33
◇◇
「なるほど……。なぜ『安眠』なのか、いまいち分からないが、それでも事情はよく分かった。では僕に会いにきた理由を話してくれないか?」
向かい合うようにして座ったアレク様に、クロードは身を乗り出して答えた。
「あの時の借りを返してもらおうと思ってな」
緩みかけた緊張の糸が再び張り詰め、アレックスの顔が引きつる。
「何が望みだ……?」
「俺を守ってくれ」
「は? いや、しかし……」
アレックスが戸惑うのも無理はない。
まともに対峙したら、明らかにクロードの方が剣も魔法も勝っているのだから。
しかしクロードは冗談で言ったつもりはなかった。
「この国で俺の正体を唯一知る男がお前だ。だからお前さえ俺のことを守ってくれれば、これからも俺は安全な場所で寝ることができる」
「つまり何があっても君の過去を知らない振りを通せ、と」
「それだけじゃない。もし俺の正体を嗅ぎまわるヤツがいたらひねり潰してくれ。王国最強の騎士団を率いるお前なら容易いだろ?」
「嫌だと言ったら?」
「言わなくても分かってると思っていたのだが……違うか?」
クロードはニヤリと口角を上げて続けた。
「俺は『相棒』がほしいだけだ。どの国にいようとも、どの仕事につこうとも、『相棒』の存在が大きいのはよく知っているつもりだ。それにお前にとっても悪い話じゃないはず。なぜならあの時の真相を知っているのは俺だけだからな。俺たちが手を結んでいる間は、互いに後ろめたい過去を知られずにすむ、というわけだ」
アレックスも乾いた笑みを浮かべた。
「いいだろう。恩返しをすると約束したしね」
彼が差し出してきた右手をがっしりと握る。
「頼んだぞ」
「任せてくれ。同士よ」
「同士? どういう意味だ?」
「すぐに分かるさ」
小首をかしげたアレックスは、クロードの疑問には答えようとせず、話題を変えてきた。
「ところでグリフィン帝国が今、大変なことになっているのを知っているかい?」
アレックス真剣な顔つきを見れば、帝国がかなり深刻な事態に陥っているのは想像がつく。
だがクロードはその帝国に、さんざんこき使われた挙句に捨てられた人間なのだ。
「知らないし、興味もない」
本音が口をついて出てきた。
自分でもびっくりするほど冷たい口調だ。
そんな彼の心情を察したのか、アレックスは頭を下げた。
「そうか……。すまなかったね」
「いや、別にお前を責めちゃいない。あの国がどうなっていようと、本当にどうでもいいんだ」
クロードが半笑いを浮かべると、アレックスもまた肩の力を抜いて言った。
「そうだよね。分かるよ」
「どうしてだ? お前は見捨てられたことなんかないだろうに?」
「ああ、でも分かるんだ」
首をすくめたアレックスの様子を見て、今度はクロードの方が察した。
(アッサム王国にも、隠された大きな闇があるってことだな)
「だったらこの話題は終わりだ」
「そうだな。よし、じゃあ、こうしよう! 『相棒』になった証として、一緒に風呂に入るというのはどうだい?」
クロードはすっかり忘れていた。
アレックスの頭の中は、常に『風呂』だってことを……。




