのが嘘のように体力が増えた。ゴブリンもそつなく倒せるようになり、レベルが20に到達。

 普通の人間が初心者冒険者を脱するくらいのレベルのため、もの凄い成長速度だ。今年の春に入ってきた新人冒険者をごぼう抜きする勢いだった。


「わたし……、強くなっているの?」


 昼頃、ゴブリンの返り血を一切浴びずに巣を潰したシロは森の中でアイクと食事を取りながら呟く。


「強くなっている。元々レベルが低いのと加護の影響で強くなりやすい状態にあるが、新人冒険者以上の実力が付いた」


 アイクの言葉を聞き、シロは目を細めながら腕を組む。足首を動かし、耳の裏をかく。柔らかい体だ。

 まだ、冒険者の仕事を始めて七日程度で新人冒険者よりも強くなっていると言われても、そうですかと頷けない。


「シロの村を襲った闇ギルドの連中はレベル40を超えていた。上級冒険者に片足を突っ込んだくらいの奴らだ。フレアリザードは上級冒険者なら一人でも倒せるくらいの強さ。復讐するなら、レベル50は欲しいな」

「そ、その、さっきからレベル、レベルって、なんだよそれ」

「俺には相手の強さが見える。『精霊眼』と言って何でも見える目らしい」

「な、なにそれ……。雑な説明」


 アイクは「俺もそう思った」と返すと、焼き魚をシロに差し出す。黒い煤が付いた皮を捲ってから食べる。

 シロは何でもうまそうに食べた。その顔を見ると色々と食べさせたくほどだ。餌をよく食べる猫を見ている状況と変わらない。あまり食べさせると太ってしまうため、食べさせ過ぎも体に悪い。


「ともかく、シロの復讐のために、お前のレベル上げは必須。加えて、シロの村を襲った冒険者の雇い主を探す必要がある。レベルはシロの努力次第だが、闇ギルド経由の依頼は痕跡が残らない。敵を探す方が何倍も難しいと思ってくれ」

「何年かかってもいい。もう、帰る場所もないんだ。時間をかけてでも、村を潰した元凶を倒す。そのためなら、いくらでも強くなってやる」


 シロは魚の骨まですべてを食らい、二匹目、三匹目と腹の中に入れていった。三〇センチメートルはある、大きめの川魚を完食。

 仕事を終え、腹を満たした後は王都に戻って体を鍛えるいつもの流れだ。


 ただ、帰っている最中、聴覚の優れたシロの耳が悲鳴を拾った。アイクのもとから離れ、悲鳴が聞こえた方に一目散に走っていく。

 アイクはシロの背後につき、共に走る。


 森林を抜けると開けた草原に作られた集落が燃えていた。

 以前はフレアリザードがいたが、今回はブラウンベアーと呼ばれる大型のクマに似た魔物が村を襲っていた。『精霊眼』で見ると『状態:暴走』と表示されている。以前と同じだ。


