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クロードが図書室でホタルについて調べていたのと同じ頃、私はマルネーヌと一緒にティータイムに興じていた。
「ふふ。とても美味しいですわ!」
マルネーヌはリンゴのコンポートを乗せたタルトを頬張りながら、うっとりとしている。
確かにタルトは美味しい。王都でも指折りのパティシエに作らせたんだから当たり前よね。
でもマルネーヌが幸せそうな顔をしたのは、タルトのせいじゃなくて、ダンスパーティーのことを考えているからじゃないのかしら?
邪推と知りながらも、モヤモヤが頭を離れない。
「あら? シャルロット様。どうなされたのですか? 顔色があまりよろしくないようですけど」
「え? べ、別に何でもないわ。元気そのものよ」
ドンと胸を強く打ちつけられたような鈍い痛みが走り、自分でも顔がこわばったのがよく分かった。
急に顔が熱くなり、マルネーヌに目を向けていられなくなる。
タルトだけに集中して口に運ぶが、味なんてよく分からない。
なんでマルネーヌはあんなことを言い出したのだろう?
なんで私は動揺しているのだろう?
――1回きりの人生なんですもの。素直にないともったいないですわ。
マルネーヌの言葉が浮かぶ。
素直になるってどういうこと?
好き勝手生きるのとは何が違うの?
もし素直になれたら、ズキズキとモヤモヤは抜けるのかしら?
「そう言えば去年の夏、お兄様と一緒に訪れた西の森でホタルを見かけましたわ」
マルネーヌがあっけらかんと言う。
はっとなった私は顔を上げた。
ニコリと微笑んだマルネーヌはすらすらと流れるように続ける。
「もしかしたらシャルロット様の侍女さんたちの中に、ここら辺でホタルを見た人がいるかもしれませんね」
マルネーヌが再び私の目を覗き込む。
――素直になるなら今しかありませんわ。
口には出さないけど、私を試しているのは確かだ。
私はどうすればいいの?
素直って何?
さっぱり分からないわ。
でもここで座ったままタルトを食べていても、胸の内を覆う灰色の雲が晴れないことだけは確信をもって言える。
だから私は席を立った。
「ちょ、ちょっと席を外すわね。夕食の準備をしている侍女たちにあなたの好みを伝えてくるから」
侍女たちは今、みんな夕食の支度に追われている。私は客間を出るなり、早足で彼女たちのもとへ向かった。




