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勇者の末裔から学ぶ、正義の貫き方  作者: コヨコヨ


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七話 やること

「体を拭け。その後、寝ろ」


 シロは「はい」と呟き、頷くと布を水に浸してしっかりと絞る。アイクの脚に布を当て、拭きだした。


「なんで、俺の体を拭いている。自分の体を拭け」

「え? あ、ああ……」


 どうやらシロは察しが悪いらしい。いや、アイクの口数が少ないのも原因かもしれない。

 アイクは自分で体を適当に拭き、眠る準備を終えたらパンイチでベッドに寝ころんだ。

 シロが濡れた布を使い、新品の下着を付けた薄着の状態で体を拭いている。その姿をベッドの上で寝ころんだままじっと見た。


 ――普通の男なら、気持ちが昂るのだろうか。


「あ、あんまり見られると、困る」

「俺に全てを捧げると言っただろ。なにを恥ずかしがる必要がある」

「そ、そうだが……」


 シロはアイクに背を向けながらブラジャーと下着を外し、その下を手早く拭く。

 マドロフ商会で買った品の中に櫛が入っており、長い髪を梳いた。

 多少なりとも綺麗な状態でいたいと思うのが女の性。シロもこの後、何があるのかわからないなりに身だしなみに気を使った。


 身支度を終えるとベッドに横たわるアイクのもとに下着姿で寄る。

 まだ復讐していないが、抱かれる可能性もあり、筋肉が引きつる。

 改めてアイクの肉体に視線が向く。

 獣族の男よりも隆起した筋肉が体中に鎧のように纏わりついていた。一つ一つの筋肉の境目がはっきりとわかり、男らしい以外の言葉が見当たらない。

 この男に抱かれる。その可能性がちらつくだけで、血の巡りがよくなり、皮膚がほんのり赤みを増す。


「わ、わたしは今から何をすれば」

「もう寝ろと言っただろ。急いでも意味がないことは知っている」


 アイクはシーツを手繰り寄せ、シロの肩までしっかりと掛ける。

 シロは昨日全てを失い、己のすべてをなげうった。目もうつろになり、クマもひどい。実際、昨日から一睡もしていなかった。


「ここに魔物は出ない。闇ギルドの者たちが来ても俺が切る。気にせず眠れ」


 アイクはシロに背中を向け、すぐに寝落ちした。


「な、なんなんだ……、この男は……」


 シロはアイクの広すぎる背中を睨み、寝返りを打って背を向ける。広い背中に背中を当てると家族と並んで眠っていた時のようだった。

 背中を丸め、膝を抱えるように蹲り、声を殺しながらシーツを濡らした。


 次の朝、アイクが目を覚ますとシロが腹に抱き着いていた。よく眠れているように見える。

 右手を彼女の後頭部に当て、かつて母に撫でられていた時と同じようにそっと撫でる。

 日が昇り始めているため、起こす必要がある。ただ、気持ちよさそうに眠っているためどうやって起こせばいいかわからなかった。

 三〇分ほど頭を撫で続け、やっとシロが目を覚ます。


「しっかり眠れたようだな。さっさと着替えろ」


 アイクは上半身を起こし、シロをベッドの縁に座らせてから立ち上がる。体を伸ばし、筋肉をほぐした後、シロが壁に掛けていた冒険者服と外套を身に着けた。


「朝に訓練、仕事で実践、夕方か夜に鍛錬。これが基本だ。本気で復讐したいと思っているのならグダグダ言わずについてこい」


 桶に水を張り、顔を洗う。シロにも同じようにこなさせ、冒険者服に着替えさせる。

 朝食の前の訓練は、シロにとってゴブリンと戦う方がよっぽど楽だった。

 朝練終わりの肉料理を口にしたら「う、美味いいぃ……」と涙をこぼしながら呟く。


 アイクは、今朝に無駄のない体の動かし方を教えた。体力の消耗は出来る限り避ける必要がある。依頼を受けさせ実戦。無駄な動きがなくなるよう戦わせる。

 シロは無駄な知識や経験がない分、アイクの話を全て吸収し、初日のうちに覚えた。やはり戦いの才能がある。


 依頼を終わらせウルフィリアギルドに戻ってきた後、食事前に体をひたすら鍛えさせ、体力と筋力を付けさせる。

