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◇◇


 あと2年以内に悪魔から体を乗っ取られる運命の私。

 だから誰に嫌われようと関係ないと思っているし、私自身も誰からも好かれたいなんて考えてなかった。

 

 でも今日のクロードの態度にはすごく腹が立ったわ。

 まるで私がいなくなった方がせいせいする、みたいな声だったもの。

 別にあんな訳わからないヤツのことなんてどうでもいいはずなのに、どうして胸を掻きむしりたくなるようないら立ちを覚えてるんだろう?

 そんな自分にも憤りを感じる。


 だから私はマルネーヌに招かれたゲストルームで、レモンティーと甘いクッキーを口にながら不満を爆発させた。


「でね、うちの執事ときたら、ほんと最悪なのよ!」


 柔らかな雰囲気のまま、大きなたれ目をぱちくりさせるマルネーヌ。


「どうしてそうおっしゃるの?」


 おっとりした性格をそのまま表したような口調の彼女に対し、私は大雨の後の水車のように舌を回した。

 まずは今日のクロードとの一連のやり取りを話したが、それでも腹の虫は収まりそうにない。


「昨日なんてね。私の部屋にピッタリな花を飾りなさい、って命令したら、ジャスミンの花束を持ってきたの。普通そこはピンク色のバラとかでしょ? なんでこの花を選んだのか、って聞いたらなんて答えたと思う? 『ジャスミンの香りには安眠の効果があるからな』って! まったくロマンの欠けらもないんだから!」

 

 私が口を尖らせている間も、マルネーヌは何やら楽しそうにニコニコしている。

 そして意外なことを言い出したのだった。


「ふふ。面白い執事さんですね」

「面白くなんかないわ! あいつは寝ることしか考えていないの!」

「会ってみたいですわ。その執事さんに」


 いったいどういうこと?

 なんでマルネーヌがクロードに会いたがっているの?

 私は素直に疑問をぶつけた。


「どうして?」

「王女様がそんなに興味を示されている御方に、私も会ってみたいのです」

「興味? 私が?」

「だってここ最近、ずっとその執事さんのことばっかりお話しになられてるでしょ。よほどお気に入りなのかな、って」


 ちょ、ちょっと!!

 私がクロードのことを気に入っているですって!?

 ありえない! 絶対にありえないから! そんなこと!!

 私が悪魔になったら、真っ先にあいつを食ってやるって決めてるくらいなのよ!

 細身のくせして、服の上からでも分かるくらいの豊かな筋肉が美味しそうなんて、微塵も思ってないんだかね! 思ってないんだからね!

 大事なことだから心の中で二度言ってみたが、私の運命のことを知らないマルネーヌに話せるはずもない。

 だからここは落ち着いて、当たり障りないことを言わなくては。


「バカ言わないでよ! あんなヤツ、一度でもヘマしたら即クビにするんだから!」

「でも一度もミスを犯さない。敬語は使えないけど期待した以上に仕事をこなす。しかもまだお若い」


 意味ありげにマルネーヌが私の目を覗き込んでくる。

 ほんわかした天然系のくせして、妙に鋭いところがあるのは何となく気づいていたけど、まさか言い逃れを許さないようなプレッシャーをかけてくるなんて想像すらしなかったわ。

 私はたまらずに顔をそらした。


「だ、だからなんだって言うの?」

「ふふ。王女様の興味を引くのも分かりますわ。私のお兄様といい勝負かもしれませんわ」

「あ、あ、あんなヤツのことなんて、これっぽっちも興味なんてないんだから!」


 マルネーヌの視線が、傍らに置いた本に注がれる。


「だったらあの本のようなシチュエーションになったら――王女様はいかがなさるおつもりですか?」

「えっ?」


 『純情王女、俺様系わがまま執事に壁ドンで迫られる~「好きにしていいわ!」からはじまる危険な恋~』だ。

 恋をしたことのなかった王女がイケメン執事に壁ドンで迫られるシーンのイラストが脳裏に浮かんできた。

 しかもあろうことか、イケメン執事がクロードと入れ替わっている……。


 ――なあ、寝てもいいか?

 ――す、好きにしていいわ!

 ――そうか。ならそうさせてもらおう。

 ――えっ? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! なんで私をお姫様抱っこするの!?

 ――寝るって意味が分からなかった、とは言わせないぞ。

 ――ええ~~~っ!!


「王女様? 大丈夫ですか」

「へっ? あ、ああ、うん。もちろんよ!」


 いったいどうなってるのよ!?

 なんで私があり得ない妄想で意識を飛ばさなくちゃいけないの?

 

「んで、王女様はどうされるおつもりなんですか? もしクロードさんに壁ドンで迫られたら」


 そうね。

 私も覚悟を決めなくちゃ。

 

 クッキーをバクバクと口に放り込み、紅茶をぐびっと飲み干した私は、ぐっと腹に力を入れて答えた。



「そんなの決まってるでしょ。クビよ」



 自分でも驚くくらいに低い声。

 マルネーヌが青い顔をして、私を見つめている。

 ちょっと怖がらせちゃったかしら?

 でも関係ないわ。

 だって本当のことを言っただけだもの。

 そうよ。今まで私はあいつに甘すぎたのよ。

 

 もう容赦しないわ。

 絶対にクビにしてやるんだから――。


 決意を新たにした私は足元でお座りをしていたモフモフの子犬――モンブランを抱き上げた。


「さあ、この子のお散歩にいきましょ」と告げてから、颯爽と席を立ったのだった。




 




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