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◇◇


 私、シャルロットが宮殿を発つ日を迎えた――。


 中庭には大勢の人が見送りにきてくれたけど、クロードの姿はない。

 今もまだ牢獄塔に入れられているのだろう。


 もしかしたら彼はもう二度と外に出られないかもしれない。

 そうなったら全部私のせいだ……。

 

 三日三晩泣きはらした目はいくらメイクをしてもごかましきれない。


「シャルロット様。大丈夫?」


 駆け寄ってきたマルネーヌが両手を取って心配そうに顔を覗き込んでくる。

 私は無理して笑顔を作った。


「私は平気よ。それよりも侍女たちのこと、よろしく頼むわね」


 マルネーヌは大きくうなずいた。

 私が連れていけるのはリゼットだけ。

 だから残された侍女たちはみんなマルネーヌが引き取り、引き続き侍女として働けるように計らってくれたのだ。


「ありがとう。マルネーヌ。あなただけよ。私にとって本当のお友達は」

「そんなはずはありませんわ。だってほら」


 マルネーヌがすっと横にそれると、代わるように私の前に出てきたのはメアリーをはじめとした侍女たちだった。


「シャルロット様!」


 みんな真っ赤に目を腫らしながら私に抱きついてきた。


「なによ……。つい数か月前までは私のことを嫌っていたくせに。別れを惜しんで泣き出すなんてずるいわ。そんなことされたら私だって……。私だって……」


 ようやく止まったはずの涙が再び頬を伝う。

 するとメアリーが泣きながら笑みを浮かべて、ハンカチを差し出してきた。


「これ、クロードからです。『シャルロットが泣いたら、このハンカチを差し出してやれ』って」

「クロードが……」

「ええ。リゼットさんが襲ってきた翌日に渡されたんです。もしかしたらクロードは今日のお別れを予感していたのかもしれませんね……」


 震える手で受け取ると、過去の記憶が鮮やかによみがえってきた。


 ――ハンカチ!

 ――肌触り抜群のシルク製。


 マルネーヌの館へ『様子見』に行った時に用意してくれたものと同じハンカチだ。


 ――だから怖がらなくても大丈夫だって。


 クロードの柔らかな綿毛のような声が脳裏に響く。

 自然と涙が乾き、たかぶっていた気持ちも鎮まってきた。


「ありがとう……。クロード……。ありがとう。みんな……」


 侍女たちから離れて、ペコリと一礼する。

 

 ――私、好き勝手生きるって決めてるの!


 あんな大見得きったくせに、マルネーヌや侍女たちとの感動的な別れを迎えて満足してる自分が悲しい。

 それにクロードのことはまだ解決してないし……。

 でもあれこれ考えても状況は何も変わらないことはよく分かってる。

 私が無力なのは何も変わっちゃいないのだ。


「はぁ……。じゃあ、行ってくるわね」


 トボトボした足取りで用意された馬車に乗り込む。

 マルネーヌと侍女たちが手を振ってくれている……ん? アンナはいないみたいね。

 仕方ないわよね。まだ付き合いも浅いし。


「さよなら。クロード」


 馬車の中から監獄塔を見上げながらつぶやく。

 ……とその時。

 

 ――ピィィィ!


 青空に純白の翼が横切った。


「オオハヤブサ? こんなところに?」


 本でしか見たことのない希少の鳥。

 まさかその鳥が私の運命を運んでくるなんて……。

 この時は思いもよらなかった――。

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