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第二章 黒い影(27) ランダ・・動く(5)

×  ×  ×  ×


 「あの町の情報収集の為、餓鬼を何匹か放してきたのが正解だったようだねぇ。」

 ランダはサロメを見て笑った。

 「どうなさいます。」

 バーローがその横から訊ねる。

 「あの町は嫌な臭いがする。」

 「その話しはサビーネに聞きました。」

 「一つはヨゼフという男に取り付いたブロッブ、それともう一つ、これが解らん・・色んな臭いが混ざっている。」

 「()めますか、娼館は・・・」

 「いや、あの国はいずれ周りの国を飲み込む。それだけの勢いがある。」

 「では・・」

 「計画とは別に調べる。ガルフィを呼べ。大婆と言うからには多分鬼女の類いだろう。そこにガルフィを送る。念のためにラジャをつける。」

 「何を調べようと・・・」

 「あの町の後にいる者をだ。」

 「それから・・・」

 「話をつける。」

 ガルフィとラジャはすぐに大婆を訪ねることになった。

 「ラルフはランドールの男達を連れて娼館の建設の為にルーメンスブルグへすぐに行かせろ。」

 バーローがシルキーを呼びすぐに手配する。

 「シャムハザには仮の娼館の準備をさせ、その手配が済んだらすぐに、サビーネに(おんな)達を連れてそこに向かわせる。」


×  ×  ×  ×


 ルーメンスブルグに濃い化粧に派手な衣装を着込み、男の鼻をくすぐる香水の匂いを振りまく女の一団が着いた。

 男達はその一団に口笛を吹き、歓声を上げ、女達は眉をひそめた。

 その女達もその後ろに続く若い美男子達に目が釘付けとなった。その美男子の集団は劇場に出演する役者達だった。

 結果、ルーメンスブルグの男も女もランダ達の一行の到着を歓迎した。

 その華やかさを割って一台の華麗な馬車とそれに続く数台の荷駄が通った。

 「あれは・・」

 サビーネが道行く人に尋ねた。

 「セイラ様です。」

 「あれが・・」

 ランダはが馬車のなかを見通すように眼を細める。

 「今日は町の外に施しの為に行かれるとか・・」

 フン・・と鼻で笑ってランダは先に進んだ。

 ランダはその足で枢密院に登り、枢機卿達にお礼という名目の金をばら撒き、その日のうちに町を出た。

 なぜ・・と聞くバーローに、

 「後の奴が何者か解るまであんまり姿をさらしたくないんだよ。」

 と、ランダは笑った。


 「あれは・・・」

 着飾った女の間を通る時、馬車の中でセイラもランダと同じ様なことを自分の侍女に訊いていた。

 その正体を娼婦の一団と聞きセイラは大きく溜息を吐いた。

 最近は行き先で一泊して帰ることが多くなった。だがこの間のことがあり、まだそれ程の遠出はしていなかった。

 セイラはこの訪問が嫌いだった。華麗な馬車に着飾った教会騎士(テンプルナイト)、彼等は荷夫達を奴隷のように扱い、村人達に上からの目線で物を施す。その行為は人々の心から離れていく事だとセイラは感じていた。

 だがそれを解ってくれる者はもうこの世には居ない。

 「セイラ様。」

 馬車の外から声がかかる。

 美麗な衣装の裾をほんの僅か持ち上げて馬車の外に顔を出す。

 そこには整列した教会騎士(テンプルナイト)達が待っている。そのずっと向こうに壮大なテントが張られている。そこまでの道はセイラのドレスを汚さぬように緋毛氈が敷かれ、その上をセイラは歩いて行く。

 テントに入ると暑くないようにと大団扇で風を送る者さえが居る。

 セイラが席に着くと人々がその前に列を成す。

 「ありがたく頂戴するように。」

 傍らでそう言う神父の声が遠くに聞こえる。

 教会騎士(テンプルナイト)の眼に脅され渋々並んでいる者もいるのだろう、セイラが差し出す食物を震える手で受け取る者も居た。

 「俺はいらねえよ。」

 列の後ろがその声で乱れた。

 「どうせ俺達から掠め取った物だろうが。」

 黙れ。と言う教会騎士(テンプルナイト)の大声も聞こえる。

 何人かの教会騎士(テンプルナイト)が教会の前のテントを飛び出していく。それにも構わず男の大声が響く。

 「教会の倉を開けてみろ、神父や守護兵(ガーディアン)達が私服を肥やす物資が山と積まれている。」

 男の声を無理矢理抑えようとするのかテントの外は大騒動になっていた。

 「セイラ様。」

 テントの裾を開けて彼女に声を掛ける者が居た。

 振り向く彼女に、

 「レンドルと申します。」

 若い教会騎士(テンプルナイト)の候補生が名乗った。

 「あの男の母親が重い病気だそうです。

 宜しければ・・・」

 レンドルと名乗った少年はテントの裾を大きく開けた。

 こっそりと、しかし素早くセイラはテントを出、ドレスの裾をまくり上げて走った。

 「あなたの理解者は居ます。」

 レンドルは走るセイラに耳打ちし、その言葉にセイラの表情は輝いた。


 「縄はかけたか。」

 やっとの事で取り押さえた男を足下に押さえつけて今回の隊長役が下役に声を掛けた。

 頷く下役に、

 「縄を解きなさい。」

 凛とした声が響いた。

 何処からテントを出てきたのかそこに立っていたのはセイラ。

 「この人が言うとおり教会の倉庫を見てきました。」

 「そ、それは・・・

 この村を維持する為の税で・・・」

 慌てた声を上げる神父に、

 「税は徴収しています。それを一度ルーメンスブルグに集め、その一部を各集落の教会に配布しているはずです。」

 セイラの側に跪くレンドルがセイラに税の仕組みを告げた。

 「教会にはあんなにはないはずなのね。」

 そうです。とレンドルはセイラの言葉に頷いた。

 「ガキが何を・・・こいつも捕まえろ。」

 神父は教会騎士(テンプルナイト)と自身の配下、守護兵(ガーディアン)達を振り向いた。

 その声に彼等がセイラとレンドルを取り囲んだ。

 「悪者はどっちですか。」

 それにもセイラは怯まない。

 「あなた達、」

 セイラは教会騎士(テンプルナイト)を見やった。

 「私の言うことを聞きなさい。

 捕らえるべき者は誰ですか。」

 セイラの背後には白い光が立っている。

 これが・・・

 噂に聞くウシャス・・教会騎士(テンプルナイト)達は息を呑んだ。

 「早くしなさい。」

 それにセイラの良く通る声が被ってくる。

 ガーディアンは教会の倉を開き、教会騎士(テンプルナイト)は神父に縄をかけた。そして、神父に変わって縄を解かれた男にレンドルがそっと目配せをした。


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