十七話 状態
「少々目的と違う収穫だが、とりあえず王都に帰るぞ」
「あ、ああ……。わかった」
シロはアイクの戦う姿を真正面で見て、未だに空いた口が塞がらない。
座り込んでいるシロの前にアイクが立ち、彼女の頭を撫でる。己より強い敵の前に立ち、戦った点が高評価だ。
頭を撫でられ続けているシロはむすっと表情を顰めていたが、尻尾は上を向いており、耳も立っている。
木々に拘束した闇ギルドの者たちは未だに伸びており、マクロープスと一緒にルークス王国の王都まで運んだ。
闇ギルドの者たちは騎士に差し出され、奴隷落ちの処遇となる。
マクロープスは死んでいないが、アイクの一撃で失神している。だが、いつ目を覚ますかわからないため、研究者たちに注意するようキアズに伝えておく。
相手が欲している見本ではない可能性があるため、アイクとシロは襲われた村の状況を確認するとともに、見回りを再開。近場のため数回なら王都と行き来できた。
「アイクが勝てない相手っているのか?」
見回り中、シロの質問を受けたアイクは遠い山脈を見つめながら「ああ、いる」と呟いた。
あまりにあっさり答えられ、シロはまたあっけにとられる。何度も首と手を振りながら、軽い笑い声をあげた。「謙遜でしょ」と苦笑しながら突っ込む。
「俺はある男に一度も勝った覚えがない」
アイクの低く深い声が響き、やっと嘘ではないと第六感で感じ取ったシロは背筋を伸ばし、肩を抱く。
「まあ、ルークス王国にいればいずれ会えるだろう。一目見て求婚はするなよ。近くにいる女に消し炭にされる可能性がある」
「きゅ、求婚なんかするか。わ、わたしのすべてはもう……、アイクのものなんだから……」
シロは頬を赤らめながらぼそぼそと呟いた。復讐すると誓った時、シロのすべてはアイクの所有物となっている。別の男に求婚する未来はない。
「あいつなら、獣族でも嫁に取ってくれる。紹介してほしければ俺に言え。獣族は強い者と結婚するのが習わしなのだろう?」
「集落によるだろ。あと、わたしはアイクのもとから離れる気はないからな。復讐が終わっても離れないからな!」
シロが大口を開けながら騒ぎだしたのを見て、アイクは首をかしげる。
出会った時よりも、懐かれているものの彼女との関係は彼女の復讐が終わるまで。その後、彼女を抱いて自由にするつもりだった。意見が食い違うが、今は依頼に集中する。
獣族の村や街を渡り歩き、魔物で騒動を起こし、混乱したところを狙って犯行に及ぶ闇ギルドの者たちを次々捕獲、または討伐。
魔物は捕獲し、王都まで持ち帰る。ギルドマスターの依頼は完璧に達成したといっても過言ではないだろう。
夕方に王都に戻り、シロと訓練場で鍛錬を積む。その後、夕食に肉を食ってシロは図書室に、アイクは闇市に向かった。
パックスが尻尾を見せ、薬を所持していれば拘束して騎士団に叩きつける。そうすれば、事件は解決するだろう。
だが、長時間待ち続けても顔を出さない。
――あちらから来てもらおうか。
闇ギルドが獣族の村を襲っているならば、単純に闇ギルドが減れば被害も減る。
アイクはフードを被り、廃墟のような建物を根城にしている闇ギルドの中に入った。受付の男の前に堂々と立ち、見下ろす。すでに、裏にいる人物に検討が付いているが確証はない。
「珍しい獣族を欲しがってる依頼主は誰だ」
「……知らねえな」
「闇ギルドの連中が、知らないで済むと思ってるのか?」
「本当だ。俺は運びの口を紹介しただけだ」
「金を積む。今の倍だ。名前を言え」
「……無理だ」
男は一瞬、視線を伏せた。
「言えねえんだよ」
「言えばどうなる?」
「……俺の命じゃ足りねえ」
「じゃあ、今ここで死ぬのと、どっちがマシだ」
「同じだ。どっちにしろ終わりだ」
「口止めか」
「……ああ。名前を口にした瞬間、俺は消される」
「誰に?」
男は喉を鳴らし、かすれた声で吐き捨てた。
「それを聞くな」
アイクは人間を切り捨てず、闇ギルドの建物を崩壊させる。逃げだした輩を捕獲し、騎士団に突き出した。
闇ギルドはゴキブリのように潰しても潰しても湧き出てくるため、一つや二つ消しても根本的な解決にならない。
だが、獣族の依頼について話を聞いてくる点と、闇ギルドが潰されるという噂が広がれば、パックスは何かしら反応を見せるはずだ。
自分を嗅ぎ回っている者がいるというのは、気持ちがいい話ではない。
