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◇◇
夏真っ盛りのある日。
灼熱の太陽の下、ひまわり色ドレスを着た私は使用人たちを中庭に集合させた。
「これから私の忠実な臣下であるマルネーヌのところへ行ってくるわ!」
そうよ。王女の私にしてみれば、貴族のマルネーヌは臣下のひとりに過ぎない存在。
「臣下をねぎらうのも王女としての務めよね?」
特に暑い今の時期に倒れられたりしたら大変だ。
だから3日に1回のペースで『様子見』をするのは当たり前だと思うの。
「クロード、答えなさい」
「まあ、そうだな。いいと思うぞ。王女らしくて」
んなっ!?
な、何よ! いつも通りの眠そうな顔で、さらっと褒めるんじゃないわよ!
ちょ、調子が狂うじゃない!
「見え透いたお世辞なんていらないわ」
腕を組んで顔をそむける。
……でも、ふわりと浮くような心地よさを感じてるのは否めない。
「し、仕方ないから今日も彼女のところへ行ってくるわ。あ、支度はもうできてるからいいの。昨日のうちにマルネーヌが喜びそうなお菓子や本を選んであげたのよ。この私自らがね。偉いと思わない? クロード、答えなさい」
「ああ、シャルロットが気にかけてくれるなんて、マルネーヌは幸せだ」
「ふふ。シャルロット様は下の者たちに施しを与える天使――クロードはそう言いたいのね」
クロードは無言のまま、頭をちょこんと下げた。
その通りです、と言ってるようなものじゃない!
「むふふふふ♪ クロードは素直じゃないんだから。でもいいわ。今日は許してあげる」
意味もなくクルリと一回転した私に、クロードがさっと一冊の本を差し出してきた。
『アッサム王国史第16巻』ね……。
どれどれ中身は……。
「ぐへへっ」
やばっ! 侍女たちの前なのに、だらしなく頬が緩んじゃったじゃない!
おのれぇ、クロードめ。
『純情王女、俺様系わがまま執事に壁ドンで迫られる~「好きにしていいわ!」からはじまる危険な恋~』
なんて持ってくるんじゃないわよ!
……でも執事が差し出した貢物を突き返したら、王族としての器が知れるってものよね。
仕方ないから読んであげる。
「じゃあ、いってくるわね!」
馬車に乗り込もうと足を一歩踏み入れる。
と、その時だった。
「おうっ!」
クロードの弾んだ声が聞こえてきた。
はっとなって振り返ると侍女たちの顔も緩んでいる。
そうか。みんな喜んでいるのだ。
私が館からいなくなるのを。
なんだかムカムカするわね。
それも、これも全部クロードのせいよ。
せっかくのいい気分が台無しだわ!
「クロード! 庭の草むしり、窓の拭き掃除、本棚と机の上の整理、着換えと飲み物の準備。私が帰ってくるまでに一つ残さずやっておくのよ! もしできなかったら即クビにしてやるんだから!」
「分かってるから早く行って来い。マルネーヌが待ってるぞ」
何よその言い草!
文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。
でもマルネーヌが待ってるというのは本当のことだ。
納得がいくまで髪型をセットしていたものだから、既に1時間以上も約束から遅れている。
「言われなくても行くわよ。それよりも一度言ったことはちゃんとやるのよ! 私、口だけの人間は嫌いなんだから」
そう釘をさした後、馬車に乗り込んだのだった。




