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正義を振りかざす最強勇者  作者: コヨコヨ


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二十三話 辛い思い

「シロ、すまない。パックスに死ぬよりも辛い思いをさせられそうにない」


 アイクはブラックレイリーの柄を握りながら首にぶら下がっていた。

 シロは首を横に振り、口角を上げ、少し笑った。


「復讐はなんの意味もないんだってわかった……」


 シロは土人形を沢山殴って倒しても、何も変わらなかった。


「きっと本人を殴ってもすっきりしない。パックスを殺しても、皆が返ってくるわけじゃない。己のすべてを犠牲にしてまで果たしたかった復讐に、なんの意味もなかった。でも、それと同時に新しく得たものもあると理解できたの」


 アイクの『精霊眼』に映るシロの情報はさっきとほどんど変わっていない。にも拘らず、彼女が子供から大人になったようだった。

 シロは問題を放棄せず、沢山考え悩み苦しんで答えを出した。簡単で何も生み出さない道ではなく、難しくとも自分で出した答えの道を歩み始めた。それが成長に繋がったのだろう。


 シロの復讐に燃えていた琥珀色の瞳は日差しのように透き通っており、近くや過去ではなく、未来を見据えている。


「良い顔するようになったな」

「む、無表情のアイクに言われたくない」

「お二人さんっ! いい雰囲気のところ悪いんやけど、まだ終わっとらんよっ!」


 ドリミアはゴーレムの顔面を拳で砕き、パックスの上で会話しているアイクとシロを急かす。その声を聞いた二名は我に返り、上空から地上を見る。


「ど、どどど、どうするのこれっ!」

「シロ、今すぐ地上に下りろ。このまま王都から離れてくれるまで俺が面倒を見る」


 シロは首を横に振り、巨大なパックスの背中を殴る蹴るを繰り返す。だが、高度は下がらず上がる一方だった。

 パックスがはるか上空に移動すると、ブラックレイリーが刺さっている首に変化が起こり、細くなり始めた。

 尻尾側が太くなり、パックスの顔が付いた頭部が生れる。どうやら尻尾と首が反転したようだ。

 パックスの口が光り始め『精霊眼』で見覚えのある空から見た王都に狙いを定めていた。このままでは、王都が焼け野原になる。ブレイブとの約束が果たせない。


「おっら!」


 アイクは尻尾を思い切り引っ張り、鞭のようにしならせた。

 波がパックスの頭に到達し、強力な炎の噴射を王都から反らす。真っ赤な線が上空に一本入ると大爆発を起こし、雲をかき消す強風が吹いた。王都に当たっていればどれほどの者が死んでいたか定かではない。


 東側から日が昇り、真っ赤に燃えている。『精霊眼』によると高度千メートル付近にいるようだ。ここまで来ると、大地が円の端のように湾曲している。これほどの高所から地面に叩きつけられれば、アイクも無事で済まない。

 だが、シロが受ける衝突を押さえることはできる。


「シロ、こっちにこい」


 パックスの背中にしがみ付いていたシロに手を伸ばすと、彼女はすぐにアイクに飛びつく。


「ア、アイク、この化け物の中にパックスの心臓がある。それを止めれば……」


 シロの耳は巨体の中にあるパックスの小さな心臓の音も聞き分けた。どこにあるかまではわからないようだが、心臓があるなら弱点で間違いない。

 今、この場で出来ることも少ない。


「死んでも放すなよ」

「放さないっ。絶対、放さないっ!」


 アイクはパックスの尻尾に刺さっていたブラックレイリーを引き抜いた。重力に従い、落下していく。その途中に呼吸を整える。

 左手はシロの後頭部に添え、軽く抱きしめておく。一定の距離が生れ、パックスの全体像が映し出された。

 パックスの口が眩く光り、高圧縮された熱線が放たれようとした瞬間、ブラックレイリーの柄が割れそうなほど右手に力を入れたアイクは空間を切り裂く勢いで振り抜く。


零閃(れいせん)


