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◇◇
リゼットは初めて休日で、王宮の外にある美容室に足を運んだ。
店員に促されるまま、一番奥にある革製の大きな椅子に座る。
その背後にくりっとした目が特徴的な小柄で若い女が立った。
「今日はいかがしましょうか?」
「いつも通りにお願いね。メリッサ」
メリッサと呼ばれた女が鏡越しにリゼットと目を合わせる。
「初めての休日。初めての美容室。なのに『いつも通り』というのは不自然でしょ」
「ふふ。そうね」
「リゼットさん。私はあなたより5つも年下だけど、こう見えても一流の情報屋なの。不自然な点は何一つ見逃さないんだから」
年齢の部分をやけに強調した彼女に対し、リゼットは表情ひとつ変えずに返した。
「だったらなおさら『いつも通り』でいいわ」
メリッサは、しばらくリゼットと目を合わせていたが、急に冷たい目になって声をひそめた。
「……どんな情報が欲しいの?」
リゼットは右手を軽くあげる。その手には一枚の紙。
「身分証の写しね。どれどれ……クロード・レッドフォックス。初めて聞いた名前だわ」
「シャルロット様の執事よ」
リゼットがメリッサに手渡したもう一枚の紙きれには、クロードの似顔絵が描かれていた。
「へえ、なかなかのイケメンじゃん。だから調べて欲しいわけね」
小さく首を横に振ったリゼットは、今までクロードが起こした数々の奇跡を事細かに語った。
「ウソ……。なぜそんな男を3か月も放置していたの?」
「放置なんかしてないわ。これでも私なりに調べていたつもり。そこで彼の正体がなんとなくつかめたの」
「正体?」
「誰に気づかれぬうちに近寄ることを可能にする脚力。どんな障害も排除してしまうほどの腕力。敵を拘束するインビジブル・ワイヤーを同時に3本操る魔法力……」
「まるで超一流の暗殺者ね……」
「メリッサも知ってるでしょ? 『漆黒の死神』のあだ名の由来は『黒髪』だってこと」
「ウソ……。でも漆黒の死神はアレックス卿の手で――」
そうメリッサが言いかけた時、リゼットは人差し指を自分の口元に当てた。
『黙りなさい』というサインだ。
「確信はまだないの。だから『一流の情報屋』のあなたに、クロードが何者なのか調べてほしいの」
「場合によっては始末するつもりなの?」
メリッサがごくりと唾を飲む。
しかしリゼットは彼女の問いには答えなかった。
「さあ、彼の話はおしまい。髪を切ってちょうだい! うんと可愛くしてね!」
柔らかな笑みを浮かべながら、椅子の背もたれに寄り掛かったのだった。




