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◇◇


「ふふ。それで王女様はクロードさんと侍女たちに休日を与えたのですね」


 あの日の翌日。私はマルネーヌに事の顛末を話しにいった。

 テラス席でティーカップを片手に私が口を尖らせる。


「笑い事じゃないわ、あいつ、本当に許せないんだから!」


 当然、マルネーヌも、クロードの無礼に対して怒ってくれるものだと考えていたのだけど、まるで正反対の反応。

 私とクロードの一連のやり取りを聞いて、楽しそうにニコニコしている。

 足元の子犬、モンブランも、舌を出しながらクリっとした瞳を輝かせて、私を見上げている。


 何よ! 二人(厳密には一人と一匹ね)とも!

 これじゃ、まるで怒ってる私が変みたいじゃない!


 むくれ顔でそっぽを向いてミルクティーを口に含む。

 マルネーヌの柔らかな声が耳に入ってきた。

 

「王女様。クロードさんのことがそんなに気になるなら、いっそのこと仲良しになられてはいかがです?」


 思わずミルクティーを吹き出しそうになる。

 目を見開いた私に対し、マルネーヌは何でもないようにケロッとした顔で言った。


「クロードさんだけじゃありませんわ。他の侍女とも仲良くしたら良いと思いますの」

「そんなこと……!」


 するつもりもないし、そもそも『できない』の――そう言いかけて、口をつぐむ。

 マルネーヌは私が悪魔の呪いにかかっていることを知らないからだ。

 しかし彼女は私の事情などお構いなしに続けた。


「もっとご自分に対して素直になられてはどうでしょう?」

「自分に対して素直に? 私が?」


 宮殿を追い出されてから、好き勝手生きてきたつもりよ。

 それなのに私が自分に対して素直じゃないって?

 どういうこと?


「だって王女様は皆さんに対して、名前で呼ぶようにして、休憩時間を取らせてあげて、休日も与えるようにしたのですよね?」

「ええ、まあ、そうだけど……」

「本当に嫌っていたら、そんなこと頼まれてもしませんわ。それに皆さんのお話をされる時、すごく生き生きとされてますもの。本当は皆さんのことをお好きなのかなって」

「私が……好き……」

「ふふ。特にクロードさんの話題になると王女様のテンションはすごく上がりますわ」

「んなっ……!? ちょ、ちょっと! どういう意味よ!?」


 意味ありげにニコリと微笑んだマルネーヌは、私の問いかけには答えずに、空を見上げた。

 今日も雲一つないいい天気だ。

 白い太陽が眩しい。

 マルネーヌは目を細め、噛みしめるように続けた。

 

「1回きりの人生なんですもの。素直に生きないともったいないですわ。……って、お兄様の受け売りなんですけどね」


 マルネーヌの兄と言えば、アッサム王国の一軍を率いる若き将軍。

 隣国のグリフィン帝国との戦争で功績を挙げて今の地位まで上りつめた。

 王国兵たちを震え上がらせていた絶対的な暗殺者、『漆黒の死神』と壮絶な一騎打ちの末、彼を討ち果たして帰還したことは、軟禁状態だった私の耳にすら入ったのだから、アッサム王国で知らない者はいないほどの伝説だ。

 

「お兄様は『漆黒の死神』との戦いで死に直面した時、『やり残したことがたくさんあるのが悔しい』って感じたそうよ。だからこれからはいつ死んでも後悔しないように、自分に対して素直に生きていこうって決めたようなの。それからのお兄様はいつも楽しそうにしておられるわ」

「そうなのね……」

「私は王女様にも楽しそうにしていただきたいですわ。たとえどんな運命が待ち受けていようとも――」

「えっ……?」


 もしかしてマルネーヌは、私の呪いのことを知っているの?

 でも彼女は私にそのことを質問させなかった。

 すくりと立ち上がり、白の日傘とモンブランのリードを手に取る。

 そして思い出したかのように、快活な声をあげた。


「そうだ! 次は私が王女様の御屋敷にうかがいますわ! 二人で夏の思い出を作りましょ!」


 マルネーヌは「異論は受け付けませんわ!」と言わんばかりに、モンブランを連れて中庭の方へ歩き出した。

 夏の終わりを予感させる涼風が通り過ぎる。

 綺麗に刈られた芝が音を立ててそよぐ。

 私は少しだけ乱れた髪を整えてから、マルネーヌの背中を追った。



 

 

 

 


 

お読みいただきありがとうございました。

これで第三章は終わりです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

お手数ですが、画面上部のブックマークを押していただき、下部にある評価を入れていただけるとすごく嬉しいです。

何卒ご協力をお願い申しあげます。

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