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第二章 黒い影(29) 没落(1)

 リュークは今では大手を振ってログヌスの街中を歩いていた。その後をロブロが派遣した警察隊がつけている。ハーディが出した宗教的な集会結社の禁止令はまだ解除されてはいない。リュークにその動きがあればすぐにでも逮捕するように、との命令を警察隊はロブロによって発せられたいた。

 リュークはエラの別邸に入った。その門の外で警察隊は足を止めた。エラの別邸に入ることはロブロによって止められていた。

 チッと一人が舌打ちをする。それを押しのけ女が、男が、若いに年老いているに係わらずエラの別邸に人々が入っていった。宗教的な集会に間違いはない。だが、警察隊は門の外で歯噛みするしかなかった。


 リュークはそのままエラの部屋に入った。

 「ヘンリー様はどうしていますか。」

 レジュアス王ヘンリーは勉学と称し、またここログヌスに来ていた。

 「遊んでいますよ・・相変わらず。」

 エラはリュークの問いに答えた。

 「それで結構です。それでレジュアスは乱れましょう。」

 「その先は・・・」

 「ヘンリー様を追い落とし、ハーディ様を盟主と仰がせる。」

 「私は・・・」

 「女王としてレジュアスを治めてはどうですか。」

 エラの顔に底知れぬ喜色が浮かんだ。


×  ×  ×  ×


 ロブロはエラとリュークに関する情報を一つ一つ丹念に整理していた。

 エラは輿入れ後から・・いやここログヌスに着いてからすぐに、ディアスと呼ばれる男と密会を重ねている。

 当初からエラの側に仕えるのはレジュアスから侍女として着いて来たシェール。

 ロブロはシェールのことも調べ上げた。王宮にある深窓の令嬢の侍女とも成れば、貴族または名のある武将の娘などが就くはずだが、シェールはそうではなかった。エラの一行がロマーヌロンドに着いた頃に後から合流している。それからは五人いた侍女達を牛耳って侍女の筆頭となり、いつもエラの側に居た。その頃からエラの身辺にディアスの陰が見えだした。勉学の為と称し別邸を望んだのもシェールの入れ知恵の可能性が高い。

 その勉学の師として別邸に入り込んだタリス。彼は一の弟子と称する眇で出っ歯の男、ディーンを連れエラの別邸に入り込んだ。そのディーンの正体は・・・

 タリス・・学者という触れ込みであったがその真偽は解らない。今はハーディに取り立てられダミオスを治めているが、そこにもアイクアリー教が拡がっている。確かに隣国にアイクアリー教の教都ケントスがあるとは言えその拡がり方は尋常ではない。

 キーンはポルセウス奥の院に巡察の為に登り、それから人が変わったようにアイクアリー教にのめり込んでいった。

 そしてハーディ。彼もまたポルペウスに登りそれから人が変わったようになった。

 ポルペウス奥の院、鍵はそこかも知れない。嘗ては邪神が像として居座り、そこから災いを拡げていった。邪神を信奉したのはあの男。あたかも宗教のように邪神の災いを拡げ、ポルペウスに人を(いざな)ってはその人を籠絡した。

 リュークとは・・・まだ間に合うかもしれない。ロブロは早速ログヌスを訪れた


 ハーディの王宮からふれが発せられた。それはアイクアリー教を認めるというものだった。

 遅かった・・ロブロは下唇を強く噛んだ。

 それでもロブロはハーディの執務室を訪ねた。

 なんとそこにはハーディの横にリュークが立っていた。

 「何の用だ。」

 そう言うハーディの眼に嘗ての光りは無い。

 「まあ良い。儂もお前に用があった。」

 口を開こうとするロブロを手で押さえ、ハーディは言葉を続ける。

 ハーディはリュークに顎をしゃくり、広いテーブルの上にミッドランドの地図を拡げさせた。そして(おもむろ)にそれに歩み寄り、ロブロに手招きをした。

 その手に誘われるままにロブロはテーブルに近づいた。

 「ここだがな。」

 ハーディはミッドランドの南西の端を指さした。

 「ここの開発をお前に任せようと思う。」

 「幾筋にも河が別れてるようですが。」

 「ああ、氾濫の危険もあるが、開発できれば一大穀倉地帯となる。」

 「しかしそこに行く為にはフィルリアの領土を通らねば・・・」

 「ハルーンに話をつけておく。ロンダニアから山裾を通って北東から入れ。

 バルバロッサに警戒する為兵士五百と金二百を与える。人夫は道々調達せよ。」

 「その件、承知いたしました。

 ですが私にも報告したいことが・・人払いを。」

 「リュークのことか。儂は既に布教を許し、儂の政治の相談役として採用している。気にすることはない。

 それともリュークがいては話せぬことか。」

 そのハーディの詰問するような声にロブロは下を向いた。

 「すぐに赴任して貰おうか。」

 ハーディは冷たく言い放った。


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