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第三章 崩壊(8) 一瞬の出会い(4)

 ボルスは素知らぬ顔で翌日の枢密院に出仕した。

 「大変なことになったようですな。」

 いつもと違い早めに集まっていた枢機卿の中から、その長ホンボイがボルスを見た。

 「何のことですかな。」

 ボルスは素知らぬ顔を決め込む。

 「セイラ様を犯した男の事。」

 この頃にはセイラが生娘でなくなったことは、枢密院では周知の事実となっていた。

 「セイラ様の廻りで密偵のようなことは止めたら如何ですか。」

 「貴卿が大事なことを隠そうとばかりするからですよ。

 他にも隠していることが在るのではないですか。」

 ホンボイが鋭い目でボルスの顔を覗き込む。

 「隠し事など無い。」

 ボルスは言い切ったが、

 「例えばセイラ様の力のこととか。」

 ホンボイはニヤリと笑いながら尚もボルスに詰め寄る。

 「どういう訳か今回は白魔術を使っていないと聞いたが。」

 ボルスはそんな事か・・と笑い飛ばし、セイラに聞いた話しをウシャスのことを除いて話した。

 「それでは困る・・我々はあの男の回復を待っているのだ。

 特に今回のことが解っては・・早急にセイラ様の兄セフィロを始末しなければならない、噂になる前にな。」

 ホンボイの目が凄味を帯び、枢機卿達はやはりあの時殺すべきだった。とか、ラルゴのせいで。とかの声を上げた。

 「セイラ様が自分の治療の技術を他者に教えることは大事でしょう。」

 言葉に詰まったボルスを助けるようにヨゼフが話し始めた。

 「今後、戦乱があるとします・・いや実際にブラウニスとの間、その上ゴーセスとも戦端が開かれようとしています。

 当然、戦傷兵が出ます。それを治療する。その技術を何人もの者が覚えてくれれば随分な助けになります。

 ここは焦らず、待つことが肝要かと思います。」

 ヨゼフの言にホンボイは嫌な顔をしたが、他の枢機卿達はそれを支持した。

 「ですが手配書だけは回しましょう。我が国だけではなく、懸賞金をかけ、他国にも。」

 続けてヨゼフは名だけの手配書を作ることも提案した。


 ソリオはふと眼を覚ました。

 光りが眩しい。

 目が慣れるのを待って辺りを見渡した。広い部屋、高い天井が眼に入る。

 自分は捕らえられたのでは・・・

 身を起こそうとする。

 「あら、目が覚めたのね。

 でもまだ寝てなくちゃあ駄目よ。」

 ルードによく似た少女が彼の肩を押さえた。

 あの時の光の中の・・・ソリオは少女を見てそう思った。

 「二十日以上も意識がなかったんだから。」

 そんなに・・・ソリオは記憶をたどってみた。

 この少女はルードに・・・にもかかわらずその相棒である自分を助けた。

 「名前・・何て言うの。」

 「ソリオ。」

 少女の問いに思わず答えた。

 「何処から来たの。」

 「流れ者さ・・あっちをうろうろ、こっちをうろうろ・・・」

 部屋の中には他の侍女達もいる。その中から一人、こっそりと部屋を抜け出した。

 「あの人・・」

 「あの人・・・」

 ソリオがセイラの言葉を鸚鵡返しにする。

 「貴方と一緒に居た・・」

 「ああ、ルードか。」

 「どんな人なんですか。」

 「剣闘士仲間だよ。」

 セイラは次の言葉を待った。

 「すまないが、水を呉れないか。」

 ああ・・と気づきセイラは飲み物と食事の準備に走った。

 水を先に持たせ、セイラはパン粥と果実のジュースを盆に載せて監房長の部屋に向かった。

 先にやった侍女の悲鳴が聞こえる。セイラは食べ物と飲み物が載った盆を傍らのテーブルに置き、監房長の部屋に急いだ。

 「入れません。」

 その部屋の扉は閉じられ、三人の教会騎士(テンプルナイト)がその前に立っていた。

 「通して。」

 セイラの眼が光った。が、教会騎士(テンプルナイト)達はセイラの思い通りに動くことはなかった。

 「枢密院からの達しでここは閉鎖されました。たとえセイラ様と言えどもこれには従って頂きます」

 魔術が・・・セイラは戸惑った。

 「セイラ様・・・」

 彼女の後からボルスが声を掛ける。

 「後宮に帰りましょう。」


 ソリオのある程度の回復を待って、尋問が始まった。

 あの女、このために俺を・・・

 ソリオはセイラを憎んだ。

 ソリオは自分の名は言ったものの、ルードのことについては一切口を開かなかった。業を煮やした尋問官は遂に拷問を開始した。その壮絶な責めに耐えきれずソリオは、ぼつぼつとルードの素性を話し始めた。

 ぼさぼさの髪を長く伸ばし、顔はセイラの話し通り彼女によく似て整っている。が、目は遥かに鋭い・・・

 ソリオの話しを元に人相書きが作られ各地に送られた。

 それらの話しを聞き終えると、ソリオは罪人として手脚の腱を切られ、街中に捨てられた。


 「ソリオ・・・」

 いつものように貧民窟を廻るセイラは地面を膝立ちで歩く男を目に留めた。

 男もセイラを見いだし、動かぬはずの手で落ちていた木の棒を握った。

 「お前のせいで・・・」

 ソリオはセイラににじり寄った。

 「私の話で貴方は解放されたと聞いたのに・・・」

 セイラはソリオに駆け寄った。

 「お前のせいで。」

 ソリオは力なく木の棒でセイラを打った。

 「ごめんなさい。」

 教会騎士(テンプルナイト)が止めるのも聞かずセイラは目に涙をためソリオを抱きしめた。

 ソリオはセイラに抱き留められながらも尚も棒を振り彼女を打った。

 「お前が・・お前が・・・」

 ソリオはそう言い続ける。

 打たれるセイラの後に淡い光りが・・その光が徐々に強くなってくる。

 「助けてあげる・・私が。」

 セイラはすくっと立ち上がり、尚も棒を振るソリオの額に手を当て、そして言った。

 「立って・・そして逃げて。」


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