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◇◇


 クロードが図書室でホタルについて調べていたのと同じ頃、私はマルネーヌと一緒にティータイムに興じていた。


「ふふ。とても美味しいですわ!」


 マルネーヌはリンゴのコンポートを乗せたタルトを頬張りながら、うっとりとしている。

 確かにタルトは美味しい。王都でも指折りのパティシエに作らせたんだから当たり前よね。

 でもマルネーヌが幸せそうな顔をしたのは、タルトのせいじゃなくて、ダンスパーティーのことを考えているからじゃないのかしら?

 邪推と知りながらも、モヤモヤが頭を離れない。


「あら? シャルロット様。どうなされたのですか? 顔色があまりよろしくないようですけど」

「え? べ、別に何でもないわ。元気そのものよ」


 ドンと胸を強く打ちつけられたような鈍い痛みが走り、自分でも顔がこわばったのがよく分かった。

 急に顔が熱くなり、マルネーヌに目を向けていられなくなる。

 タルトだけに集中して口に運ぶが、味なんてよく分からない。


 なんでマルネーヌはあんなことを言い出したのだろう?

 なんで私は動揺しているのだろう?


 ――1回きりの人生なんですもの。素直にないともったいないですわ。


 マルネーヌの言葉が浮かぶ。

 素直になるってどういうこと?

 好き勝手生きるのとは何が違うの?

 もし素直になれたら、ズキズキとモヤモヤは抜けるのかしら?


「そう言えば去年の夏、お兄様と一緒に訪れた西の森でホタルを見かけましたわ」


 マルネーヌがあっけらかんと言う。

 はっとなった私は顔を上げた。

 ニコリと微笑んだマルネーヌはすらすらと流れるように続ける。


「もしかしたらシャルロット様の侍女さんたちの中に、ここら辺でホタルを見た人がいるかもしれませんね」


 マルネーヌが再び私の目を覗き込む。


 ――素直になるなら今しかありませんわ。


 口には出さないけど、私を試しているのは確かだ。


 私はどうすればいいの?

 素直って何?


 さっぱり分からないわ。

 でもここで座ったままタルトを食べていても、胸の内を覆う灰色の雲が晴れないことだけは確信をもって言える。

 だから私は席を立った。


「ちょ、ちょっと席を外すわね。夕食の準備をしている侍女たちにあなたの好みを伝えてくるから」


 侍女たちは今、みんな夕食の支度に追われている。私は客間を出るなり、早足で彼女たちのもとへ向かった。


 

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