アイクの情報を求めて、闇市に顔を出す可能性は十分ある。パックスの部下が来るかもしれないが、それはそれで好都合。パックスが反応している証拠だ。
闇ギルドを四つ潰したアイクはウルフィリアギルドに戻る。
図書室に足を運び、シロが勉強している机にやってくる。彼女は愛や性、恋愛などの本を読んでいた。人間と獣族の感性は違うが、彼女が読んでいるのは人間が書いた品。理解できるのだろうか。
アイクは理解できないため話を聞くためにその場にいたが、シロは本を元の位置に戻し、何も言わない。
二人で部屋に戻り、体を濡れた布で拭いた後、ベッドに寝転がる。
『状態:絶頂』を経験したシロはアイクにも同じ感覚を味合わせるべく、毎日のように彼を興奮させようとするが、決まって返り討ちにあった。
今では、股を撫でられるだけで簡単に『状態:絶頂』に陥る。
「あ、アイク、まって、まって、また来ちゃう。ちょ、待ってってばっ!」
「俺は何もしていないが……」
シロはアイクの股に跨り、棒状の性器を股間に擦りつけていた。
これではアイクが興奮しないと知っている。だが、腰がヘコヘコと止まらない。
股間でスライムを引き延ばしているのかと疑うほど濡れている。
溢れ出る愛液で濡れた股間が燃えるように熱い棒状の性器に擦れるたび、腰が抜けそうになり、引ける。
動きは止められず、息がつまり「んっ」や「あっ」と声が漏れだす。
「なんで、なんで、アイクじゃなくて、わたしのほうが……こんな、興奮して、わけ、わかんないっ」
腰を前後させるほど琥珀色の瞳がうつろになり、口角が上がる。
「シロ、無理するな」
「アイクにも『状態:絶頂』を知ってほしいの……。さっさと、わたしを求めてほしいから、やめないっ」
全身に、さわやかな汗を掻き、体のコントロールが効かなくなる。
「あ、あ、いく……。あ、あ、いくぅ……」
腰が跳ねると、シロの息が一瞬止まる。アイクの骨盤に手を当て、尻が軽く持ち上がり、尻尾が天井に突き刺さる勢いで上を向いている。『状態:絶頂』になっていた。
「アイク、ごめん……、また……」
シロは全身から力抜けると、ペタンコ座りしながら項垂れる。最近、感情を抑えられなくなっており、アイクの興奮を引き出すより己の欲求を満たす方に流れてしまっていた。
アイクから頼まれたのは彼の性欲を沸き立たせること。
一ヶ月半近く経ったが、変化の片りんは一切見えない。その状況にシロは謝るしかなかった。
村を襲った元凶の捜査は進んでいるが、ほとんどアイクに頼っている。
それに加え、むしろシロの性欲が増し、彼に何も返せていない状況にもかかわらず、今まで得た覚えのない刺激に酔いしれてしまっている。
その事実を『状態:絶頂』によって突きつけられ、肩を落としながら瞳が潤む。
「なにを謝っているのか理解できない。シロは何か悪いことしているのか?」
アイクは無表情のまま、うなだれているシロの頭を撫でる。
頑張ってアイクの性欲を沸き立たせようとしている彼女の努力は、彼が頭を撫でるほどにしっかりと伝わっている。
そのため、彼女が何に謝っているのか理解できず、首をかしげる。
アイクからすれば、シロは謝る必要など一切ない。
「辛くないなら、このままでも構わない。もともと、ダメ元で頼んだ話だ。上手くいかない方が普通だろ」
「うぅ……、なんでそんなに優しいの……」
撫でられている最中、シロは顎を引き、目を閉じて震える声を戻すために深呼吸する。その場でじっとし、身動きしない。
「俺は自分を優しいと思った覚えはない。むしろ厳しい方だろう」
アイクはシロに優しくしたつもりは一度もない。訓練や仕事、鍛錬の時、全て厳しく接してきた。手を抜かず、抜かせず、今日まで過ごしている。そのため、なぜシロが自分を優しいと思っているのか理解できず、ひたすら彼女の頭を撫でる。
頭を撫でられて喉が鳴るシロ。
かぶりを振り、アイクを興奮させる方法をひたすら試す。もしかしたらないのかもしれない。それでも、諦めるなら全てをやりつくす必要がある。
「わ、わたし、もっと頑張る」
「自分を追い込む必要はない。シロが性器を頬張ったり、絶頂している時は幸せそうだからな。それを見るだけで、俺は食事後のような気分になれる」
「わたし、いつも、アイクの前でどんな顔しているんだよ……」
シロはアイクの胸に抱きつき、絶頂の余韻に浸る。その間、ずっと頭を撫でられる。
時はひたすら緩やかに流れた。




