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◇◇


「なるほど……。なぜ『安眠』なのか、いまいち分からないが、それでも事情はよく分かった。では僕に会いにきた理由を話してくれないか?」


 向かい合うようにして座ったアレク様に、クロードは身を乗り出して答えた。


「あの時の借りを返してもらおうと思ってな」


 緩みかけた緊張の糸が再び張り詰め、アレックスの顔が引きつる。


「何が望みだ……?」

「俺を守ってくれ」

「は? いや、しかし……」


 アレックスが戸惑うのも無理はない。

 まともに対峙したら、明らかにクロードの方が剣も魔法も勝っているのだから。

 しかしクロードは冗談で言ったつもりはなかった。


「この国で俺の正体を唯一知る男がお前だ。だからお前さえ俺のことを守ってくれれば、これからも俺は安全な場所で寝ることができる」

「つまり何があっても君の過去を知らない振りを通せ、と」

「それだけじゃない。もし俺の正体を嗅ぎまわるヤツがいたらひねり潰してくれ。王国最強の騎士団を率いるお前なら容易いだろ?」

「嫌だと言ったら?」

「言わなくても分かってると思っていたのだが……違うか?」


 クロードはニヤリと口角を上げて続けた。


「俺は『相棒』がほしいだけだ。どの国にいようとも、どの仕事につこうとも、『相棒』の存在が大きいのはよく知っているつもりだ。それにお前にとっても悪い話じゃないはず。なぜならあの時の真相を知っているのは俺だけだからな。俺たちが手を結んでいる間は、互いに後ろめたい過去を知られずにすむ、というわけだ」


 アレックスも乾いた笑みを浮かべた。


「いいだろう。恩返しをすると約束したしね」


 彼が差し出してきた右手をがっしりと握る。


「頼んだぞ」

「任せてくれ。同士よ」

「同士? どういう意味だ?」

「すぐに分かるさ」


 小首をかしげたアレックスは、クロードの疑問には答えようとせず、話題を変えてきた。


「ところでグリフィン帝国が今、大変なことになっているのを知っているかい?」


 アレックス真剣な顔つきを見れば、帝国がかなり深刻な事態に陥っているのは想像がつく。

 だがクロードはその帝国に、さんざんこき使われた挙句に捨てられた人間なのだ。


「知らないし、興味もない」


 本音が口をついて出てきた。

 自分でもびっくりするほど冷たい口調だ。

 そんな彼の心情を察したのか、アレックスは頭を下げた。


「そうか……。すまなかったね」

「いや、別にお前を責めちゃいない。あの国がどうなっていようと、本当にどうでもいいんだ」


 クロードが半笑いを浮かべると、アレックスもまた肩の力を抜いて言った。


「そうだよね。分かるよ」

「どうしてだ? お前は見捨てられたことなんかないだろうに?」

「ああ、でも分かるんだ」


 首をすくめたアレックスの様子を見て、今度はクロードの方が察した。

 

(アッサム王国にも、隠された大きな闇があるってことだな)


「だったらこの話題は終わりだ」

「そうだな。よし、じゃあ、こうしよう! 『相棒』になった証として、一緒に風呂に入るというのはどうだい?」


 クロードはすっかり忘れていた。

 アレックスの頭の中は、常に『風呂』だってことを……。

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