第三章 崩壊(24) 善なる者と悪なる者(4)
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ルードは辺境の山奥の村に白い狼に率いられた狼の軍団が押し寄せたことを耳に挟んだ。
母かも・・・ルードはそう思った・
「行ってみるかい。」
そんなルードの耳にクローネの声が聞こえた。
二ヶ月ほど前、傍若無人の限りを尽くした集落を去る時に消えた彼女の声だった。
「お前・・今まで何をしていた。」
そう言うルードにもこの二ヶ月の記憶は曖昧だった。
「久しぶりにやるかい。」
「ああ・・そろそろフラフラするのにも飽きたしな。」
ルードは首を強く振ることで戸惑いを消し、狼の遠吠えのような声を上げた。するとそれに応え山狗達が集まってきた。が、その中に母たる白狼はいない。
「やはりいないか・・・」
ルードはケイルを振り向いた。
ケイルも寂しそうに目を伏せた。
「やるよ。」
クローネはそんな事には目もくれない。駆け出す山狗の後に自身も続いた。
上空からは大きな白頭鷲が他の鷲たちを従えて村を襲った。
だがこの村は今までとは違った。綺麗な弓列を作り、組織だって矢を放ってきた。それに射られ鷲が、山狗が傷ついていった。
特に山狗の群れ・・統制がとれていない。
母がいれば・・・ルードは統制力に優れた白狼の姿を思い浮かべた。
そんな中、ケイルが一気に駆けた。
その躰に矢が集まる。が、ケイルの針金のように堅い体毛が矢を弾くのか村人が射る矢が用をなさない。そして上空からはクリー。彼が切る風に煽られるのか矢がそっぽに飛んでいく。その二つの姿に村人が慌てた。その隙を突くかのようにケイルが逆茂木の柵を跳び越えた。
村人がケイルの牙に掛かり投げ捨てられる。それをクリーの爪が貫く。そして、鷲の群れと山狗の群れ・・これらも勢いづいた。
村人が食い千切られ、爪に引き裂かれ、恐慌を起こす。その上鋭い目に凄愴な笑いを浮かべたクローネまでがその中に駆け込んだ。
戦っていた男達がクローネの二本の剣にかかり血塗れに成り、その血しぶきが彼女の衣に点々と紅い花びらをつけていく。
腕に覚えがある村人もクローネの前では赤児も同然だった。
チッ・・その様子を見ながらルードは一つ舌打ちをした。
何故俺はいつも独りなんだ・・・駆けながらルードの心は沈んだ。その空虚さを埋める為に今日も人を殺す・・それが俺の人生・・・眼から水が流れ落ちた。
これは・・・ルードは親指の先でそれを拭った。
咆吼がルードの口をつき、それが辺りを包んだ。
ぼこっと土が一カ所盛り上がった・・そしてもう一カ所・・もう一カ所。
蔓を持った植物が盛り上がった土から顔を出す。
その成長は異様に早い。すぐに大きな蕾が茎の先に現れ、そして弾けた。
咲いた花の中から花密にまみれた裸女が上半身をもたげ、甘い匂いが辺りを包み、その匂いに誘われふらふらと近づく村人をその花の蔓が巻き取り、全身の骨を粉々に砕いた。
ある株は鋭く長い棘を持った蔦を縦横に動かし人々を突き殺し、またある株は地中から突きだした根で人を刺し殺した。
戦う村人を殺す尽くすのにそれ程の時間はかからなかった。残されたのは女子供と傷ついた男達だけとなった。
「私が楽しむ相手も少しは残してくれたようだね。」
クローネは酷薄に笑った。
「俺の取り分は・・」
遅れて村に入ってきたルードは村の片隅に追い詰められた女達を見て、
「たっぷりあるようだな。」
と言って、薄い唇を歪めた。




