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第三章 崩壊(22) 善なる者と悪なる者(2)

×  ×  ×  ×


 「何処に行こうか。」

 ルードはついさっき出会った旅の商人から強奪した何枚かの(ゴールド)を手の中で弄びながら、横を歩く白犬、ケイルの頭を撫でた。

 あれ以来、女も抱いていない。食物も尽きかけ腹も空かしていた。

 「あの林で寝るか。」

 日が暮れる頃ルードはケイルを促し、近くの疎林を目指した。

 野獣よけの為の火を熾していると、ケイルが二羽の兎を咥えてきた。

 ルードは一羽をケイルに渡し、もう一羽は毛をむしり、内蔵を抜いて火で焙った。

 血の臭いを嗅ぎ付けたのかヒュルル・・・と上空で鷲の啼く声が聞こえる。

 ルードはその声の主に兎の内臓の一部を投げ上げた。と、大鷲がそれを中空で咥えた。僅かな時を置いてもう一度・・それを何度か続けると大鷲はルードの傍らに降り立った。

 「夜目が利く鳥も珍しいな。」

 ルードは大鷲に手を伸ばした。その手を大鷲がつつく。血が出るのも構わずルードは手を伸ばし、嫌がるかのように動かす白頭の大鷲の頭に手を置いた。

 「お前の名はクリーだ。」

 クリーは兎の内臓を食べ尽くした。


 眠っているルードに小石が飛んできた。それをルードは素早く弾き返した。

 「相変わらずだね・・隙がない。」

 木の枝から声がする。

 「私だよ・・・」

 そこからクローネが飛び降りて来た。

 「お前か。」

 三ヶ月ぶりかに彼女の顔を見た。

 「退屈しているんじゃないかい。」

 クローネがルードの顔を見て笑う。

 「この先に小さな集落がある・・久しぶりにどうだい・・・」

 クローネはもう一度薄い唇を歪め、凄愴な笑いを浮かべた。

 ケイルが遠吠えを挙げると数匹の山狗が集まる、そこに母たる白狼はいない。

 その山狗達を先導としてルード達は小さな集落を目指した。

 そこは平和な集落だった。外敵に対しては何人かのスパルタン人を雇い、彼等と家庭を持つ者までが居た。

 何かが来るぞ・・望楼の上から大声が降ってくる。

 その声にスパルタン人を中心に防御の態勢を取る。矢に射られながらも、村の中に山狗の群れが駆け込んできた。その後から来る女にスパルタン人が斬り付けた。が、あっと言う間にそのスパルタン人は朱に染まり女の白い長衣に紅い点を増やした。

 二本の剣を手にした女、クローネは縦横無尽に暴れ回り、男達を殺していく。その顔からは凄愴な笑みさえが漏れている。

 もう一人・・波打つ髪の毛を肩まで伸ばした男、ルード・・彼は戦いながらも若い女を物色していた。

 「逆らえば皆殺しにするよ。」

 クローネが大声を上げ、抵抗しようのないことを知った集落の長が地べたに手をついた。

 「家と食べ物・・それに・・・」

 ルードは三人の女を指さした。

 集落の者達に緊張の色が走った。

 「殺されるよりマシだろう・・」

 クローネはもう一度剣を振り、不満顔の一人の若者を斬り捨てた。

 そして、

 「私は、こいつと、こいつ。」

 スパルタン人の生き残りと、側に居た若い男の肩に手を回した。

 寝ているところを襲って斃そうにも空には大鷲、地では巨大な白犬が眼を光らせ、それもままならない。村人は諦めた表情で二人が言うがままに従った。

 それから一月(ひとつき)余り、二人はやりたい放題に過ごした。そして、

 「飽きたな・・そろそろ・・・」

 言葉を残しルードはふらりとその集落を出て行った。


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