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部屋に入ると、巨大なテーブルに30冊の本がズラリと並べられ、メモするのに必要なペンと紙まで丁寧に置かれている。
クロードはテーブルの隣に平然とした顔で直立していた。
「あんた……。本当に何者なのよ……」
「執事だ」
「そ、そんなの分かってるわよ!!」
両手が塞がっているのにドアを開けることができたのは、「インビジブル・ワイヤー」という魔法を使ったからに間違いない。
でもリゼットは「インビジブル・ワイヤーを2本同時に操るのは、宮廷魔術師でも難しい」って言ってた。
それを3本同時に使うなんて、世界一の国土を誇るアッサム王国のどこを見渡してもそう簡単に見つからないだろう。
いったい何なのよ!? こいつは……。
「残念だが、執事以上でも以下でもない。さあ、約束通り、願いを聞いてくれ」
「な、なによ!」
クロードの表情が、これまで見たこともないくらいに真剣なものに変わる。
どんな願い事を口にするつもりなんだろう……?
――なあ、(一緒に)寝てもいいか?
妄想のワンシーンがよぎる。
いやいや、ありえないし、そんな願い事を言われた瞬間に王女を愚弄した罪で投獄してやるんだから!
でも……。
顔が熱くなってくるのを止められない。
胸がドキドキしてはちきれそうだ。
ど、どうしちゃったの? 私!
クロードの口がゆっくり動き始める。
だめ! それ以上、何も言わないで――!
「休日が欲しい」
……はっ?
ものすごい勢いで体の熱が冷めていく。
高く積まれた積み木がガラガラと音を立てて崩れていくのを目の当たりにしているような気分だ。
もしかして聞き間違いだったの?
それとも何か別の意味が隠されているとか?
クロードの真意を確かめるべく、私はオウム返しに彼の言葉を繰り返した。
「休日?」
「ああ、1日中ゴロゴロしようかと思ってな。あ、俺だけではなく、侍女たちにも」
どうやら聞き間違いでもなければ、何の裏もないみたい……。
グイッと身を乗り出して、私に真剣な眼差しを送るクロード。
こいつ……。
やっぱりサイテーの執事だ!!
「そんなのダメに決まってるでしょ」
私は却下した。
これまでも「フカフカの布団がほしい」とか「大きなベッドがほしい」とか、変な要求をしてきた時は拒否してきたし、クロードもあっさり引き下がった。
今日も「そうか。それは残念だ」とだけ言って、いつも通りに眠そうな顔に戻るでしょ。
ところが今回は違った。
クロードの顔が驚愕の色に変わったのだった。




