十二話 冒険者
シロの体が真面に動けない中、アイクは上半身を擡げ、突き出ている彼女の尻を何度も摩った。
――これはこれで、手が休まるな。硬い部分ではなく柔らかい部分を触ると、女に触れていると実感できる。
「ア、アイク、これ、変になる……、もう、無理」
シロの声でアイクは手を止める。真っ白だった尻はほのかに赤みが増していた。
触れていないにも拘らず、シロの体は未だに小さく震えており、その場にぐったりと倒れ込む。尻を撫でられただけで体力が切れたらしい。
――尻が急所なのか?
今はシロに質問するのを止め、睡眠を優先させる。彼女の脇に手を入れ、ベッドに横たわらせた。シーツを肩まで掛け、しっかりと休ませる。
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闇市を調べてから七日程通い詰めたが、商人や貴族が闇ギルドに薬を売りつけている現場を目撃できなかった。
今でも闇ギルドや盗賊が獣族を攫っている事件が多発している。その際、魔物を暴走させている手口は頻繁に使われていると、ウルフィリアギルドに報告が入っていた。
獣族とてルークス王国の地域内に住んでいる。ある程度の税金も払っており、襲われた村の地域を所有している貴族らが税収の減少を嫌い、ウルフィリアギルドに捜査の依頼を出したようだ。
人間が皆、獣族を煙たがっているわけではない。彼らが魔物を頻繁に狩ってくれているおかげで人族の村や街に魔物の被害が被るのを事前に防いでいる。
その獣族の村がなくなればどうなるか。単純に魔物の脅威が別の場所に向けられる。
ブレイブがルークス王国にいない今、獣族の村が減り、人間の村や街の魔物による被害が増加した。
あまりに状況が重なり過ぎており、アイクは眉を顰める。
ブレイブはミリュという竜族に乗って移動することにより、広大なルークス王国中を飛び回り依頼を大量にこなせた。
彼の強さもあるが、一番大きいのはミリュという竜の移動範囲が広大過ぎること。ミリュの移動速度があるからこそ、ブレイブは大量の依頼を一度にこなせている。
実際、彼がルークス王国の冒険者ギルドで仕事するようになってから、犯罪が一気に減った。魔法による通信技術の発展により、ギルド間のやり取りは手紙の何倍も早く、ブレイブの耳に届けばルークス王国の辺境まで一時間と掛からずに到着する。
そんな、化け物がいない今、悪事が盛んになっていた。
明らかに、ブレイブがいない時期を狙って犯行している。
『アイクがルークス王国を守って』
ブレイブの言葉がアイクを嫌でも突き動かした。
ルークス王国の人間がルークス王国を苦しめているという皮肉な状況にも拘らず、わざわざ守らなければならない。
だが、不覚にも了承していた。
ブレイブが戻ってきた時、ルークス王国が守れておらず、奴に見下されるのは気に食わない。
生憎、ルークス王国は冒険者が多い。そのため、全てアイクが解決する必要はなかった。普段の魔物討伐依頼が、街に入り込んだ魔物や村を襲う魔物の依頼に変わるだけだ。
「すまないな、シロ。復讐の件は少々先になりそうだ」
アイクはウルフィリアギルドの受付で、魔物の被害を現在進行形で受けている街や村の依頼を多く受ける。
「いいや、気にするな。アイクの力をわたしが独占するのもおかしい。一緒に多くの者を助けよう」
一ヶ月近くアイクと訓練していたシロはすでにレベル40になっていた。加護の力か、はたまたシロの努力の成果か。おそらく、両方合わせて真価を発揮している。
最初は復讐のためだけに生きていると言っていたが、まるで生きがいを見つけたかのように毎日活力に満ちていた。
もちろん、復讐を忘れたわけではない。だが、それ以上にアイクと人々を救うのが助けられなかった者たちの償いに近しく、培った力を善行に役立てることに時間を使った。
強くなればなるほど、アイクの高みの凄さに舌を巻く。そこまで行くのにどれほどの訓練が必要なのかと考えるだけで耳の裏を掻いた。
そんな彼の近くに居ると……。
「なに、ぼうっとしている。早くいくぞ」
シロは「は、はいっ!」と裏返った声で返事する。息がつまると同時に耳がへたる。
