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勇者の末裔から学ぶ、正義の貫き方  作者: コヨコヨ


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4/12

4 出会う

「バカ野郎っ。商品を丸焦げにしてどうする。フレアリザードをさっさと落ちつかせろ!」

「落ち着かせるってどうやってやるんだよっ!」

「そんなこと、俺が知るか、ボケっ!」


 薄汚れた冒険者服を身にまとった男達がもめている場面に遭遇した。

 一頭のフレアリザードが強烈な炎を馬車に吹きかけ、有機物が燃えた際に出る黒煙がのろしのように天に昇っていく。


「あぁあああああああああああああああああああああああああああっ!」


 燃え盛る馬車を見て発狂している獣族の女が一人。背後で手錠を嵌められ、男に地面に押し付けられている。


「あぁあぁ、無駄な抵抗するから、お仲間がみんな燃えちゃったな。おい、こいつだけでも運ぶぞ。こいつぁ、お貴族様に高く売れるぜ。ブレイブが王都にいない今が稼ぎ時だ。さっさと行くぞ!」


 リーダー各の男が女の首を絞め、窒息させて意識を奪う。

 悪に手を染めた冒険者の成れの果て。盗賊か、はたまた闇ギルドに所属している者たちか。

 闇ギルドは法律を度外視に働き、殺されても自己責任となるような者たちばかりの集まり。どんな依頼でも金を積めば働いてくれるため、貴族からすれば扱いやすい捨て駒だ。


 ただ、暴走したフレアリザードをいっこうに宥められず、辺りの木々が燃え盛っていた。

 このままだと、大規模な山火事になりかねない。それを悟った男達はフレアリザードを放置し、一人の女を拘束して逃げ出した。


 アイクはフレアリザードの首を一撃で落とし、仕留めた後、燃え盛る馬車に『精霊眼』を向ける。大量の『状態:死亡』の表記が現れた。女や子供が荷台に詰め込まれていたのかもしれない。


