第三章 崩壊(13) 思わぬ・・・(1)
アルカイ共和国とブラウニス公国は本格的な戦争状態になった。オーリーとデルフを北方の守りとし、この戦線の主将は遠征軍の総監カナルが当たった。その下の将としてケイマン、それに新しく遠征軍の将となったヨゼフの養子カウラーが就いてた。その上で戦闘地帯近くの教区を守る守護兵達も兵としてかり出された。
将として軍に参加しているにも係わらず、三人の少年とも言える教会騎士を陣中に同伴したカウラーの男色は止まらなかった。
ケイマンとカウラーの後詰めとして陣を敷くカナルもそれを苦くは思っていたが、枢密院の実力者ヨゼフの養子とあってはそれを咎めることも出来なかった。
ブラウニス軍の戦いは稚拙だった。兵達が集まってはいるがてんでに戦うだけで軍としての機能は無かった。それに対し猛将ラルゴに鍛えられたアルカイの軍は強かった。元々遠征軍の部将だったカウラーにもそれは言えた。彼は方形陣を好み、粛々と敵を圧した。それに対してケイマンは相変わらず部下の一騎打ちを望んだ。その戦法はブラウニス軍と変わることは無く、イワノフを中心とした個々の武力によって戦闘を進めた。当然二軍の侵攻速度に差が出てくる。南側を受け持つカウラーの軍は早くもブラウニス公国との交錯地帯に入っていた。カウラーはその地区にあるアルカイ領の村に入るとすぐに、石造りの教会に向かいそこに居た神父さえも追い出し、そこを本陣と定めた。
神父の部屋を自室とし、三人の教会騎士はそのとなりの部屋に入れた。
兵は村の外に駐屯させたものの教会の伽藍は作戦室と成し、数人の部将は村人追い出してその家に入った。
「この村の蓄えは。」
「蓄えなどありません。」
全体の敷設を終えたカナルに訪ねられた神父は毅然としていった。
「私的な蓄えがあろう、それを出せ。」
「そんなものはありません。」
探せ。とカウラーは遠征軍の兵士達を急き立てた。が、これといった物資は何も出てこなかった。
ここの神父は赴任以来静謐な暮らしを続けていた。その甲斐もあって住民の信望を集め、早い時期に石造りの教会を建てることも出来ていた。それにもう一人、ここにはボルス達と意を一つにするグリーが守護兵として赴任していた。
遠征軍が一つの教区に入ると守護兵達も軍に組み込まれる。グリーもご多分に漏れず、当座の間の遠征軍の一員となった。
カウラーの軍は北側のケイマンの侵攻を待つ間、暫くこの村で駐屯することになった。
教会の奥深くで男色にうつつを抜かすカウラー軍の軍紀は緩かった。兵は村人から食物やら財を掠め取り、既婚、未婚を構わず女達を拐かした。
それに憂いを覚えたのがグリー、片っ端から罪を犯した遠征軍の兵士を捕縛した。当然兵の間から怨嗟の声が上がる。それを受けカウラーはグリーを教会に呼んだ。
「神父といい、お前等守護兵といい、なぜ我等に逆らう。」
「私は法を守っているだけです。」
カウラーの苛立たしげな強い口調にグリーは怖じること無く答えた。
「法だと、今は緊急事態。法だけでは・・・」
「緊急事態だからこその遵法です。」
グリーはカウラーの声に途中からいい被せた。
「緊急事態だからと言って、何もかもが許されるわけではありません。
亡きラルゴ様は・・」
そこまで言ってグリーは己の目に涙を見せた。
「最後まで民を守る為に戦ったと聞きました。
それに比し貴方の軍は・・・」
グイッと涙をぬぐうグリーに、
「解った・・軍紀を正そう。」
カウラーはそう言うしかなかった。が、陣中に愛人とも言える三人の教会騎士を伴ったカウラーの令が守られることはなかった。相変わらず兵士達は傲岸を極め、グリーはそれを取り締まった。その為遠征軍とグリーを中心とする守護兵との間の反目は日増しに強くなった。
一触即発、今にも火を噴きそうな状況を救ったのが敵襲来の報だった。
一方、ケイマンの華麗に着飾った武将の中でイワノフの力はずば抜けていたが、他はそれ程でもなかった。必然進行速度が遅くなり、時には敗退することもあった。下手をすればカウラーの軍が敵中に孤立することもあり得る。まさに今がその時だった。ブラウニス軍はほぼその総力を挙げて突出したカウラーの軍を襲った。