アイクとシロは魔物の被害を受けている街に到着。
増えたゴブリンやオークの群れが街の中に土石流のようになだれ込み、一般市民たちを震え上がらせていた。
どれだけ弱い魔物でも、数が増えれば国を落とす脅威になりえる。
獣族の雄が狩りの練習で倒すゴブリン、一人前と認められるために一対一で討伐するオークなど、獣族が村の仕来りで頻繁に狩っている魔物の大量発生が見受けられた。
そこから、多くの村が闇ギルドに襲われていると推測された。はたまた、危機感を覚え、村の防衛に力を尽くしている可能性もある。
そんな話をシロから聞き、アイクは獣族の存在そのものが大切なのだと腑に落ちた。ルークス王国を守ると約束した手前、目を背けるわけにもいかない。
アイクとシロはゴブリンとオークをかたっぱしから倒し、街の中に入った個体を全て駆除し終えた。村や街を転々とし、魔物を次々に討伐。
「他の冒険者たちって、何しているんだろう……」
王都とまで行かずとも、街ほどの大きさとなれば冒険者ギルドが配置されている。冒険者も滞在している中、いつもいつもアイクが駆除している気がするとシロは言う。
「駆除できる状況なら、わざわざ王都まで連絡は来ない。対処する方法がないから依頼が来る。それだけだ」
アイクは他人に期待していないため、冒険者たちが怠惰とか、腑抜けているとか、一言も言わなかった。受けた依頼をこなす。ただそれだけの精神で、魔物を狩っている。
良心で依頼は受けておらず、強くなれるかもしれない難しい依頼ばかり受けた。そのため、余計冒険者が手を出せない状況が多い。
シロが一体のゴブリンを倒している間に、アイクは五〇体、六〇体以上も駆除しているため、シロの存在はおまけでしかない。ただ、彼女に明確な仕事がある。
「子供が逃げ遅れている!」
鋭い聴覚が子供の小さな声も聞き洩らさず、人の救出数に関してはアイクよりも多かった。
アイクも『精霊眼』を使えば、逃げ遅れた者を見つけられるが人を助けるよりも戦って強くなる方が優先のため、シロの方が人を多く助けている。
――人に村を滅ぼされたというのに、人助けしているのも皮肉が効いているな。
アイクとシロの仕事範囲はルークス王国の中央に位置する王都から行き返り出来る距離。馬を超えるアイクの速度でも、ルークス王国全体を巡るのは不可能だった。竜族の移動速度の異常性がよくわかる。
仕方がなく受けた依頼の数々だったが、村や街を襲う魔物たちは薬によって暴走させられている個体が多かった。
どれだけ獣族の村が減っているといっても、常に村や街が無防備なわけがない。
普通の魔物なら問題なく対処できている場合がほとんど。だが、薬によって暴走させられているため、いつもより狂暴、加えて討伐難易度も一つ上がるほど強くなっている。これが人為的ではないという方が無理な話だ。
何者か薬を盛り、魔物を狂暴化させている。数の多さからして、水や食料に混ぜ込んである可能性が高い。
ただ、東西南北、バラバラの箇所で発生しているため、一人で起こした事件とは考えづらい。
敵は複数いる可能性が高かった。加えて獣族の村を襲っている者たちが使っている薬と同じ品を盛られた魔物が人の街を襲っている。
「なにが目的なんだ……」
「元凶は珍しい獣族が目当てなんだろ。人の村や街に獣族は少ない。狙う必要がない」
「関係性があると考えた方が良さそうだな」
アイクとシロはルークス王国の王都から南に移動し、国内でも五本の指に入る大きさの街にやってきた。
狂暴化したベアー系の魔物が入り込んでいると報告を受けている。
――魔物の数が少なければ、シロに戦わせ戦闘経験を積ませよう。
街に住む者たちは建物内に避難しており、外に人の姿は一切見当たらない。
冬場ではないのに、肌を刺す空っ風が吹いている。鳥や昆虫のいない森の中のように静かだった。
ベアー系の魔物がいるなら、足跡や建物の痕跡、巨体など、すぐに見当たるのが常だが見当たらない。『精霊眼』で捜索するもベアー系の魔物の痕跡は見当たらなかった。
来る場所を間違えたのかと疑うが『精霊眼』の導きに従っているため場所を間違えたわけでもない。