 ごうごうと燃え盛る木々のおかげで、多くの悪党たちの姿がはっきりと映っていた。もちろん、巨大なクマや(オーガ)を彷彿とさせる迫力を持ったアイクの姿も。


「剣振り人形のアイク……、な、なんでこんなところに」


 アイクは「母さんの教育?」と首を傾げながら答えた。自分もこんなところにいる理由はわかっていない。息するたびに理由など考えていられないのと同じだ。


「ま、まて、話し合おうじゃないか。俺たち、村が襲われているのを見て、こいつを助けてやっただけなんだよぉ」


 視線が右往左往しているリーダー格の男。アイクの周りに仲間達を配置し、ハンドサインで攻撃の指示を出した。

 男達はそれぞれが持つ剣の柄に触れ、引き抜いた。炎の赤と月あかりに照らされる銀色の剣。だが、ふき取れなかった血液の油がほのかに残っていた。


 リーダー格の男がアイクの注意を引き、その他七名ほどの男がアイクに攻撃を仕掛ける。

 だが、アイクは皆の剣を掴むと握力だけで粉砕した。銀の鱗粉が炎に照らされて雪が降っているようだった。

 殺すのはたやすい。だが、ここで殺してしまっては何の情報も得られない。


「一人残っていればいいか……」


 ブラックレイリーの柄を握りしめ、一振り。周囲を囲っていた男達の胴体に一本の線が入る。

 男達は攻撃を躱そうと、身をのけぞらせたが上半身だけが重力に従って後方にズレる。

 肉の塊が二倍になった。

 村でフレアリザードに下半身を食われた男と同じ姿。同情も何もない。


 女を連れた男はすでに逃走を図っていた。この男達は捨て駒に使われたらしい。


「魔王が現れなくとも、いずれ人間は人間同士で滅ぼし合うのだろうな」


 アイクは燃え盛る木々の近くの地面を蹴りつけ、大量の土砂を巻き上げる。燃え盛っていた木々は土砂の嵐を受け、鎮火。

 出来れば水を使って消したかったが魔法が苦手だった。水属性魔法はおしっこしているのかと思うくらいの水量しか出せない。


 悪党は逃げるのが得意なようで、痕跡が簡単に見当たらない。だが『精霊眼』にリーダー格の男の移動経路が光って見えた。すぐに追いかける。

 木々の枝を足場に、はるか上空に跳躍。モモンガが空を滑空するのと違い、アイクの移動方法はバッタのそれだった。


 女を担いで逃げる男の目の前に着地すると、男は吹っ飛ばされ、女を手放した。腰が抜けた男はあとずさりながら、未だに逃げようとしている。


「死にたくなければ、なぜこんなことしたのか吐いてもらおうか」

「わ、わかった、わかった。お、俺たちは珍しい獣族を高い値段で買い取るという匿名の依頼を受けただけだ……。そ、それ以外は何も知らない」


 男は情報をペラペラと話し、自分の命に必死にしがみ付いていた。

 アイクは情報を得た男に用はないが、死を選ばず情報を吐く方を選んだ男を殺さずに王都に連行すると決めた。大人しくしているように伝えておく。


 その後、気絶している女のもとに近づいていくと、男は逃げだした。

 死にたくはないが、捕まって奴隷になりたくないらしい。何とも自分勝手な男だ。

 逃がすわけにはいかないため、切ろうとした瞬間、地面から魔物が飛び出し、男の下半身を咥え込んだ。

 地面に住む魔物で、モグラに鱗が生えたような姿のタルピドゥだった。地面から飛び出し、獲物を咥え込んで地上に勢いよく落下し捕食する習性がある。

 十メートル近く上空から落下の最中、男は「た、たすっ!」と声を荒げたがアイクは振り向きもしない。激しい衝突音と共に、トマトが潰れるような音が響く。


 先ほど地面を勢いよく蹴り飛ばした影響で、タルピドゥを刺激してしまったらしい。

 倒れ込んだ女を肩に担ぎ、村まで戻る。

 森の中を『精霊眼』の導きにしたがって移動していると、女の体がピクリと動いた。

 その瞬間、アイクの背中を蹴りつけ、腕を首に回し、重心の移動を使ってアイクの体を投げ飛ばそうとする。

 体が柔らかく、しなやかで悪くない動きだったが、体幹が鋼で出来ているようにガッチガチのアイクは崩れない。

 体に蛇が纏わりついているような状態のまま、村まで走る。


 色白で髪まで白い女は「放せっ!」や「死ね、死ねっ!」、「ぶっ殺してやるっ!」と様々な暴言を吐きながらアイクの体を攻撃した。

 体に纏わりついてくるため、持つ必要がなくなり両手が空く。


 ――この方が走りやすいな。


 ただ、のんきに放置していたら首に噛みつかれ、血が流れる。致命傷に程遠い。そのため、無視した。


 馬車のもとまで戻ってくると地面から這い出たタルピドゥが男達の死体を食べていた。焦げた馬車の方は食い物だと思っていない様子。

 ここまで来ると女も冷静になったのか、地面に飛び下りた。

 すぐに馬車に駆け寄る。力づくで手錠を破壊した影響か、血がにじんでいる手を使い、灰の山から仲間だった者を掻き分けようとしていた。

 狼が遠吠えするように空に向かって大きく吠えるものの、返事する者は誰もいない。

 逆に、新しい獲物だとタルピドゥが女に狙いを済ませた。女はピクリとも動かず、その場で茫然と泣き崩れている。


「そこにいたら食われるぞ」


 返事はない。女はまるで、死を望んでいるようだった。

 死にたいと思っているなら、助ける必要もないだろう。だが、生きたいと思っているなら助けるほかない。


「死にたいなら、動け。生きたいならその場でじっとしていろ」


 アイクはブラックレイリーを引き抜くと、女の周りに寄っていたタルピドゥだけを切り刻み、土の養分に変える。

 他に魔物の反応はないため、女をその場に放って村に戻る。


 ふと振り返ると、炎の影響で葉が燃え、森の中にぽっかりと開いた場に月明りが大量に入り込んでいた。

 黒い煤や灰の上に呆然と立ち尽くしている女の髪や肌は土や汗、煤で汚れているにも拘らず、月あかりを反射し、真っ白だった。

 生きているのか死んでいるのかわからないほど動かず、彫刻のようだ。


 ――あの村が、悪党より弱かった。それだけのことだ。


 村に戻ったアイクは村に住んでいた獣族達を土に埋めていく。

 そのまま、放置して王都に帰ってもよかったが放置しておくとアンデッドになる可能性がある。後処理まで含めて仕事の内だ。――まあ、これは仕事ではないんだがと心の中で一人ごちる。


 埋葬を終わらせると、東側の山脈が明るくなっていた。

 いつの間にか、朝日が顔を出す時間帯だった。


 王都に帰ろうとしたころ、山道の方から女が歩いてくる。一晩中、涙を流していたのか眼元が赤く染まっていた。

 男達は珍しい獣族を探していると言っていたが、確かに彼女の白さは『精霊眼』を使わずとも珍しいと、アイクにもわかった。

 獣族の中でここまで白い姿の者を見た覚えがない。


「わたしの全てを捧げる……。だから、力を貸してほしい」


 女は黒く汚れた地面を素足で歩き、アイクの近くで両膝をつく。そのまま額を地面につけ、土下座した。

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