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◇◇


「おかえりなさいませ」


 マルネーヌを連れて戻った私を中庭で迎えたのはクロードだった。

 馬車を下りるなり、マルネーヌが弾んだ声をあげる。


「まあ、あなたがシャルロット様の執事さんですね。はじめまして。マルネーヌと申します」

「クロード。顔をあげて挨拶なさい」


 ゆっくりと顔を上げながら挨拶をはじめるクロード。


「はじめまして。シャルロットの執事、クロード・レッドフォックスだ。よろしく頼む」

「ふふ。あなたのご活躍(・・・)はシャルロット様からよーく聞いておりますわ」


 マルネーヌはからかうように私の顔を覗き込む。

 私は慌てて否定した。


「ちょ、ちょっと! マルネーヌ! わ、私は一言も活躍なんて口にした覚えはないんだから!」

「あら? 楽しそうにクロードさんのことをお話しされるから、てっきりそう思ってしまいましたわ」

「い、い、いつ私が楽しそうに話したのよ!?」

「ふふふ」

 

 いたずらっぽく笑うマルネーヌをクロードがまじまじと見つめている。

 

 むっ? どういうこと?

 私にだってそんな目を向けたことないくせに。

 

 マルネーヌも彼の視線に気づいたみたい。


「どうしたのですか? 私の顔に何かついてます?」

「いえ、なんでもない。噂通りの美しい女性だと感心してただけだ」


 ちょ、ちょ、ちょっと!

 何をさらっととんでもないことを言ってるのよ!

 も、も、もしかしてマルネーヌに、ひ、ひ、一目ぼれしちゃったとか!?

 

「まあ! 嬉しい!」


 マルネーヌもまんざらじゃないみたい。

 二人が目を合わせたまま、見つめ合っている。


 なんだかすごくいい雰囲気……。


 ……って、ダメよ! ダメ! ダメ!

 何がダメなのか、自分でもよく分からないけど。

 とにかくダメ!!

 ほら、身分だって貴族令嬢と執事じゃ、釣り合いが取れないし。


 ――あら? それなら問題ありませんわ。クロードさんを私の『騎士ナイト』にしてしまえばいいのですもの。『騎士』は一代だけ貴族の身分が与えられるのをシャルロット様もご存知でしょう?


 マルネーヌの心の声が脳裏に響いたところで、たまらず声を張り上げた。


「クロード! もうあんたはここまででいいわ!」  

「分かった。じゃあ俺はこれで……」


 クロードが私たちに背を向ける。

 その背中にマルネーヌが声をかけた。


「クロードさん。お待ちになって」

「ん? なんだ?」


 怪訝そうに振り返ったクロードに、マルネーヌは笑顔を振りまく。


「わたくし、シャルロット様と一緒に夏の思い出を作りたいと思っておりますの」


 何か頼み事をしようとしているのが明らかなマルネーヌの上目づかいにも、クロードはまったく動じない。


「そうか。勝手に作ればいい」


 一方のマルネーヌも、クロードの冷たい態度など意に介さずに続けた。


「ふふ。クロードさんにお手伝いいただけないかなと思いましてね」


 クロードがちらりと私に視線を送ってきた。

 「彼女はいったい何を企んでいるんだ?」と聞きたいのだろうけど、私だって同じ気分だわ。


「何を手伝って欲しいんだ?」

「シャルロット様が百科事典で調べたところ、この館のすぐ裏にある森は、ホタルの生息地だったようですね」


 確かに百科事典にはそう書かれていたけど、「館が建てられてから姿を消してしまった」とも書いてあった。

 そのことはマルネーヌにも話したはずだけど……。


「しかしホタルなんて、ここらで見たことがないぞ」

「ふふ。だからクロードさんにお手伝いいただきたいのです」

「つまり俺に『ホタルを用意しろ』と」

「今夜、私たちをホタルが見れる場所まで連れていっていただきたいのです」

「今夜か……」

「ふふ。シャルロット様もよろしいですよね?」

「へっ? あ、うん。まあ、別にいいけど」


 はっきり言って、クロードがホタルを集められるとは考えられないから、失敗は目に見えている。

 マルネーヌはどうしてこんな無茶なことをクロードに頼んだのだろう……。


 ん? 待てよ。

 これまで一度も失敗したことのない彼が悔しそうに顔を歪めるのを見られるなら、とてもいい夏の思い出になりそうじゃない!

 ふふふ。マルネーヌったら、なかなか粋なことをしてくれるわ!


「では、クロードさん。もしこのお手伝いに失敗したら、私のお願いを聞いてくださるかしら?」

「どんな願いだ?」


 コホンと咳払いをしたマルネーヌ。

 しかし彼女がしたクロードへの願い事は、とんでもないものだった――。



「冬のはじめに宮殿で開かれるダンスパーティーのパートナーになっていただきたいの」




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