第三章 崩壊(2)
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アルカイ神聖国は今、ラルゴの仇討ちを考えていた。それはラルゴを死に至らしめたブラウニス公国を攻めそれを併呑すること。その作戦を主になって進めているのは遠征軍の新しい総監カナルだった。彼の手足となって使われる部将が真っ先にブラウニス公国の軍に手を出した。その男は頭は切れなかったが腕っ節は強かった。その腕っ節だけで敵陣に深入りをした。当然敵に包まれる。包むということは陣形が乱れる。カナルの軍はその隙を衝く。カナルはこんな風に、よく捨て駒を使い、捨て駒となった者が生還するとそれを取り立てた。
一方、オーリーの戦術はほとんどの場合正攻法を採った。その為苦戦に陥ることもあったが味方を切り捨てることはなかった。
このため一気の出世を望むものはカナルの軍を、じっくりと経験を重ねたい者はオーリーの軍に配属されることを望んだ。
もう一人の遠征軍の将ケイマンは武力に優れた者を配下に望み、その者の力を頼りに戦場を動かした。教会騎士上がりのケイマンは戦術には疎く、華麗に着飾った戦士が敵の将に一騎打ちをすることを望んだ。そしてその戦士の勝利によって軍を進めた。その戦いの中でイワノフという男が頭角を現し、ケイマンは彼を重用した。
三者三様の戦い方でブラウニウスの軍を圧しまくった。だが、敵はブラウニウスだけではなかった。アルカイの膨張を喜ばぬ他の二国、ゴーセス侯国とベーリン王国、特に勢力範囲が近いゴーセスがその国境に軍を派遣した。その跳梁を抑えるのがデルフの巡察隊。だが巡察隊の数は少なく、すぐに苦戦に陥った。連絡がブラウニウスとの戦いに没頭する遠征軍に飛んだ。そこから急遽引き返したのはオーリーの軍。カナルは総監として、ケイマンは手柄を優先させその戦場から動こうとはしなかった。
オーリーが抜けブラウニウスとの戦いは激戦となった。その戦場近くを歩く三つの影があった・
「戦のようだが。」
若者が口にする。
「俺達には関係ない。」
少年が口にし、
「近づく者は斬り伏せるだけ。」
女がそう続けた。
その三つの影はルード達、三人で悠々と戦場近くを歩いていた。そこに戦闘の一団が押し寄せた。
「なんだお前達は。」
殺気だった兵士が怒鳴るのをルード達は聞き流した。
貴様等・・兵士達が武器を抜く、その数約三十以上・・
うるさい・・先ずルードが動いた。いつの間に手につけたのか左手の鋼鉄の爪が、なめたように顔を近づけようとした兵士の顔を五つに斬り裂いた。
やれ・・その隊の首領であろう男が怒りに駆られ叫んだ。が、その三人は余りに強かった。
女クローネは二本の剣をあたかも二枚の翼が羽ばたくように使って兵士達を斬り捨て、少年ルードはたいした武器も持たぬのに相手の武器を奪いそれで敵を倒していった。それに巨大な白犬、ルードとつかず離れずその爪と牙に敵をかけていっていた。
その二人から力の落ちるのが若者ソリオ、クローネと同じ様に二本の剣を使って敵を倒しては居たがその動きには隙が多かった。
乱戦の中・・やった。と兵士が叫び、その手にした槍の穂先がソリオの肩口を貫いていた。
勝ち誇った兵士の前にクローネが舞い降りその兵士の額の前に剣を突きつけた。
ブルッと震える兵士の頭蓋骨をクローネの剣がズルッと貫いた。そして肩の痛みに片膝をつくソリオを気にする風もなくクローネは他の敵に向かった。
「ケイル。」
ルードは自分の側にいる白犬に声を飛ばした。
ケイルと呼ばれた犬がソリオの守りに走る。
ルードとクローネの戦闘力は人間離れしていた。当たるを幸いに相手を叩き伏せ、斬り伏せた。
「あんたにも良い武器が要るね。」
余裕なのか、戦いの最中にクローネはルードに笑いかけた。
「武器か・・・・」
考えるようにルードの動きが一瞬止まった。その隙を逃さず敵が斬りかかるのをあっさりと躱し、ルードは左手の鋼鉄の爪で斬り裂いた。
「よっぽど良い剣でなければ俺はこのままでいい。」
斬られた兵士が倒れるよりも早くルードはその兵士の剣をもぎ取り、次の敵を斬り捨てた。
三十人以上の敵を皆殺しにするのにそれ程の時間はかからなかった。
ルードは唯一人の友ソリオの元に駆け寄った。
「大丈夫か。」
その声にソリオが頷く。
「ルーメンスブルグには怪我を治す女神が居るらしいよ。」
見下ろすクローネがそう言った。




