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◇◇


 本当にこれでクロードをクビにできる。言いたいこともちゃんと言えたし……。

 それでも胸の内側がモヤモヤしているから気分が悪い。

 早足で中庭を抜け玄関に入る。ロビーの先には大きな階段。私の部屋は最上階の3階だ。

 一方、百科事典が置かれた図書室は1階の奥にある。私はロビーの掃除をしていた侍女に声をかけた。


「クロードはどこ?」

「はい。図書室の方へ行ったきり、姿をあらわしておりません」

「そう。ありがとう」


 ふふ。完全に私の勝ちね。ちょっとだけモヤモヤが晴れてきたわ。

 右にリゼット、左にメアリーを従えて一段ずつゆっくりと登り始める。

 ところが、もうすぐ3階、というところで背後から足音が聞こえてきた。

 

「えっ?」


 3人して一斉に振り返る。

 目に飛び込んできたのは、片方の手に15冊ずつの分厚い本を乗せたまま階段を一段飛ばしで駆けのぼってくるクロードの姿だった。


「インビジブル・ワイヤー……。しかも2本同時だなんて信じられない」


 リゼットが険しい顔つきでつぶやいた。


「インビジブル・ワイヤーって何よ?」

「はい。見えない糸を操る魔法でございます。しかし1本ならまだしも2本を同時に操るのは、宮廷魔術師でも難しいはずです」

「だったらなんだと言うの?」

「……分かりません。ただ者じゃない、ということだけは確かですが……」


 アッサム王国きっての無双であるリゼットが、顔を青くして「ただ者じゃない」って言うんだから、よほどのことなのだろう。

 だからって私は負けたくない。

 こうなったら……。


 ――ダッ!!


 私はドレスのすそを持って駆け出した。

 階段を上り切ってから右を向く。長い廊下を抜けた先が私の部屋だ。


 足を懸命に動かす。必死すぎて周りの音が聞こえない。

 息が苦しい。

 なんで私がこんな思いをしなくちゃいけないの?

 疑問は尽きない。

 

 それでも不思議なことに、今の状況をちょっぴり楽しんでいる自分がいる。

 こんな風に誰かと張り合ったのなんて、生まれて初めてかもしれないからかな?


 あと少し!

 あとドア3つ分を駆け抜ければ私の勝ち!


 ……と、次の瞬間。


 ――ブワッ!


 一陣の風が通り抜けていったかと思うと、クロードの背中が私の前にあるではないか……。


「ま、待ちなさい!」


 けどクロードは止まらない。


「部屋で待ってる」

「どうせ両手がふさがってちゃ、ドアを開けられないでしょ!」


 クロードが私の部屋の前で立ち止まった。

 ここで半分だけ本を置いて、ドアを開けてからもう一度本を持ち上げる余裕はないはず。


「ははは! 私の勝ちよ! あきらめなさい!!」


 あとドア1つ分で追いつく。

 やっぱり最後は私が勝つに決まってるわ!

 だが、クロードは淡々とした声色で言い放った。


「勝つのは俺だ」


 そして彼が右手の人差し指をドアに向けた直後。

 

 ――ガチャッ……。


 なんとドアが開いたのである。


「んなっ!?」


 驚きと悔しさが混じった甲高い声が口をついて出てくる。

 そんな私をちらりと見たクロードは、


「じゃあな」


 とだけ告げてから、部屋の中へ消えたのだった。


  

 

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