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第二章 黒い影(26) ランダ・・動く(4)

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 ヨゼフが養子を取る祝いの宴席でデルフはオーリーに声を掛けた。

 「どうだい他国の動きは。」

 それはそれまでに考え抜いたデルフの第一声だった。

 「ブラウニスとは相変わらず小競り合いが続いています。

 他の二国とはたまに衝突がある程度・・そう言うことは貴方が一番ご存じでしょう。

 何かご用でもあるのでは無いですか。」

 「いや用と言うほどもないが・・この後一杯どうだい。」

 宜しいですよ。オーリーはその誘いを受けた。

 その夜、場末の酒場に二人は入った。

 「久しぶりだなこうして飲むのも。」

 デルフはオーリーにカップを挙げた。

 「ラルゴ様が亡くなって以来・・・」

 オーリーもまたカップを挙げた。

 「あれからデルフ様は・・・」

 「言うな、言うな・・それに“様”はなかろう。今はお前の方が位は上、デルフでよかろう。」

 「上などと・・あなたの隊が巡察してくれるおかげで助かってます。」

 「セイラ様も元気で・・・」

 オーリーはデルフのその言葉に一瞬嫌な顔を見せた。

 「そうですね、セイラ様は至って元気。」

 横を向きながらオーリーが言う。

 「何か・・・」

 デルフがその貌を覗き込む。

 「飲み過ぎました・・そろそろ・・・」

 席を立ちかけるオーリーの腕をデルフが強く掴んだ。

 「まだ話し足りん。」

 元上司の意向には逆らえずオーリーは渋々席に座った。

 「明日の夜、ボルスの所へ・・・」

 デルフはオーリーの耳に口を寄せ囁き、その後に大声を上げ笑った。

 「そうか、もう飲めぬか。偉く成ってもまだ若造・・儂の相手はまだまだ無理だな。」

 デルフの態度は役を追われた者のやっかみに他の客達には見えた。


 翌日の夜オーリーはボルスの家の門前に立っていた。その後には教会騎士(テンプルナイト)を表す胸垂れを着けた少年も立っていた。

 「お前は・・・」

 その少年を見てボルスが自分の短剣に手を掛けた。

 「心配には及びません。あなた達を捕縛する為に来たのではありません。」

 「とにかく入れ。」

 ボルスは慌てて二人を屋敷の中に招き入れた。

 「レンドルと言います・・教会騎士(テンプルナイト)の候補生です。」

 部屋に入るとすぐに少年は華麗に頭を下げた。

 「志は私と同じ、今のセイラ様の姿に憂いを覚えています。」

 「逮捕します。」

 アンドレイが奥から飛び出してきた。

 「何の罪で。」

 オーリーは平然としている。

 「枢密院の意に逆らい、謀反を企てている。」

 「枢密院の意だと、それは私腹を肥やす為だろう。

 お前は一度ラルゴ将軍と戦っただけ、将軍が意図することは解るまい。」

 その遣り取りの後でボルスがニッコリと笑った。

 「許してくれ。貴方の本音を知る為このような芝居を打った。」

 その声にオーリーは剣の(つか)から手を放した

 「本当だろうな。」

 それでもその眼は鋭かった。

 「俺とボルスはミッドランドからずっとラルゴと一緒にここまで来た。」

 その後からデルフも現れた。

 「ここではなく、奥で・・・」

 ボルスはオーリーを促した。

 枢機卿であるだけにボルスの屋敷は広かった。その奥、外からの眼と耳を全く遮断した部屋に入るとボルスはソーシオとグリーをオーリーに紹介し、そのままアンドレイを含めた三人に顎をしゃくった。その三人は挨拶だけを済ませると警戒の為部屋の外に出て行った。

 それを見送ったオーリーは奨められるままにテーブルを囲んだ椅子に腰をかけた。

 「あなたも」

 取り残されたように立ち尽くすレンドルにもボルスは椅子を勧めた。

 デルフの手でワインが運ばれて来ると、それを少し舐め、

 「ラルゴからどんな話を聞いていますか。」

 と、ボルスはオーリーに問うた。

 「カミュ様とティア様の話です。邪神と戦ったカミュ様はお亡くなりになり、ティア様はカミュ様の子を授かった。」

 「カミュとティアの戦いには俺も加わった。」

 ボルスはオーリーの話しに割って入った。

 「二人は別々になり、そして再び出会った。多分それは“光の力”が二人を呼び寄せたのだろう。それまで俺はティアと行動を共にした。

 二人は挫折を経験し、苦い思いも、苦しい思いもした。それらを乗り越え邪神ルグゼブを斃した。」

 そこでボルスは遠い目をし、話しを一度とぎらせ、一息ついた。

 「ティアは二人の子を産んだ。」

 「二人ですか・・・」

 「そうだ双子だ。」

 「そんな話しを聞いた様な気はしますが・・・」

 「セイラとその兄、セフィーロ・・その頃お前はまだ幼かった。が、大人達はそれを問題にした・・・“双子の災い”と言うこの地に伝わる昔話を持ち出してな。

 それで胸に黒い紋章を持つセフィーロは捨てられ、ティアはここから追放された。」

 「“双子の災い”・・ですか、あまり聞いたことはないですが。」

 「お前は幼かったから・・」

 「いいえ、私は孤児でした。私を育ててくれたのは大婆と呼ばれる老婆です。その人からもそんな話しは・・・」

 その時床下で(かすか)かな物音がし、部屋にいた六人は一斉に起ち上がった。

 「出入りできるのは一カ所、地下の物置からだけだ。」

 ボルスの声に他の者達も追随して走った。

 その途中で彼等は三つに分かれた。地下に行くのはボルスとアンドレイ。オーリー、レンドル、ソーシオは庭に出、グリーは門で人の出入りを見張り、デルフは外回りを警戒した。

 暫くして七人は部屋に帰ってきた。

 「鼠か何かだったんだろう。」

 ボルスはそう言ってオーリーの顔を見た。そして奥の部屋に戻った。

 「セイラについては何か聞いていたか。」

 「兄がいるとは聞きませんでした。」

 そうだろうな。とボルスが頷く。

 「母親、ティア様は産後の肥立ちが悪く、お亡くなりになり、その後は乳母のメーレと伴にラルゴ様が面倒を見たと・・・」

 「最近のことについては。」

 「セイラ様の万人に対する慈愛の心が目覚め、その力が覚醒しつつあるようだと。」

 「そんなセイラが望むものは何だと言っていた。」

 「民の中に入り、民を救うこと。」

 「今のセイラの現状は。」

 「大きくかけ離れていると思います。」

 「枢機卿共に利用されている・・彼奴等は己の利だけしか考えていない。」

 「その中で、ヨゼフだけは違うようだが。」

 「あいつの考えは俺にも解らん。」

 デルフの声にボルスはそう吐き捨てた。


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