南国の魔法
「すごい!すごいよ直人くん!ホントに来ちゃった!」
歓声が耳に飛び込んでくる。目を開くと、そこには誰もいない白い砂浜が広がっていた。透明な青い海が波打ち、椰子の葉が島特有の音を奏でている。
「ホントにって…疑ってたんですか?」
直人は少し拗ねたように言った。
「そんなことないよ。直人くんのこと信じてるもん」
詩織は満面の笑みを浮かべる。輝く海を背景に、その笑顔が一層眩しく見えた。
「それより…その格好…」
直人が恥ずかしそうに言う。
二人は水着姿になっていた。詩織はストライプの大胆なビキニ。直人は深いブルーの海パン。普段はカフェの制服に隠れている体つきが、まぶしい陽光の下で露わになっている。
詩織は自分の姿に気付き、思わず身を縮める。雑誌で見て「絶対に無理」と思っていたはずのビキニ。なのに夢の中の自分は、不思議と自然に着こなしている。南国の解放感か、それとも直人と共有する夢だからか。
詩織の頬が赤く染まる。「もう、そんなにジロジロ見ちゃダメ」
「見てませんよ!」
直人は慌てて否定するが、視線は自然と詩織に引き寄せられる。
水晶のように澄んだ海に足を踏み入れると、心地よい冷たさが全身を包む。波が優しく二人の足首をくすぐる。遠くには水平線が青い帯のように横たわっていた。
「こっち来て!」
詩織が波しぶきを上げながら、少し深いところまで進む。白い砂浜に光が反射して、まるで宝石をちりばめたように輝いている。
「暑いですね、ビーチパラソルとかあればよかった」
直人が額の汗を拭いながら言う。
「夢なんだから、あると思えばあるんじゃない?」
詩織が楽しそうに提案する。
二人は目を閉じイメージを膨らませる。すると、砂浜には南国情緒たっぷりのティキパラソルが現れ、ヤシの繊維が風に揺れる。その下にはゆったりとしたビーチチェアが二脚。氷で冷やされた飲み物が並ぶ冷蔵庫、浮き輪やシュノーケル、ビーチボールなどの遊び道具まで揃っていた。
「すごい…夢の中って、なんでもできるんですね」
直人は目を輝かせる。
「うん。だからもっと楽しもう!」
詩織は浮き輪を手に取り、はしゃぐように海へ走っていく。
透明な海の中では、色とりどりの魚たちが泳いでいた。シュノーケルをつけて海中を覗き込むと、サンゴ礁の間を行き交う熱帯魚たちの姿が目に飛び込んでくる。
「見て見て、クマノミ!」
詩織が指さす方向には、イソギンチャクの中で戯れる愛らしいクマノミの家族。
昼食は、夢の中で思い描いた新鮮な海の幸。焼きたての魚介類の香ばしい香りが、潮風に乗って漂う。冷たいトロピカルジュースを飲みながら、二人は贅沢な昼下がりを過ごした。
時間が経つのも忘れて、二人は夢の島でバカンスを満喫する。遊び疲れては木陰で休憩し、またすぐに海に飛び込む。まるで永遠に続くような幸せな一時。
夕暮れが近づき、水平線が茜色に染まり始めた頃、二人は波打ち際に腰を下ろしていた。潮風が心地よく頬を撫でる。
「こんな素敵な夢、見せてくれてありがとう」
詩織がそっと呟く。その横顔に夕陽が映え、まるでオレンジ色の光を纏っているかのよう。
「いえ、僕こそ…」
直人は言葉を詰まらせる。この夢の中で見せる詩織の無邪気な笑顔が、心に深く刻まれていく。
やがて夕陽が水平線に沈もうとしていた。二人は黙って、その美しい光景を見つめていた。




