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◇◇
シャルロットを乗せた馬車が完全に見えなくなったその瞬間……。
「やったぁ!!」
侍女たちが一斉にわきたった。
メアリーがクロードの手を取って、飛び跳ねる。
「クロード! ありがとう! おかげでみんなとのんびりとランチができるわ!」
別に彼女たちのランチタイムのために骨を折ったわけじゃない。それでも誰かに感謝されるというのは悪くないな、とクロードは微笑を浮かべた。
館に戻った後、侍女たちがキッチンへ向かっていく一方で、彼が向かったのはシャルロットの寝室だった。
言うまでもなく、やることは一つ。
最高級のベッドで昼寝だ――。
(俺のおかげで、念願の友達を作ることができたのだから、褒美をいただいて当然だよな)
主人のベッドを使う罪悪感や、少女の寝床をけがす背徳感など微塵もない。
これまで自分のことをモノとしか扱ってこなかったヤツらに初めて勝利したような、無上の達成感がこみ上げてくる。
(よっ)
息を止めて、ベッドにダイブした。
ボフッと音を立てながら、体がゆっくりと沈んでいく。
まるで水の中に浮かんでいるような気分だ。
太陽の香りが鼻をくすぐる。
全身が溶けるような心地よさ。
思わずため息がもれた。
「ふわぁぁ。最高だ」
クロードの見立てでは2時間は帰ってこないはずだ。
もしその前に帰ってきても、彼の耳は馬車の音を見落とさない。
だから心置きなく寝息を立てたのだった。
◇◇
まさにクロードの言った通りだった。
「シャルロット様、一緒にお出かけしません?」
透明のティーポットから、クロードから手渡されたレモンティーがなくなったところで、マルネーヌは上目遣いで私に問いかけてきた。
期待に輝かせた瞳と、ほのかに赤みを帯びた頬。
決して私をからかっているわけではないのは分かっている。
それに私だって、ほんのちょっとは、外を歩きたい気持ちがある。
で、でもそれはアルメーヌの屋敷の庭が広くて、可愛らしい花がいっぱい咲いてるからで……。
「ワンッ!!」
煮え切らない私の態度にやきもきしたのか、足元で大人しくしていた子犬が甲高い声で吠えた。
「ふふ。ワンちゃんもお散歩したいみたいですわ」
マルネーヌが小さな手を口元に当てて笑いだす。
作り笑いではない笑顔を見るのは、どれくらいぶりだろうか……。
ぐるぐると頭を巡らせる。
ふっと浮かび上がったのは、死んだソフィアお母さまの顔だった。
私が描いた絵を、嬉しそうに手に取ったソフィアお母さまの顔。
すごく褒めてくれた声。
抱きしめてくれた温もりと匂い――。
幸せだった時の思い出がぎゅーっと頭の中に詰め込まれていって、今どこにいるのかさえ忘れかけてしまう。
「行きましょう! シャルロット様!」
マルネーヌの手が優しく私の手に触れて、現実に引き戻された。
「王女様、無理には……」と言いかけたリゼット。
彼女が言いたいことは百も承知よ。
これ以上、マルネーヌと深くかかわるなってことでしょ。
でも私は彼女のことを目で制した。
なぜなら私は……。
――大丈夫。絶対に仲良くなれるから。
クロードの言葉を信じることにしたのだ。
もしウソだったらクビにしてやるんだから!
細い目を見開くリゼットをよそに、すぅと息を大きく吸った私は席を立ち、子犬のリードを握った。
「仕方ないわね。ちょうどこの子にお散歩させようと思っていたところなの。ついてきたいなら、止める理由はないわよ?」
ぱぁと顔を明るくしたマルネーヌは、
「はい! お供させていただきます! シャルロット様!!」
突き抜けるような声で返事をしたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
これで第二章は終わりです。
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