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◇◇
客間を出た私は侍女たちがあくせく働いている食堂に向かった。
「ホタルですか? ええっと……。あっ! そう言われると南東の浜辺の近くの森で見た気がします!」
「私はサザンカ山のふもとでキノコ採ってる時に見たわ!」
「私は東の森の小川で水を汲んでる時!」
意外とみんなホタルを見かけてるのね。
ちょっと驚きだわ。
でもいずれも彼女たちが侍女になる前の話――つまり王宮の敷地外ということになる。
リゼットとドギーは見たことがないって言ってるし、もしかしたら館の周りには本当にいないのかもしれない……。
それでもクロードならこの情報だけで何とかしてくれるんじゃないか、と理由もないくせに期待に胸を膨らませている自分が鬱陶しい。
そもそも私はいつだってクロードの失敗を願っていたはずだ。
今回の件だって、貴族令嬢の頼みを聞けなかったとなれば、それだけでクビの口実にできる。
でも今の私はどうやら違うみたい。
クロードに失敗してほしくない――。
そう心から願っている。
だから自分の足で侍女たちの元へ行き、ホタルについて色々と聞いて回ったのである。
他人事のようだけど、ほんと自分でも自分が分からない。
もしかしたら私は既に悪魔に身を乗っ取られてるのかも、とさえ思う。
「ったく遅いじゃない! 私を待たせるなんていい度胸してるわね!」
ロビーあらわれたクロードに鋭い声をかける。
クロードは当然、目を丸くした。
「シャルロット? どうしてここに?」
本心をさとられたくない一心で甲高い声をあげた。
「マルネーヌは私の臣下でしょ。臣下の願いをかなえてあげるのも、王女としての務め。だから仕方なく私があんたを手伝ってあげるってだけよ!」
「俺を手伝うだって……。大丈夫か? 熱でもあるのか?」
「な、ないわよ!! いいから黙って手伝われなさい!!」
目をぱちくりさせるクロードをよそに、私は侍女たちから集めたホタルの目撃情報を一息に話した。
はじめは怪訝な顔つきだったが、私が話し終えるとクロードは小さく微笑みかけてきた。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
いつもと変わらぬ低い声。でもなぜか包み込むような柔らかさを感じて、胸がドクンと脈打つ。
「と、とにかく絶対成功させなさい。じゃなかったらクビよ!」
顔を見られたくなくて、すぐに彼に背を向ける。
「ああ、分かってる。後は任せておけ」
力強い声とともに、クロードは足音を立てて外へ出て行った。
私はマルネーヌの待つ客間へ踵を返す。
弾むような足取りで廊下を進む私の口元は、ひとりでに緩んでいた。




