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第三章 崩壊(23) 善なる者と悪なる者(3)

×  ×  ×  ×


 ルーファスは山奥の村に山賊を率いる魔物が出ていると聞いた。

 「行こうか。」

 彼は側の白い狼に話しかけた。

 「ルード・・・」

 山奥に向かうルーファスに声を掛ける者が居た。

 「俺だ。ソリオだ・・解らないのか・・・」

 ソリオ・・ルーファスはその名に心当たりがなかった。

 「私の名はルーファス。あなたの名に心覚えはないが・・・」

 身なりはきっちっとし、髪はきりっと結んである。自分を見る眼の光も柔らかい。

 違うのか・・ソリオはそう思い、もう一度ルーファスと名乗った男を見た。

 その腰には自分が渡した剣がある。

 「やっぱりルードだろう。」

 ソリオは駆け寄り彼の服の胸をはだけた。そこには見覚えのある太陽の形の痣がある。が、その色は・・ルードの漆黒に対し、彼のは微かに銀色に輝いている。

 肩は・・・ソリオは手を掛けた服を肩までずらした。そこにあるはずの何本かの焼きごての痕はなかった。

 見間違いか・・服を直すルーファスをソリオは見つめた。

 「その剣は・・」

 ソリオは改めて訊いた。

 「生まれた時から持っている守り刀です。」

 似ているだけか・・ソリオは背を向けた。

 「今から山の魔物を斃しにいくのですが、力を貸してもらえませんか。」

 その背にルーファスが声を掛けた。

 「人助けか・・」

 振り向いたソリオが言った。

 「とも言えます・・とにかくこの世に現れた魔物を斃します。」

 そう言うルーファスの声にソリオは頷いた。


 噂に聞いた村に近づくにつれ低級な魔物の出現が多くなり、希に山賊も現れた。ソリオはその山賊から剣を取りあげ、二本の剣を握った。

 二本の剣を振るうソリオは強かった。その技量は以前より遥かに上がっていた。それに、傷の治りも早い。

 あれ以来、訓練らしい訓練はしていない、なのになぜ・・それに傷の治り・・その上、魔物までを斃せる力・・・

 ソリオは我ながら首を傾げた。

 ルーファスは山賊とはあまり闘おうとはしなかった。が、たまに振るその剣は鋭かった。その技量は。剣をあまり使いたがらなかったルードとは隔絶していた。

 やはり違うのか・・その闘いぶりを見てソリオは自身を納得させた。

 魔物を斃し、山賊を倒して山奥の村の間近に来た。

 待て・・と、勇んで村に入ろうとするソリオをルーファスが止めた。

 小さな白頭鷲が空から降りてきてルーファスの肩にとまった。

 「村自体が山賊の巣だ。」

 鳥の言葉が分かるのか、ひそとルーファスがソリオに言った。

 「魔物に操られています。

 大元を探さねばなりません。」

 「どうやって探す。」

 「狼を放っています・・いずれ・・・」

 「それまでは。」

 「身を隠します。この数を二人で相手するのは危険です。」

 二人は山頂を目指し、自分等の住み処を造った。

 それから三週、真っ白い狼に率いられた狼達が帰ってきた。

 「向こうの峰にいるらしいです。」

 ルーファスは村越しの山を指さした。

 「ですが、そこに行くには多くの魔物を倒さねばなりません。

 覚悟を決めてください。下手をすると命を落とします。」

 ソリオは強く頷いた。

 村を迂回して対岸の峰を目指す二人の前に次々と魔物が現れた。その魔物達は低級な物が多く、二人にとって苦労するものではなかった。が、峰に近づくにつれ魔物は多数で出現するようになった。低位の魔物であっても数で現れれば危険を伴う。今の状態がそうだった。のろのろと動くゾンビ・・それが無数に歩き回っている。奴等の戦闘力と言えば噛みつくしかないが、噛まれるとその毒が回る。倒す方法は頭を潰すことだけ。それだけにやっかいだ。

 「回り道は・・」

 ソリオが漏らす。

 「もう無理です。奴等が気付きました。」

 鈍い動きではあるが、一斉に押し寄せてくる。

 「逃げよう・・逃げてもう一度・・・」

 ソリオが不安を覘かせる。

 「私がやります。」

 ルーファスはゾンビの群れの前に進み出た。

 やられるぞ・・ソリオの声が終わらぬうちにルーファスの身体から銀の光りが迸り出た。その光は熱を持つのかゾンビの身体が次々と青白く燃え上がり、頭が内側から破裂した。

 「お前の力・・・」

 ソリオが驚きの貌をする。

 「先を急ぎましょう。今ので敵も気付いたはずです。それに魔物に操られた村人達もやって来るはずです。」

 集まってくる村人達は白狼に率いられた狼達が足止めし、ルーファス達は遮二無二に峰の頂を目指した。

 先に進むにつれ徐々に現れる魔物達は強いものに替わっていった。だがそれらも易々と倒していった。

 ゴウと上空から吠え声が聞こえる・見上げるとそこには狒々(ひひ)の顔を持った四つ足の鷲が飛んでいた。

 ルーファスに仕える鷲がその姿に突っ掛かる。

 堕天使である獅子の身体を持つ四つ足の鷲マルコシアスは煩そうにその攻撃を躱そうとする。が、ルーファスの鷲が行き過ぎる度にその翼が傷ついていき、遂に地に降り立った。

 その躰をルーファスの剣が一刀両断に斬り捨てた。その瞬間村人は魔物の呪縛から解かれた。


 ルーファスとソリオは村人に歓迎された。

 しかし、その夜、ソリオが飲みつぶれている間にルーファスはソリオの前から姿を消した。


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