 ――手口が同じなのか、はたまた闇ギルドの本部が同じなのか。


 アイクが軽く考えている間、シロは村の広場で暴れるブラウンベアー目掛けて走り込む。表情は険しく、何の策もないように見える。

 辺りを見れば獣族の村とすぐにわかり、人間の男達が獣族を魔法で眠らせ、攫っている犯行を繰り返していた。抵抗する者は問答無用で切り付けている。


 ブラウンベアーのレベルは35ほど。

 それでも分厚い皮と鋭い爪の攻撃、フレアリザードがカメと思うほど素早い動きが特徴だ。

 魔法で強烈な真空波を放つほど賢い頭脳も相まって、ベアー系の魔物は初心者が戦わず逃げるべきだと冒険者ギルドで推奨されている。中級者でも一人で戦おうと絶対にしない。


 今のシロの武器や攻撃力では到底太刀打ちできない相手だ。放っておけばズタズタに割かれて死ぬのが落ちだろう。だが、アイクは止めようとしない。


 ――せっかく戦おうと前に飛び出したんだ、そのやる気は成長に必要だ。


 アイクはブラウンベアーの片腕を切り落とした。木の幹のように太い腕が飛ぶ。傷口から黒い血液が溢れ出た。

 片腕だけのブラウンベアーならシロでも勝てなくはないと判断し、闇ギルドまたは盗賊の者たちをからっぱしから切り伏せていく。

 彼らに人権はない。ゆえに、人殺しに含まれなかった。


「どうやって、魔物を操ってここまで来た」


 アイクはリーダー格の男に剣先を向け、天空から星が降ってきそうな圧力を発する。すると、雑草が地面に押し付けられるほど空気圧が増した。

 死を直感したのか、男が漏らしながら泡を吹き、白目を向いて後方に倒れた。起こそうとしたが、すでに窒息死していた。


 全て倒してしまい、収穫はゼロ。せっかくの機会を棒に振ったが、この頻度で出会えるなら元凶は多くの闇ギルドに依頼を出しているはずだ。


 シロが戦っているブラウンベアー以外の個体の首を一撃で跳ね飛ばし、怪我を負っている者たちの手当てを軽くこなす。

 糸で塗ったり、包帯を巻いたり、簡単な止血程度しかできないがやらないよりましだ。

 火事も燃えた家ごと切り刻み、消火しつくした。


 ――そろそろ、ブラウンベアーの体力が尽きるころか。


 村の広場に戻る。すると全身に大量の汗を掻き、肩を上下させるほど息を荒げながらも白い肌に赤い血を一滴垂らさず、倒れ伏すブラウンベアーを見下ろしているシロが立っていた。

 シロが無事に生きていると知り、張っていた筋肉が解れる。


 ――何と声を掛けるべきか。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……、あぁ……」


 死闘を繰り広げたであろうシロは緊張の糸が切れ、膝が抜け、前に倒れ込む。だが、硬く砂粒塗れの地面にぶつからず、分厚く暖かい胸板に頬が当たる。そのまま、そっと抱き寄せられた。


「よく頑張ったな」


 短い言葉とシロの頭を少し撫でる。たったそれだけで彼女の尻尾は少し揺れた。椅子に座らせ、怪我がないか聞くも、問題ないようだ。


「む、村の皆は無事……?」

「ああ、全員無事だ。にしても、シロは勇者みたいな反応速度だったな」


 アイクにも悲鳴は聞こえたが、助けに行くか迷った。

 珍しい獣族を狙う者の手がかりが掴めるかもしれないと思いついてから行動に移した。

 その間、シロはすでにおらず、悲鳴を聞いた瞬間に走り出しているのを見て、ブレイブの姿と被った。

 戦う才能もあれば、人を助ける才能も持ち合わせているようだ。


「わ、わたしが勇者って、ほ、褒めすぎだろ」

「強さは勇者の足下にも及ばないがな」

「褒めるなら最後まで褒めろよっ!」


 シロは手足を振り、アイクに攻撃する。アイクにとって痛くもかゆくもない。

 シロの体力が回復するまで死んだ悪党を地面に埋める。

 倒したブラウンベアーの毛皮や爪など村の者たちに渡し、手に入れた肉を使い、村の者たちと軽く食事した。


 その際、シロは女性たちと積極的に会話していた。

 何かしら闇ギルドに関して情報を集めているのか、はたまた注意喚起しているのか。

 アイクは他人の話合いより、肉の方が興味深いため、ブラウンベアーの肉をひたすら食らう。ガチガチで臭みが強く、万人受けする肉の味ではなかった。

 フレアリザードの方が美味い。肉食系の獣族からしたら、丁度いい歯ごたえに加え、強い酒に合う臭みが癖になるそうだ。もの好きもいるものだ。


「え、えぇ、あ、あそこを食べちゃうの……」

「そう、そう。でも歯を立てたら駄目よ。もう、産まれたばかりの赤子を扱うくらい優しくね」

「ただ食べるだけじゃなくて、こっちの大切な所も相手に見せつけてやれば、もうギンギンよ」

「あぁ、死にそうになったら超ムラムラしてきちゃった~」


 女たちが集まって話し合っている中、生き残った男達はブラウンベアーの肉を大量に食らい、目を血走らせている。今、ひたすら肉を食って体力を付けなければ! と言わんばかり。


 早めの夕食を終わらせ、アイクとシロは午後八時頃に王都に到着。

 受付で依頼達成の書類を渡し、そのまま部屋に戻った。

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