第三章 崩壊(6) 一瞬の出会い(2)
× × × ×
「犯されたか・・・」
枢密院の奥の一室、沈痛な面持ちでヨゼフとホンボイが顔を見合わせた。それは女の下から一部始終を見ていた教会騎士からの報告を聞いたホンボイの声だった。
「生娘とはいかなくなりました。
しかるべき時に婿を迎えさせ、新たな“光の子”をと思っていましたが・・・・」
そう言うヨゼフの表情も暗かった。
「口止めは・・・」
「難しいでしょう。
救出に送り出した教会騎士達も遠目にその光景を見ています。」
「とにかく、あの男・・暴漢の一味と思われるあの男に尋問をし、セイラ様にも話を聞かなければなりませんな。」
翌日遅く、セイラはベッドの上で目を覚ました。心配そうなメーレの顔がそれを覗き込む。
「大丈夫ですか。」
その声にセイラは軽く頷き、そして、ボルスを呼んでと続けた。
話を聞かねばならぬか・・・呼ばれたボルスは暗鬱たる気持ちでセイラが住む後宮に向かった。
セイラは自室のテーブルの所に座っていた。
「メーレに気を失ったと聞きましたが、お体は・・・」
ボルスは青白い顔色のセイラを気遣った。
「もう大丈夫です。」
その後にセイラは言葉を続ける。
「お願いが・・・」
そのセイラの声にボルスが首を傾げる。
「あの怪我をした人・・あの人の手当をさせてください。」
セイラは自分を犯した男、ルードに心を惹かれていた。
彼の素性が知りたい、それを知るには・・・
それが怪我をした男を手当てしたいという理由だった。
「それは・・・」
ボルスは即答を避けた。
「それより、貴女を・・・」
ボルスは後の言葉を言い澱んだ。
「私を犯した男のことですか・・それを私も知りたい。ですから・・」
「今知っていることだけで結構です・・どんな容姿だったのか、特徴は・・・覚えていませんか。」
「それをお話しするには・・」
「交換条件ですか。
それは私の一存では・・・」
ボルスはセイラの申し出を枢密院に持ち帰ることにした。
セイラが助けようとした怪我人ソリオは、警邏隊の留置場ではなく、設備の整った監禁房に入れられ、ある程度の手当を受けていた。
だがセイラの力の甲斐もなく肩の槍傷は膿を持ち、高熱を発していた。意識は薄ぼんやりとぼやけ、時にはその意識が遠のいた。
「あの男のことだが・・」
ボルスは枢密院の議場で切り出した。
「まだ生きているのか。」
警邏隊を預かるコーキーが首を縦に振った。
「あの男に何を望む。」
「セイラ様をおか・・・」
口を滑らせそうになるホンボイをヨゼフが睨んだ。事を知っているテンプルナイト達には箝口令を敷いてある。その為まだ事の真相を知らぬ者が枢機卿の中にも多かった。
「セイラ様を襲って怪我を負わせた男の事を訊く。」
「訊いてどうする。」
「その男に懸賞をかけ捕らえる。」
「それから。」
「我等の神に・・いや神の使いに手を掛けた者を見せしめの為衆人の中で処刑する。」
「処刑・・・」
「拷問にかけ、命乞いをさせ、その挙げ句に殺す。」
「残忍な・・・」
「神の使いに手を出した者への当然の報いだ。」
その考え方にボルスは舌打ちをした。
「尋問の前に死んでは元も子もないですな。」
憤りを抑えてボルスはそう言った。
「セイラ様に呼ばれたと聞きましたが、セイラ様は何か話されましたか。
貴卿にはセイラ様からの聞き取りをお願いしておりましたが。」
「別に何も・・ですがセイラ様からはお願いをされました。」
ヨゼフの声にボルスが続けた。
「どんな。」
「あの男の手当をさせてくれと。」
「セイラ様が罪人の手当をと・・・」
声が荒くなるホンボイにボルスが頷く。
「そう、手当です。
それは貴卿達にとっても好都合では・・セイラ様が例の件について話すのはそれからのことだと。」
議場がざわつき、それから暫くの時間をかけて枢密院の方針が決まった。




