第三章 崩壊(5) 一瞬の出会い(1)
戦乱が続きセイラはルーメンスブルグの外に救済の旅に出れず、時間をもてあましていた。街中にはたびたび出かけたがそれだけでは時間を持て余した。
「ちょっと出かけて来ます。」
セイラはメーレに声を掛け、親しい友と伴に城外に出た。
戦時中であるにも係わらずそこは平穏そのものであった。温かい日差しが降り注ぎ、色とりどりの花が咲いていた。
友と共に薬草を摘むセイラの眼に三つの人の影と一つの動物の影が映った。
セイラ様。と声を掛け警護の為についていた教会騎士がセイラを取り囲んだ。
「怪我しているみたい。」
一人はもう一人の肩に支えられている。
「ここに連れてきて。」
セイラが教会騎士の一人を見た。
声を掛けられた教会騎士が渋い顔をした。
しかし、彼もセイラの眼の光には勝てなかった。が、その眼に捕らえられなかった教会騎士が一人、城内に走った。
怪我人がセイラの元に運ばれて来た。それを運んできた男の肩からドサッと地面に降ろされた。
「槍の傷ですね・・酷い・・・抉られています。」
セイラは地面に倒れた男の服の肩口をナイフで切り裂き、すぐにその傷を見ていた。
「治るのか。」
「時間はかかりますが・・・」
セイラの眼が怪我人を支えていたルードを見た。
似てる・・私に・・・セイラはそう思った。そして目が合った瞬間ルードの脳に稲妻が走った。
「お前・・・」
ルードはセイラの手を強引に引き、その可憐な唇に自分の唇を近づけた。拒むようにセイラの眼が光った。が、それはルードには通じなかった。
「何のつもりだ。」
ルードは効果を現さないセイラの魔術を笑いながら彼女のドレスを破き裂いた。それを止めようとする六人の教会騎士の内五人はクローネと白犬にあっさりと斃された。
ルードがはだけた少女の胸にあったのは自分と同じ太陽の紋章。但しその色は違い、淡い光りまでを放っていた。
ルードはセイラの動きを封じ、自分の胸をはだけ、二つの紋章を会わせるようにしてゆっくりと彼女を犯した。
犯されるセイラの頬を一筋の涙が流れた。
怪我をしているソリオをよそにクローネもまた傷を負わせた教会騎士に馬乗りになっている。
暫くして、
「逃げろルード、大勢来る。」
倒れ伏し地面に耳をつけたソリオが大量の出血の為の弱々しい声を上げた。
ルード・・・セイラは自分を犯す男の名を知った。
「待てあと少しだ。」
ルードはその声を聞いても逃げようとはせず、ソリオの声にはクローネが反応した。今まで跨がっていた教会騎士の身体を降り、素早く衣服を整え、
「急げ、奴等は霊力を持っている。」
とルードを急かした。
「山狗共で充分だろう。」
それでもルードはセイラの身体を離さなかった。
「駄目だ、間に合わん。」
それでもルードは悠然とセイラを犯した。
兵達が間近に迫る頃、ルードは放ったものの代わりに何かが流れ込むのを感じ、セイラは受けた精が実を結ぶのを感じた。
立ち上がり素早く身繕いをするルードの眼に。百人を超えるであろう白地に真っ青な太陽の紋章の胸垂れを着けた男達が駆けつけて来るのが見えた。
「行くぞソリオ。」
ルードはソリオを肩に担ぎ上げた。
「俺は置いていけ。足手まといになる。」
「ソリオの言うとおりだ。」
クローネもそれに賛意を表した。
「死ぬなよ・・また会おう。」
ルードは初めての人の友ソリオを地面に降ろした。
「これを・・・」
駆け出そうとするルードにソリオは自分の剣と血に濡れたコートを差しだした。
それを受け取ったルードの肩に矢が突き刺さった。それはルードが今まで覚えたことのない痛みを与え、ルードは眉をしかめた。
「それが霊力だよ。」
先を行くクローネがルードにその痛みの元を教えた。
ルードとクローネは荒野を北へ走った。
ルーメンスブルグの兵から逃げおおせた所で二人は歩速を緩めた。
「助けるべきだったかな。」
「誰を・・・」
「ソリオだよ。」
「珍しく仏心でも起こしたかい。」
「俺の初めての・・・」
「友だったってかい・・お前らしくもない。」
ちらっと後ろを振り返るルードに
「また何処かで会いましょう。」
そう続け、クローネはルードとは行き道を変えた。
× × × ×
残されたソリオに近づく者が居た。その姿は朝日のようにキラキラと輝いていた。
その光の中に見えるのは少女、破かれたドレスの胸元を掻き抱き彼に近づいてきた。
この女に殺されるのか・・ソリオはそう思った。
ソリオの意に反し、少女はソリオの肩の傷に手を当てた。
その瞬間スッと痛みが消え、流れ続けていた血が止まった。
セイラ様・・・手に手に武器を持った男達が集まってきた。
縄をかけろ。その中の一人が怒鳴った。
「待って、その人は何もしていません。唯の怪我人です。それに今そんな事をしたら死んでしいます。」
セイラの眼がそれを制し、ソリオはその声を遠くに聞いていた。
セイラの眼と声には逆らえず、教会騎士達は馬に牽かせた戸板でソリオをルーメンスブルグの街中に運び込んだ。僅かに意識が戻ったソリオの目にその壮大な門構えが映った。
セイラはソリオを庇った。が、ボルスまでが暴漢の一味としてソリオを収監することを唱えた。それには抗いきれずセイラは渋々警邏隊にソリオを手渡した。
「メーレ・・・」
後宮に戻ったセイラは乳母の名を呼ぶとその場に倒れ伏した。
「どうしました。」
慌てて乳母が駆け寄る。
「お腹が・・・」
そのままセイラは気を失った。
ルードは独り荒野を歩いていた。
「いい女だった。」
肩口から抜いた矢を指先で折りながら彼は独りごち、傍らの白い犬の頭をなでた。
「痛ーッ」
犯した女を思った瞬間、胸の中央に痛みが走った。
それは信じられないような痛み、それに負けルードは気を失った。




