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第二章 黒い影(28) ランダ・・動く(6)

×  ×  ×  ×


 「解ったかい。」

 ランダは大婆とやらのところから帰ったガルフィを前にしていた。

 「彼女は長いことここらに住んでいるが“双子の災い”など知らないそうです。その上西の森の手前にあった祠もここ二十年ほど前に出来たそうです。」

 「ルーメンスブルクの者達は昔からあったと信じているんだろう。」

 「そうです。」

 と、ガルフィは頷いた。

 「それはいつ頃からだ。」

 「山が見えなくなってからだと言うことです。」

 「山が・・何処かで聞いた話しだね。

 大規模な洗脳(マインドコントロール)といい・・そんな事が出来るのは・・・」

 ガルフィは独り喋るランダを見ていた。

 「あの時の臭い。」

 その視線の中、ランダは遠い目をした。

 「あの時の臭いと同じ・・混じっているはずだよ、色んな臭いが・・・」

 ランダはニヤリと笑った。


×  ×  ×  ×


 「ランダですか・・・」

 「困ったものだ。」

 言うのはデルポイとラダ。

 「潰しますか。」

 それにペルセポーネの声も加わる。

 「出来ぬだろう。」

 そしてルヒュテル。

 「であれば・・・」

 その横でデメテルが不安げな顔をする。

 「とにかく様子を見よう。」

 ラグラの言葉にダナエが賛意を示した。


 その頃、セイン・ヴノの麓の村、ロジーノに、結界を破り男女それぞれ二人の一行がやって来ていた。

 「山の上に使いを出して貰おうか。」

 その首領なのか三十がらみの妖艶な女は尊大な態度で村長の家の椅子に座り込んでいた。

 「山・・・」

 「(とぼ)けるんじゃないよ。

 ここに入る時に弱い結界を感じた・・居るんだろう、山の上に彼奴等が。」

 「何のことでしょう。」

 村長は相変わらず(とぼ)けていた。それには理由があった。この一行の動きを知って既に森の魔物グシオンに使いを出していた。

 グシオンがこの男女それぞれ二人の一行を斃す・・そう信じていた。

 時を置かず空飛ぶ桃色の象が村長の家の外に現れた。が、その女に動じる様子はなかった。

 「アエロファンテかい。」

 村長は驚いた顔をした。

 「私は臭いで解るんだよ・・それにしてもあんたが助っ人を頼んだ奴も馬鹿だねぇ。あんなに馬鹿でかい奴をよこしたって私達がこの家を出ない限り、この家ごと潰すしかあるまいに。」

 村長は転げるように自分の家を出た。その瞬間、バリバリと派手な音を立ててその家の屋根が弾け飛んだ。それでも女は悠然と構えていた。

 「アリス、出番だよ。」

 女は二本の剣を両腰にした女に声を掛けた。

 アリスと呼ばれた女は伸びてきた象の鼻を叩き斬り、痛みに暴れる象の背中に乗った。

 二本の剣の内の一本が象の頭を抉り、もう一本が背中から深々と差し込まれた。

 ピンクの象が黒い塵に変わり、吹き始めた風に飛ばされた。

 その間にラッツィオは村長を捕まえ、屋根が吹き飛んだ家の中に尚も悠然と座るランダの前に引き据えていた。

 「どうだい、山の上の連中に連絡を取る気に成ったかい。」

 「お前なんぞ・・・」

 声は振るわせながらも村長はまだ毒づいていた。

 多くの足音が聞こえる。その音は重々しい。

 「今度はビッグフットかい。弱いのばかり次々と・・・」

 ランダは声を立てて笑いラッツィオに顎をしゃくった。

 命じられたラッツィオは外にいたアリスと伴に数体のビッグフットを斬り斃した。がその後ろに立つ銀髪の男には敵しなかった。

 その男は銀色の肌をし、真っ白の長髪を風になびかせている。その躰を赤い服で被っていた。肩には六本の鳥の羽毛が生えている。身に着けた服は鎧の役割も兼ねるのかアリスとラッツィオの剣が全く通じない。

