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アッサム王国の王宮の敷地はかなり広大で、王族と貴族の館がある。シャルロットがマルネーヌの館へ遊びに行くのも、同じ敷地内にあって安全だから。
特にシャルロットの館の庭は特別に広くて、川、森、それに山と海まである。
言い換えれば、様々な動物や昆虫がいる、ということだ。
シャルロットとマルネーヌを客間に通した後、クロードは図書室へ直行していた。
図書室の主であるドギーが百科事典を開いたページを覗き込む。
「うむ。確かにこの辺りでホタルが生息していたという記録が残っておる」
「館が建てられてから姿を消してしまった――とも書かれているな」
「ホタルは光ることで仲間と会話しておるそうじゃ。人間たちはうるさいから静かなところで暮らそう、と誰かが言い出したのかもしれのう。はははっ」
ドギーは軽い冗談を言ったつもりなのだろうが、クロードははっとなって口元を引き締めた。
(アンナ……)
かつての相棒だった黒髪の少女が脳裏をよぎる。
アンナ・ゾーン。
5つ年下の黒髪の少女は、クロードにとって唯一の弟子であり相棒。
生まれてすぐに両親に捨てられ、育てられた教会でも、苛烈な虐待にあっていた彼女。
唯一の心の拠り所は『虫』だったらしい。
10歳の時、自分をひどい目にあわせた大人たちを虫を使って皆殺しにしたところを、グリフィン帝国の暗殺集団にかわれて、クロードのもとにやってきた。
服のいたるところに大小さまざまな虫を隠し持っていた彼女のことを、クロードははじめのうちこそ気持ち悪く思っていたが、5日もあればすぐに慣れた。
クロードはアンナに『暗殺者』としてのスキルを教え、彼女はクロードに『虫使い』としてのイロハを教えた。
――野生の虫を操るのは無理。
だから『フェイク・バグ』という魔法で人工的な虫を作り、『仲間』と思わせて操るのだそうだ。
――魔法の虫は小石で作るの。
形や大きさが虫に似ている石を二人で一緒に探したこともあった。
――フェイク・バグを使って野生の虫と『会話』させる。そうすれば野生の虫を意のままに操れる。
クロードとアンナはいつも二人で行動した。
彼らは互いを支え合い、過酷な日々を生き抜いてきたのだ。
――『虫』とクロードは私にとって大事な家族。
いつも無口で無表情だった彼女が目を細めながら、そんな風に言ってたのを、クロードは今でも鮮明に覚えている。
「ドギー。ありがとう。おかげで助かったよ」
図書室を出たクロードの頭の中には、一つのアイデアが浮かんでいた。
(フェイク・バグを使えば、ホタルを呼び集めることができるかもしれない)
ホタルと同じ大きさの小石なら中庭を探せばすぐに見つかるだろう。
しかし問題は野生のホタルだ。
居場所が分からなければ、フェイク・バグを使って導くことはできない。
(どうしたものか……)
悩みながらロビーまでやってくると、そこでクロードを待っていたのは……。
「ったく遅いじゃない! 私を待たせるなんていい度胸してるわね!」
シャルロットだった――。




