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◇◇
降臨祭の翌朝――。
ようやく空が白みはじめた頃。強烈な喉の渇きを覚えた私はベッドを出た。
ううっ、頭がガンガンする。
さすがにはしゃぎ過ぎたか……とちょっぴり反省しながら、水の入っているピッチャーが置かれたテーブルまでやってくる。
ところがピッチャーの中は空だった。
「どういうことよ!? 毎晩、新鮮な水を入れておくのはリゼットの役目……」
あっ、彼女は今地下牢にいるんだったわ。
下手に混乱させたくないからリゼットが私に剣を向けたことは誰にも話していない。
だからピッチャーに水がないのも当たり前ね。
仕方ないからキッチンまで自分で行くことにするわ。
水色のショールを羽織り、部屋の外に出る。
……と、直後に私は自分の目を疑った。
「へっ?」
なんとクロードが深紅の絨毯の中央で堂々と仰向けになって寝ていたのである。
「シャルロットか。早いな」
「ええ、喉が渇いたから水を飲みにキッチンまで行こうと思ってね……って、そんなことより、なんでこんなところで寝てるのよ!?」
クロードは目をこすりながらむくりと起き上がり、私のすぐそばまでやってきた。
ど、どういうこと?
はっ! まさかクロードは、夜這いをするために私の部屋にやってきたのかもしれないわ!
でも途中で眠くなっちゃって、仕方なく廊下で横になった、と……。
いや……、さすがに無理があるわね。
「どうした? 行かないのか?」
「い、行くわよ!」
「だったら急ごう。今なら安全だ」
「安全? どういうことよ? この館はいつだって安全でしょ!?」
「いいから。早く」
――きゅっ。
クロードが半ば強引に私の手を握って歩き出す。
彼の熱がダイレクトに伝わってきて、まるでフワフワと宙を浮いているような気分だ。
頭の中のオーケストラが祝福の音楽を奏でている。
「ん? なんだか嬉しそうだな」
「べ、べ、別に嬉しくなんてないわよ! ただ水飲みに行くだけだし! 何言ってるの!?」
「いや、隠さなくていい。シャルロットの気持ちはよく分かってるから」
私の気持ちを分かってる、だって!?
恋してる相手と手をつないで歩いている今の私の心情を分かってるというの?
はっ……!
それってつまり「俺も同じ気持ちだから」ってことよね!?
となるとやっぱりクロードは私のことを……。
「水って尊いよな」
はい?
「暗殺者だった頃は何日も満足に水を飲めない時もあったから。喉の渇きを潤す瞬間ほど『生きてる!』って実感できるときはない。もうすぐ水が飲める、ってだけで嬉しくなってしまう気持ちはよく分かってるつもりだ」
やっぱりクロードはクロードだわ。
期待した私がバカだった。
心底がっかりした私は話題を変えた。
「ところで今は安全ってどういう意味よ? 何か危険がこの館に潜んでいるというの?」
クロードは口を閉ざした。
なんだか嫌な予感がする……。
でも私の予感は当たった試しがないし。
今回もきっと気のせいよね!
しかしキッチンの手前でクロードはようやく重い口を開いたのだけど、その内容はあまりにも衝撃的だった。
「リゼットが地下牢から脱出した。もしかしたらまだ近くにいるかもしれない」
そんな……。バカな!?