 二人を後に下げバーローがその男の前に立つ。すると怒気を発したのか男の服が真っ赤な炎を発した。

 「グシオンですか。」

 バーローは悠長に問いかけた。

 「そう言うお前は誰だ。」

 「おや・・解りませんか。」

 バーローの姿が本来の魔物の姿に変わっていく。

 「バフォメット・・・」

 グシオンがジリッと後にさがる。

 「私が誰であるか、お解りになったようですね。」

 「お前ほどの者が人の女の(しもべ)などに。」

 「人の女・・あのお方が誰かも解りませんか。」

 「ここで消滅するかい。」

 人の姿に戻ったバーローの後から女の声がする。

 「それとも森に帰り、馬鹿な人間共を喰い物にするかい。」

 女は立ち上がり彼に近づいてくる。

 グシオンの右腕から炎の球が飛んだが、女はそれを軽々と受け止め、握りつぶした。

 「ランダ様ですよ。」

 バーローは軽くグシオンに笑いかけた。

 「ランダ・・・」

 グシオンは言葉に詰まった。

 「今の悪戯は許してやるよ。さっさと森に帰りな。」

 グシオンが去ったランダの足下ではロジーノの村長がガタガタと震えている。

 「解ったかい、私達の力が・・それともこの結界とやらを破って山に登ってもいいんだがねぇ。」

 ニヤリと笑うランダに村長が縦に首を振った。


 セイン・ヴィノでの面会は断り、七賢者達はロジーノまで降りてきた。

 「さて相談だが・・」

 先ずランダが口火をきった。

 相談・・それに七賢者達が首を傾げた。

 「共存と言うことでどうかねぇ。

 あんた達が何を考えようと私はそれには干渉しない。その代わりにあんた達も私の仕事に干渉しない。

 こんな所でどうかねぇ・・簡単なことだろう。」

 七賢者達は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 「今から起きる戦争にも干渉しない・・どうぞやってくださいって事だよ。」

 「戦争・・」

 七賢者の中で先ずラダが口を開いた。

 「そのつもりだろう。

 アルカイの軍を使って廻りを征服し、あんたらの安全を計る。」

 「私達はこの世の平和を望んでいます。」

 デルポイがそれに反論する。

 「本音を言いな。

 お前達の魂胆は解っているんだよ。」

 「魂胆とは・・・」

 ラグラは嫌な顔をした。

 「何に怯えてるかは知らないが、お前達は自分達に都合の良い国を創ろうとしている。

 既にアルカイはほぼ完成したのかな・・」

 「何のことだか・・・」

 今度はペルセポーネ。

 「その形態はお前達が思った形では無かったかも知れぬが、あれだけ大きくなった。」

 デメテルは黙って首を横に振った。

 「しらばっくれるんじゃないよ。」

 ランダは少し大きな声を上げた。

 「調べはついているんだよ。

 大規模な洗脳(マインドコントロール)でタンカの人々を騙し、お前等に都合の悪い者を消し、邪神とやらの侵害から自分等を守ろうとしている。その為にはどんな汚いことでもやってのける。それがお前達、七賢者・・いや、ダヌー神族。」

 「我等は正義である。正義は常に勝たねばならぬ。」

 ラグラが断固として言い放った。

 「そうかい、身勝手な本能ではなく、正義だというのかい・・そんな事は私には関係ないね。私がここに来たのは私の商売を邪魔されない為だよ。

 どうだい、さっきの提案・・飲まないか。私がルーメンスブルグにいれば他の魔物もそうそうは手を出せないはずだが。」

 「解りました。但し貴女も私達のことを詮索しないこと。」

 「決まりだね。」

 ランダはダナエの言葉に片目をつぶった。

 「共存の印として後日武器を送る。魔物に対抗できる武器をな。」

 ルヒュテルの言葉がその場を締めた。


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