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第三章 崩壊(18) 二人の男(2)

 「顔・・見られたくない。」

 突然ジャンクが言い出した。

 「ボロでも巻いときゃぁいいだろう。」

 包帯で顔面をグルグル巻きにしたバルディオールが笑う。

 「俺は逆にこの包帯が鬱陶しくなってきたよ。」

 バルディオールは尚も笑いながら顔を隠す包帯に手を掛けた。

 「要らないなら・・それ・・くれ。」

 ジャンクはバルディオールに手を差し出しその包帯を受け取った。

 「一度ラフィンウエルに戻ろう。」

 包帯を渡しバルディオールは唐突にそう言った。

 なぜ。とジャンクは訊いた。

 「俺の荷物を取ってくる。

 あそこの近くの丘に埋めておいた。」

 なぜ・・ともう一度ジャンクは訊ねた。

 「食い物がなくなってきた。それにこれからあちこち動き回るとなると金も要るし、魔物やら人とも戦わなければならない。その為の俺の道具がそこにあるんだよ。」

 そう言ってバルディオールは笑った。

 ラフィンウエルに向かう道々様々な魔物に会い、それを打ち倒した。特にジャンクの働きは素晴らしかった。彼の木の棒が振れるだけで魔物は吹き飛び、消え去った。

 「いったい、そいつは何なんだ。」

 「樫の棒。」

 「ただの樫の棒が・・・」

 バルディオールはもう一度訊ねようとしたが止めた。

 ジャンクの会話は益々たどたどしくなり、会話が成立しないこともあった。

 会話がたどたどしくなるにつれジャンクの力は上がっている。だが、それに反比例してジャンクは命ある者に対し自身の力を使おうとしなくなっていた。

 

 ラフィンウエルの近くの大木の根元からバルディオールは、戦士時代の防具と伴に僅かではあるが(ゴールド)三を掘り出した。

 「さて・・これからどうするか・・・」

 三枚の(ゴールド)を弄びながらバルディオールは汚い布の間から見えるジャンクの眼に訊ねた。

 当然答えは返ってこない。となれば大きな街を一つずつ探す。方法はそれしかなかった。

 アルジャンの首都バルル、手近な街はそこだった。

 その街は闘技が盛んで、各地から人々が集まっている。

 「この女・・知らないか。」

 ジャンクは相変わらず、下手な絵を道行く人に見せていた。

 「(うる)せぇ。」

 男が一人ジャンクの肩を突き、ジャンクの手から似顔絵が滑り落ちた。

 その絵を男が踏みつける。

 ジャンクは男を払い除けその絵を抱きしめた。払い除けられた男は建物の石壁に背中を打ち付け悶絶していた。

 「お前が出れば無敵なんだろうがな。」

 バルディオールはジャンクの顔を見て笑う。

 「ちょっと金を稼いでくるよ。」

 そのジャンクを横目に見ながら、バルディオールは剣闘会への出場登録をした。

 戦士時代の防具を身に着け、盾を持ち、三日月の槍を(しご)くバルディオールに敵は居なかった。ある者は槍の穂先に掛け、ある者は三日月の刃に掛けた。が、命を奪ってはならぬ。と言うジャンクの言葉に縛られたか、今までして来たように、闘技場でもどんな危地の陥ろうが相手の命だけは奪わなかった。今までの経験が功を奏したのか、バルディオールの武芸の技量は格段に上がっていた。

 (シルバー)十・・それがバルディオールが命を懸けた対価だった。

 その間ジャンクは街中を歩き回ったがここでも似顔絵の女の消息は分からなかった。

 幾ばくかの金を稼ぎ、二人は街を出て南東を目指した。次なる目的地はヤフー人の居住地だった。


 とてつもない力が近づいてくる・・ツクヨミはそう感じ、それをフェイに伝えた。

 「とてつもない力・・・なんなんだそれは。」

 それをフェイから伝え聞いたイシューが問いを発した。

 「解らないそうです・・ただ、ツクヨミさえも圧倒する力だとか。」

 「警戒しなければならんな。」

 イシューはすぐにその事をクゥィランドに伝え、警備態勢を取らせた。

 二人の男がヤフー人の居住地に入った。

 温和しいヤフー人は相手が何もしなければ自分達から手を出すことはない。この男達に対してもそうだった。そこへ、クゥィランドからの若い戦士が駆けつけた。

 「何者だ。」

 誰何(すいか)する彼等が見たのは焼け爛れた顔の戦士風の男と、短いズボンにぼろを纏い、包帯ともボロ布ともつかぬもので顔中をグルグルに巻き、眼と口だけを出した男。とてもルミアスから連絡のあった“とてつもない力”とは思えなかった。

 「顔を見せろ。」

 戦士の一人がボロを纏った男に近づくと、

 いやだ・・と男が後退りした。

 怪しい奴・・と戦士がぼろの男を捕まえようとする。

 「嫌がっているんだ・・止めておけ。」

 その腕を火傷痕の男が掴んだ。

 何をする・・と藻掻く戦士の腕を放し、

 「こんな所で喧嘩する気はない。」

 と火傷痕の男が戦士達を睨んだ。

 「訊ねたいことがあるだけだ。」

 男はもう一度戦士達に強い視線を送った。

 「俺の名はバーク、こいつはジャンクという。

 怪しいものではない。」

 「この女・・知らないか・・・」

 偽名を名乗り話すバルディオールの横からジャンクが似顔絵を差し出した。

 「ティ・・・」

 言い掛けたバルディオールの口をジャンクがすぐさま押さえた。

 「名前・・言ってはいかん・・この女に迷惑かかる。」

 そう言ってジャンクはもう一度女の似顔絵を見せた。

 「知らんな、そんな女・・・」

 バルディオールが手近な男の手首をもう一度取る。

 「ここのドングリ眼達が“白い神”と言っていた・・“白い神”とは何のことだ。」

 イテテテテ・・・手首を握られた男が苦痛を訴える。

 「言わんとお前の手首がへし折れるぞ。」

 男の手首はミシミシと音を立て始めた。

 「ルミアス・・」

 男の口から言葉が出かける。

 「乱暴・・するな。」

 ジャンクは男の手首を握るバルディオールの手を軽く叩いた。

 痛ーッ・・その力にバルディオールは男の手首を放した。

 「行けん・・そこには・・・」

 ジャンクは踵を返し、台地を下りることを選んだ。


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