第三章 崩壊(27) 操る者(2)
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「その司祭の名は・・」
「リューク。」
ワーロックの問いにカイが答える。
「リューク・・」
ワーロックはカイを見、
「綴りは。」
と質問を続けた。
「R・u・e・c・・・」
「リューク・・R・u・e・c」
ワーロックは暫く考えた。
「いかん、カイすぐにミッドランドに戻りその男の情報を集めてくれ。
邪神ルグゼブが復活しようとしている。」
ワーロックは珍しく大声を上げた。
何をそんなに慌てるのかカイには理解できなかった。が、ワーロックの命、カイはすぐに旅仕度を調え、ニュールベルグを出ていった。
「ずいぶんな慌てているようではないか。」
“霜の国”の第三層に帰った。ミーミルが声を掛けた。
「邪神が復活する・・いや既に復活して、成長を始めているのかも知れない。」
「何故そう言える。」
「R・u・e・c・・並びを変えれば・・・」
ワーロックは深い溜息をついた。
邪神は二つが一つになったカミュと伴に滅んだはず・・それが何故・・・
ワーロックの悩みは深かった。
「この泉は“智恵の泉”と呼ばれる。」
ミーミルは“世界樹の木”の足下に湧く清浄なる泉の水をすくった。
「この水を飲めば、全ての答えを得る・・がそれには代償も必要だ。」
解っている・・という風にワーロックが肯いた。
「代償は人としてのお前の命・・二年の猶予を付そう。」
ミーミルの声が辺りに谺した。
ワーロックは悩んだ・・が、意を決した。
「飲みましょう・・それで謎が解けるのなら。」
ワーロックは片手に“智恵の泉”の清水を掬い取った。
× × × ×
ハーディの下、ナザルが軍事を統括し、四天王と呼ばれる者達がそれぞれの戦域に赴いた。
バルハードが治めるミズールへはメイエスとガロスが向かい、ナザルが直接みるニクスへはタリスとヴォーゾが就いた。
バルハードの元へは他に騎馬隊を扱うイーラス、それにシュルツの重装歩兵隊が送られ、ドボーグに居るキーンの下に就いた。
ヴィンツには薄くバルハドスには厚く、ハーディが治める帝国のその布陣をみると狙いはバルハドスからロゲニア。それは明らかだった。
ロゲニアはフレンツ川の東岸に旧バルハドスの残党を集め、抵抗を試みた。後詰めはロゲニアの正規軍一万。ロゲニアはランドアナが軍縮に走る中、軍拡を進めていた。現にバルハドスの残党は五千以上も集まり、ランドアナの軍はそれぞれ千ずつを持つだけだった。
総計一万五千の敵兵に対し、キーンは無謀にも三千の軍で戦いを挑んだ。
結果は当然散々。敗戦にも係わらずこの時期にログヌスのハーディはランドアナ帝国を改め、ミッドランド全体に冠するアルガッディ大帝国を宣した。
「愚か者が。」
ロゲニアの旧総督・・今は国王になったロースは進軍の檄を飛ばし、軍はフレンツ川を越えた。
キーンの軍を叩き伏せ、籠城を決め込んだドボーグに迫った。
ドボーグの後にはミズールからの援軍四千。それを合わせてもロゲニア、バルハドス連合軍の半数にも満たなかった。が、その軍は強かった。連合軍はバルハードの矢に追われ、騎馬騎士メイエスに陣容を突破され、ガロスが率いる戦士に蹂躙された。
退け・・と声を掛け振り向いた先には何処からどう回り込んだのかハーディの旗を持つ黒の騎士団が居た。
踏みつぶせという号令も虚しく、五百程度の騎士団に次々と連合軍の兵士が倒されていった。無事にフレンツ川を東に渡った者は総勢の半数以下に過ぎなかった。
この戦いに参加した全勢力がドボーグに集結した。元々この地を護っていたキーン、イーラス、シュルツの軍それぞれ千、ミズールから駆けつけたバルハードの軍二千とメイエスとガースの軍それぞれ千。それにハーディ直属の軍三千、その中には例の漆黒の軍団もあった。
「ロゲニアの兵力は。」
諜報を担うキーンにハーディは訊いた。
「本国に五万、バルハドスに送った軍が一万と聞きます。
それにバルハドスの残党が集まり、その数二万。
とてもこの数では・・・」
「只今着きました。」
そこへリュークの部下ダルスが率いる二千の精鋭隊と民衆兵三千が到着した。
「それでも・・・」
キーンは不安を顔に表した。
「三日後に川を渡る。準備を。」
ハーディはキーンの表情を意にも介さず、そう言い放った。
先鋒はキーン、無頼の者達も集めその数は二千に近くなっていた。その前を固めるのはシュルツの正規軍千。先駆けは騎馬隊を率いるイーラスの軍千であった。
第二陣はダルスの精鋭軍、その前にあるのは民衆兵三千、両翼にはメイエスとガロスの軍。
バルハードの弓隊は本陣であるハーディの前を守り、ハーディの本陣は千ずつの騎馬隊二つを友軍となし、その前面には重装歩兵五百があった。
そして言うまでもなくハーディの側近には漆黒の鎧軍団五百が控えていた。
ハーディの遠征軍はその陣容でフレンツ川を東に渡る。当然ロゲニア、バルハドス連合軍の抵抗は激しくなった。
キーンの戦術は稚拙だった。先鋒は徐々に数に圧され苦戦を強いられた。だが、ハーディは唯単に戦いを時の趨勢に任せた。
「泥沼化しますな。」
そんなハーディの横にはリュークが立っていた。
「それが望みであろう。」
ハーディは将机の上からリュークを見上げニヤリと笑った。




