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◇◇


 宮殿を出て2日目。

 国境を超えて、グリフィン帝国の南部地方に入った私、シャルロット一行。

 この日は早めに宿に入った。

 この辺りはあちこちに反乱を起こした人たちがたむろしているから、しっかりと警備できるこの町で滞在せざるを得ないのだそうだ。

 夕食まではまだ時間がある。

 周囲に促されるまま、私は部屋に入った。

 窓から町を見渡す。

 古い建物が多く、人も少ない。

 まるでもうすぐ死を迎える老人のようだ……。

 私も似たようなものね。

 妙な親近感を覚え、苦笑いをしながら窓から離れたところで、ドアをノックする音が聞こえてきた。


 ――コンコン。


「誰?」

「俺だ。フェリックスだ」


 皇太子のフェリックスが直々に?

 いったい何の用だろう?

 疑問に感じながらも「どうぞ」と声をかける。

 不自然なくらいに爽やかな笑顔のフェリックスが部屋に入ってきて、そっとドアを閉めた。

 窓を背にして立ったままの私のそばまでやってきた。

 なんだか怖い……。気づかれないように横に少しずつずれながら、私は懸命に笑顔を作った。


「そんなに怖がらなくてもいい。聞きたいことがあったからわざわざ来てやっただけだ」


 わざわざ来てやった、ね……。

 爽やかな笑顔の裏側は、醜い傲慢の塊ってわけか。


「いったい何を聞きたいの?」

「ダンスパーティーでなぜ俺をパートナーに指名しなかったのか、ってことに決まってるだろ」

「あら? そんなこと?」

「そんなこと、はないだろ? あの場でもっとも恥ずかしい思いをしたのは俺なんだぜ。こう言っちゃなんだが、俺は女性からデートを断られたことすらなかったんだし」


 ふん。女々しい男。

 傲慢なうえに自信家なのね。


「なあ、教えてくれないか? 君がパートナーに指名した相手は、君にとってどんな男性なんだい?」


 フェリックスの目が怪しく光る。

 私はさらに距離を取ろうと壁沿いに歩いていったが、フェリックスは私のことを容赦なく追い詰めていき、ついにベッドの上に押し倒されてしまった。


「きゃっ! な、何するのよ!? 乱暴なことをすると人を呼ぶわよ!!」

「ははっ。呼んでもかまわないよ。でも誰もやってこないだろうね。君のお供と俺の兵たちは向かいの建物にいるから」

「んなっ……!」

「さあ、答えろ。あの男……クロードと君はどんな関係なんだ?」


 フェリックスがグッと顔を近づけてくる。

 どうせウソをついてもバレるに決まってる。

 だから私は胸を張って言い放った。


「クロードは元執事で今は私の騎士よ」

「君には俺という婚約者がいた。自分の国のしきたりのことを知らないとは言わせない。それなのになぜヤツを指名したんだ?」

「しきたりのことを知っていたからに決まってるでしょ?」

「つまり俺とではなく、ヤツと結婚したかった、と……。はははっ。ヤツの正体は俺の国の暗殺者だって知らないからそんなことを平気な顔して言えるんだ」

「それくらい知ってるわよ!」

「なに……!?」


 青い顔をしたフェリックスが私から少しだけ離れる。

 ベッドから起き上がった私はドアの方に足を向けた。

 だが「あははは! そうか! クロードの正体を知っていて、それでもパートナーに指名したのか。あははは!」と大笑いしはじめたフェリックスは、すらりと剣を抜いて、私の行く手を阻んだのだった。


「クロードには世界中のあらゆる慣習を頭に叩き込ませたんだ。つまり例のしきたりのことを知らないはずはない。君の指名を受けた、ということは、少なからずヤツも君に気があるということだ」

「えっ……」

「これでよく分かったよ。ヤツが今、ここにいない理由が」

「どういうこと? クロードがここにくる予定だったの?」

「ああ、君を殺しにね」

「そんな……」


 ウソだ。クロードが私のことを殺そうとしていただなんて……。


「命令は『悪魔を殺せ』。報酬は『自由』。ヤツも乗り気だったよ。だからちょうどこの辺りで待ち伏せしていると思っていたんだけどな。どうやら直前になって君を殺すのが惜しくなってしまったようだ。だからあれほど、殺しに私情を挟むなって言い聞かせてやったのに」

「で、でもクロードは牢獄塔で投獄されているじゃない!」

「牢獄塔? ああ、あんなぬるい警備の監獄ではヤツを引きとめておくのは無理さ。それにヤツの相棒もいたみたいだしね」

「まさか……アンナ……」


 ぐわんと頭を揺らされた感じがする。

 足がすくみ、立っていることすら怪しくなってきた。


「さてと……。おしゃべりはここまでだ。君にはどうしてもここで死んでもらわないと困るんだよ。だから仕方なく、俺の手で始末してあげることにしたんだ。ありがたく思ってほしいな。滅多なことじゃ人を殺さないんだぜ。俺は」


 そう告げるなり、フェリックスは剣を私に目がけて振り下ろしてきたのだった。


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