 これは一日で変わるような鍛錬ではないため、長い目で見ていた。ざっと三カ月続ければ戦闘に差し支えない筋力と体力を手に入れられるだろう。


 夕食も終えた。あとは体を綺麗にして眠るだけ。

 昨日と同じように体を塗れた布で拭いていく。その際、アイクはベッドの縁に座り、シロに視線を向けながら口を開いた。


「シロ、男を興奮させるように体を拭け」

「は、はぁ? え、ど、どういう意味……」

「俺にもよくわからん。だが、性欲を持っている男は女を見ると興奮するらしい。興奮が最高潮に達すると股間に剣が生えるんだとか、訳の分からんことを言われた」


 アイクが真顔のまま言い続けるため、シロは頭がこんがらがる。


「アイクは性欲を持っていないのか?」

「ああ、今までどんな女を見ても股間に剣が生えなかった」


 アイクに性教育を施したのはブレイブで、彼は普通に性欲を持っている。普段持っている感覚を知らない者に伝えるのは難しく、ブレイブも苦戦していた。


「性欲とは、性的な満足を得るための肉体的な欲望らしい。つまり、俺にシロの体が欲しい、抱きたいと思わせろってことだ」

「そ、そんな無茶な……」


 シロは両目をぎゅっと閉じ、拳を開いたり閉じたりを繰り返す。しゃがんで頭を抱えてしまった。

 ちらりと見たアイクの姿は歴戦の戦士そのもの。

 無駄な脂肪が一切なく、自分より頭一個以上も背が高く、体は二倍以上デカい、糞強い男だ。

 父や母から明日、この男と結婚してもらうといわれても、喜んで! と大声で叫んでいただろう。

 ただ、親からいわれたわけでもなく、自分から目の前の男に抱かれてもらおうとするなど、女としての誇りや越えてはならない一線がある。

 それでも、アイクに全てを捧げると誓った。つまり、すでにシロに拒否権はない。もう、やるしかない。


 シロは息を止めながらブラジャーと下着を脱ぎ、アイクを前で体を拭く。彼の無表情で何を考えているかわからない瞳が向けられ、もうどうにでもなれと言わんばかりに堂々と胸を見せつける。

 だが、アイクの顔に変化は見られない。


「ただ、裸を見せられても何も思わん」


 アイクは女のプライドをずたずたに引き裂いていく。だが、悪気はない。彼から見て女形の木偶人形と素っ裸の女はほぼ同じだった。

 シロも素っ裸でアイクが興奮していたら出会った時にわかっている。それ以外に何かしなければならなかった。


「あ、アイク……、抱いてくれ」


 ベッドの縁に座るアイクにシロは近づき、彼を押し倒す。

 その返答としてアイクは彼女の体を両腕でそっと抱きしめた。そのまま、右手で彼女の頭を撫でる。猫が腕の中に入り込んできたから、そっと抱きしめた程度のしぐさ。

 シロは分厚く金属のように硬いのに血が巡って暖かい胸板に頬を押し当てた状態で抱かれた。

 アイクの微動だにしていない鯨のように遅い心拍に対し、彼女の心臓は鼠のように心拍が速くなっていく。

 おしっこを我慢するときのように股に力がぎゅっと入り、腰が浮きそうになった。そのまま、視線を上に向けるとアイクの藍色の瞳と目が合う。


「どうした、それで終わりか……。これじゃあ、ただ猫とじゃれ合っているだけと変わらん」


 低く野太い若者の声がシロの耳にしっとりと入る。あまりの低音に、尻尾の毛並みが膨らむ。

 シロは頭を撫でられるたび、意識がおぼろげになっていく。

 琥珀色の瞳がとろんとしてくると、思い出したようにアイクから離れた。

 アイクを興奮させなければならないのに、シロの方が惑わされてしまっていた。自ら頬を叩く。


「あ、アイク、好き……。大好き……」


 アイクの耳元で思ってもいないことを口にする。

 アイクは「ありがとう」とだけ答え、シロの頭を撫でる。何か頑張ったら頭を撫でてくる母をまねている。単純に猫の頭を撫でている状況に近い。


 シロはアイクの頬にキスし、彼の股間部分に馬乗りになる。腰を前後させ、大人同士の交尾をまねてみたりする。だが、彼は無反応。

 シロは終始泣きそうな顔だった。――このままだと手を貸してもらえないかもしれない。そう考えると、背後から殺人鬼に追い詰められているかのように必死になる。

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