 光りの太刀筋を置き去りにした一撃はパックスの巨体を空間ごと抉り、切り損ねた尻尾の先と頭部以外消滅していた。


 残っていたパックスの頭と尻尾の先がチリに変わり、切られた空間に吸い込まれる空気にかき消されていく。


 シロとアイクは重力に従い、空から地面に真っ逆さま。

 ブラックレイリーを鞘に戻したアイクはシロを両腕で抱きしめる。死ぬかもしれないが、無表情なのは変わらない。だがシロを見ると、身に力が入った。


「シロ、お前の復讐は終わった。加えて今、俺もお前をちゃんと抱いた。助かったら好きに生きるといい」

「な、なに言ってるんだ。抱くなら、ちゃんと抱けよっ! わたしは、わたしは!」


 大人になったシロはまたすぐに泣き始めた。朝焼けに当てられた真っ白な肌が赤く染まり、声が詰まっている。

 もう、言葉など必要ないといわんばかりにシロはアイクに口づけした。長かったような、一瞬だったような口づけが終わると口を開く。


「わたしはアイクが好き……。だから、絶対に離れない! わかったか!」

「……わからん」

「わかってよぉおおおおおおおおっ!」


 シロが叫ぶと「わかるよ、その気持ち」と爽やかな声が聞こえる。アイクに向いていた視線を声が響くほうに向けると、真下に真っ赤な鱗が生えた化け物に乗る一人の黒髪青年が立っていた。アイクの背中に手を当てると急速落下がゆっくりと止まる。


「ブレイブ、助かった」

「どういたしまして。まあ、いろいろ聞きたいところがあるけれど……、とりあえず、その子とのなれそめを聞かせて!」


 真っ黒な瞳を宝石のように輝かせるブレイブはシロを抱きしめているアイクにずいずいと近づき、質問攻めにした。


「あぁ~、ブレイブくんだけズルい。私も聞きたーい」


 長い首を擡げ、翼を羽ばたかせるミリュは腹の底から声を出し、シロを子猫のように震わせる。アイクがいっていた自分より強い男が一目でわかり、声が出なくなっていた。


「ミリュさん、このまま王都に下りちゃうと、皆が怖がるから外壁に下りて」

「はぁ~、本当に融通の利かない国」


 パックスの数万倍神々しい姿のミリュは外壁に着地し、光に包まれると人型に変化した。魔力で作られた真っ赤なプリーツドレスがミリュの体を包み、ブレイブの隣に立つ。

 ブレイブとミリュはシロと自己紹介を交わした。その後、アイクに事情を尋ねるがアイクの説明が下手くそでシロがほとんど説明した。


「ルークス王国でそんなことが……。早めに切り上げて来てよかった」

「魔物や獣族を暴走させる薬ねー。たちが悪いわ」

「約束通り、王都は守った。後は任せる」


 アイクはベンゼ公爵家や奴隷などの後始末は世渡り上手なブレイブに任せ、シロを連れてウルフィリアギルドの部屋に戻ってきた。

 全身が汗や砂で汚れているため、濡れた布で綺麗に拭いていく。シロの拳を洗うと傷がついているためポーションを垂らし綺麗に回復させた。


「体力は残っているか?」

「あ、ああっ! ど、どんとこい!」


 シロは体を綺麗に拭いたのち、ベッドの縁に座りブリキの玩具のようにガチガチになりながらも大声で返事する。

 キスした辺りから、鼻息が荒くなり、頬や首回りが赤らんでいる。

 高所からの落下や化け物との遭遇など生命の危機を得て子孫を残さなければと体が反応しているようだった。

 アイクに抱かれる準備や心構えは完全に出来上がっていた。


「そうか。なら、仕事に行くぞ」


 アイクは体を綺麗にした後、新しい上着を着て外套を羽織る。今日の依頼はまだ受けていないのだ。「その前に、朝食か……」と無表情で呟いている。


 素っ裸のままベッドに座るシロは顔が熟したトマトのように赤くなる。勝手に盛り上がっていたのを恥じるように頬を叩いた。下着と冒険者服を着こみ仕事の準備を終える。


 食堂でサンドイッチを食った後、アイクたちは依頼をこなすため王都を出た。


 何事もなく依頼を達成したアイクたちはウルフィリアギルドの食堂でブレイブとミリュに遭遇。流れるように食事の席に誘われた。


 アイクはブレイブと、シロはミリュと会話する。

 会話の途中、女組はミリュが一方的に盛り上がり、シロと共に席を外し、アイクとブレイブを置き去りにウルフィリアギルドを出た。

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